悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ギャナンの章

出会い

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<立体パズルのような何か>が消えた後も、どうやら餌を持ち帰ったらしい
<蝙蝠に似た何か>がいくつか集まってくるものの、<蜂の巣のような何か>の周りを飛び交うものの、それ以上、何も起こらなかった。

「……」

ギャナンとしてもどうすることもできないので、そろりそろりと、その場を後にする。こうして十分に離れたと思ったら、背を向けて走り出した。とにかく走った。

やがて走り疲れたギャナンは、<道>に出た。そう、道だ。何度も馬車が通ったことを示す轍が刻まれた、未舗装の道だった。どうやら森を縦断するためのもののようだ。

「……」

ギャナンはそこを、当てもなくただ歩いた。とぼとぼと。ただとぼとぼと。裸足で。粗末な格好で。

途中、何度か馬車とすれ違ったり追い越されたりしたが、それらに乗った人間達は、彼に気付きながらも、わざと視線は向けずに通り過ぎた。厄介事に巻き込まれたくないと思ったからだろう。

それこそ幽鬼のようにぼさぼさの髪が伸び放題でその奥から覗き込むようにして真正面をじっと見つめているだけのかおが恐ろしげだったのだ。

浮浪児としても明らかに異様な気配を放っている。

なのに、世の中には底抜けにお人好しな人間もいるものだ。何台目かの馬車が彼を追い越した後、その場に停車した。そして、降りてきた御者は、

「おい、ボウズ、こんなところを一人で歩いてるのか……?」

とギャナンに声を掛けてきた。

顔に大きな傷と、明らかに視力を失っているであろう白く濁った左目を持つ、一見するといかめしい様相の初老の男だった。

「……」

ギャナンは、声には出さず頷いた。

「この先の街に行きたいのか?」

「……」

隻眼の男の問い掛けにやはり黙って頷くギャナンに、

「じゃあ、乗ってくか?」

馬車を指差しながら言った。

「……」

ギャナンが頷くと、隻眼の男は、

「なら、決まりだ」

彼を軽々と抱き上げて、そのまま馬車に戻った。そして自分の隣にギャナンを座らせて、発車する。

「俺の名前は、ボリス・カレンバハ。まあ、見ての通り軍人崩れだ。戦で左目と左耳をやられちまって、軍からはお払い箱になったんだが、その頃の伝手でこうやって運送の仕事をしてる。今も、この先の街まで荷物を届けるところだ」

<ボリス>と名乗った隻眼の男は、いかにも不器用な感じで笑みを作ってギャナンに話し掛けた。すると、

「ギャナン……」

ギャナンは、ぽつりと自分の名だけを呟いた。それにボリスは、

ギャナンガキって、俺は見た通りガキなんかじゃ……」

と言いかけたが、そこでハッと気付き、

「もしかして、お前の名前か……?」

と問い掛けたのだった。

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