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エピローグ
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その後、一度は散り散りになってしまったジャックの群れだったが、逃げ延びた者の半数は幼体達が待っていた場所へと帰ってきた。そこにはもちろん、ジョーカーの兄の姿もあった。そして、ジョーカーとクイーンの子供の姿も。
なのに、ジャックの姿はない。しかも、ジョーカーの兄の酷く落ち込んだ様子に幼体達も察してしまった。
『ジャックはもう帰ってこない……』
と。
人間のように泣いて悲しんだりはしないものの、
「オオオ……オオオオオオオーッッ!」
ジョーカーの兄が口を天に向け悲し気な声で吠えると、
「オオオー……!」
幼体達も声を揃えて吠えた。それはまるで、ジャックをはじめ命を落とした仲間達へ向けての<鎮魂の歌>のようでもあっただろう。
それでも、野生に生きる者は、いつまでも悲しみを引きずっていることはない。そんなことをしている余裕もない。常に命の危険に曝されているからだ。生きるためには頭を上げて前を向くしかない。食うしかない。戦うしかない。
加えてジャックは、自身がいなくても群れが成り立つように、しっかりと後進を育ててくれていた。ジョーカーの兄がそのままボスの座に収まり、群れを率いていたのだ。
確かにすんなりとはいかなかった。特に、途中から群れに加わった者達の中にはこのチャンスを逃すまいとしてボスの座を狙ってきたりする者もいた。けれど、ジョーカーの兄はそれらの者をことごとく退けていき、結果としてボスの座に収まってみせた。
なお、この時、群れは、成体十頭、幼体十四頭となっていた。生き延びた者は他にもいたが、結局、戻ってこなかったのだ。そしてどうやら、他のレオンなどに襲われて命を落としたものと思われる。
しかしこれによって、獲物の数と必要な餌の量のバランスが取れるようになり、群れは生き延びることに成功した。そうだ。皮肉な話であるものの数が減ったがゆえに救われたというわけだ。
併せて、ボスとなったジョーカーの兄は、もう、レオンにもロボットにもアラニーズにも決して近付かないように仲間に言い聞かせた。あれらに関わるとロクなことがないと察したがゆえに。
何より獲物の数は足りている。加えて向こうもこちらには関わってこない。向こうが襲いかかって来るのであれば迎え撃たなければいけないが、そうじゃないのだから、別にそのままにしておけばいい。
幼体達も、特にジャックの子供達は知能も高く、その辺りのことをよくわきまえてくれていた。もちろん中には無謀なことをして命を落とす子供もいたりしたが、唯一生き残ったジョーカーとクイーンの子供は、子供達のリーダーとして、しっかりと面倒を見てくれていた。ジャックの姿から何か学ぶものがあったのかもしれない。
こうしてかつてジャックが率いていた群れは、平穏を得た。あまりにも大きな犠牲を払った上ではあるものの。
それでもなお、野生では生き延びた者が勝ちなのだ。そして、仲間や子供達を生き延びさせたことで、あくまでも結果論ではあるものの、ある意味ではジャックの勝ちだったとも言える。
季節は巡り、ジョーカーの兄が率いるその群れでは、新しく幼体達も生まれてきた。そしてジョーカーとクイーンの子供もすっかり大きくなり、もう並みの成体では全く敵わないまでに強くなった。
しかも、群れの一部を率いて、狩りも行なってみせる。ジャックがいた頃にはジョーカーの兄が行なっていた役目を、ジョーカーとクイーンの子供が引き継いだのだ。それを見事なまでにこなしてみせている。
また、獲物の数も増えたことで、さらにもう一つグループが作られ、狩りを行い始めてもいる。それを率いているのはジャックの子供だった。まだまだ若く未熟なため成功率そのものは決して高くはないものの、しっかりと、ジャックが存在した証は受け継がれている。
そんなオオカミの群れの上空には、<奇妙な鳥のような何か>の姿。それはオオカミの動向を見守るために配されたドローンであった。それが、ジャック達の群れの動きを常に見つめていたのだ。だからあの小山の周りを縄張りにしていたレオン達を守っていた者からは全てお見通しだったわけである。いくら知能が高かったジャックといえど、
『ドローンを介して見張る』
などという発想についてはまるで理解の外だったためにそれらを関連付けて考えるということはできなかったのだ。だからそれは決してジャックが愚かだったわけでも無能だったわけでもない。いわばこれは神の視点を持つ者とそうでない者の違いでしかなかったのである。
ジャックはただ純粋に己の生をまっとうしたにすぎない。
これはただそんな彼の生涯を記録しただけのものにすぎない。
