オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

文字の大きさ
58 / 95

他の肉食獣

しおりを挟む
こうして何とかテチチ竜テチチは退けたものの、やはり状況そのものは何一つ改善していなかった。餌が根本的に足りないのだ。しかも、他の肉食獣らも当然のごとく餌が不足しており、普段はそこまで関わり合いになることもない肉食獣とまで関わることになってしまっている。

獲物が豊富にいた時には、奪い合いになることもなかったというのに。

テチチ竜テチチと遭遇したのも、移動を続けたことでその生息域に入ってしまったことが直接の原因だった。

そして今度は……

何やら、奇妙な姿をした獣だった。後ろ足二本で立っているのは自分達と同じだが、尻尾もなく酷く頼りない感じの立ち姿をした獣だった。

カーキ色の毛皮に覆われ、頭には長い黒い毛が。

レオンと呼ばれる種族だった。同じく草原を主な生息地にしている獣ではあるもののジャックが生まれた辺りでは見掛けないそれだ。

体はテチチ竜テチチよりずっと大きいが、なんだか強そうには見えない。危険そうな印象はない。ただ、その目は鋭く険しくこちらを睨み付けてくる。

向こうもかなり飢えているのは察せられた。だからもう『そのつもり』なんだろう。

しかし、その時には襲ってこなかった。明らかに敵意は見えるものの、踵を返して去っていく。

ジャックの仲間達はそれを見て緊張を解いたが、ジャックだけは腑に落ちないものを感じていた。

『何かおかしい……』

得体のしれない不安感と不穏さが拭えなかったのだ。

とは言え、今日のところは休むことにする。

幼体こども達は虫を捕えて飢えをしのぎ、成体おとな達も同じように虫を捕えるものの、当然ながらまったく腹の足しにはならなかった。子供達はすでに十二頭にまで減っている。死んだのは、ほとんどが飢えに耐えられず、眠ったまま起きてこなかった者だ。そして死んだ幼体こども達は、生き延びた者達の糧となった。

死んだのは幼体こども達だけではない。成体おとなの数もすでに十五頭にまで減っている。こちらは猪竜シシや他のオオカミ竜オオカミの群れと戦った際に命を落とした者がほとんどだったが、ここから先もこの状態が続けば、成体おとな達にも飢えて死ぬ者が増えるだろう。

しかも、雌はもう卵を産まなくなってしまった。今の状況では幼体こどもなど育てられないからだと思われる。飢えが強いストレスになっているというのもある。ジャックがまだ縄張りを得られておらず頻繁に寝床を変えていた頃と同じだ。

日が暮れて空に星々が瞬き出すと、ジャックは思った。

『あのキラキラしたものが食べられれば、腹も膨れるだろうか……?』

と。

もちろん空の星は食べられるわけもないが、ついそんなことも思ってしまうほどに、星空の美しさとは裏腹に厳しい状況であった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...