そしてこの世界では今日も変わることなく無数の命が懸命に生きている。その事実だけが重要だし、それ以外についてはとても小さな小さな物語のひとつなのであった。
~了~
なのに、ジャックの姿はない。しかも、ジョーカーの兄の酷く落ち込んだ様子に幼体達も察してしまった。
『ジャックはもう帰ってこない……』
と。
人間のように泣いて悲しんだりはしないものの、
「オオオ……オオオオオオオーッッ!」
ジョーカーの兄が口を天に向け悲し気な声で吠えると、
「オオオー……!」
幼体達も声を揃えて吠えた。それはまるで、ジャックをはじめ命を落とした仲間達へ向けての<鎮魂の歌>のようでもあっただろう。
それでも、野生に生きる者は、いつまでも悲しみを引きずっていることはない。そんなことをしている余裕もない。常に命の危険に曝されているからだ。生きるためには頭を上げて前を向くしかない。食うしかない。戦うしかない。
加えてジャックは、自身がいなくても群れが成り立つように、しっかりと後進を育ててくれていた。ジョーカーの兄がそのままボスの座に収まり、群れを率いていたのだ。
確かにすんなりとはいかなかった。特に、途中から群れに加わった者達の中にはこのチャンスを逃すまいとしてボスの座を狙ってきたりする者もいた。けれど、ジョーカーの兄はそれらの者をことごとく退けていき、結果としてボスの座に収まってみせた。
なお、この時、群れは、成体十頭、幼体十四頭となっていた。生き延びた者は他にもいたが、結局、戻ってこなかったのだ。そしてどうやら、他のレオンなどに襲われて命を落としたものと思われる。
しかしこれによって、獲物の数と必要な餌の量のバランスが取れるようになり、群れは生き延びることに成功した。そうだ。皮肉な話であるものの数が減ったがゆえに救われたというわけだ。
併せて、ボスとなったジョーカーの兄は、もう、レオンにもロボットにもアラニーズにも決して近付かないように仲間に言い聞かせた。あれらに関わるとロクなことがないと察したがゆえに。
何より獲物の数は足りている。加えて向こうもこちらには関わってこない。向こうが襲いかかって来るのであれば迎え撃たなければいけないが、そうじゃないのだから、別にそのままにしておけばいい。
幼体達も、特にジャックの子供達は知能も高く、その辺りのことをよくわきまえてくれていた。もちろん中には無謀なことをして命を落とす子供もいたりしたが、唯一生き残ったジョーカーとクイーンの子供は、子供達のリーダーとして、しっかりと面倒を見てくれていた。ジャックの姿から何か学ぶものがあったのかもしれない。
こうしてかつてジャックが率いていた群れは、平穏を得た。あまりにも大きな犠牲を払った上ではあるものの。
それでもなお、野生では生き延びた者が勝ちなのだ。そして、仲間や子供達を生き延びさせたことで、あくまでも結果論ではあるものの、ある意味ではジャックの勝ちだったとも言える。
季節は巡り、ジョーカーの兄が率いるその群れでは、新しく幼体達も生まれてきた。そしてジョーカーとクイーンの子供もすっかり大きくなり、もう並みの成体では全く敵わないまでに強くなった。
しかも、群れの一部を率いて、狩りも行なってみせる。ジャックがいた頃にはジョーカーの兄が行なっていた役目を、ジョーカーとクイーンの子供が引き継いだのだ。それを見事なまでにこなしてみせている。
また、獲物の数も増えたことで、さらにもう一つグループが作られ、狩りを行い始めてもいる。それを率いているのはジャックの子供だった。まだまだ若く未熟なため成功率そのものは決して高くはないものの、しっかりと、ジャックが存在した証は受け継がれている。
そんなオオカミの群れの上空には、<奇妙な鳥のような何か>の姿。それはオオカミの動向を見守るために配されたドローンであった。それが、ジャック達の群れの動きを常に見つめていたのだ。だからあの小山の周りを縄張りにしていたレオン達を守っていた者からは全てお見通しだったわけである。いくら知能が高かったジャックといえど、
『ドローンを介して見張る』
などという発想についてはまるで理解の外だったためにそれらを関連付けて考えるということはできなかったのだ。だからそれは決してジャックが愚かだったわけでも無能だったわけでもない。いわばこれは神の視点を持つ者とそうでない者の違いでしかなかったのである。
ジャックはただ純粋に己の生をまっとうしたにすぎない。
これはただそんな彼の生涯を記録しただけのものにすぎない。
そしてこの世界では今日も変わることなく無数の命が懸命に生きている。その事実だけが重要だし、それ以外についてはとても小さな小さな物語のひとつなのであった。
~了~
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