悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ギャナンの章

またケツでも拭かせるか

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そうやってパン屋の男はあたたかく迎えてくれたものの、一緒に店に出ていたアラベルの形相は、尋常なものではなかった。ようやくいなくなったと思った邪魔者がまた帰ってきてしまったからだ。

が、

『帰ってきちまったものはしょうがねえ。またケツでも拭かせるか』

彼女がギャナンに尻を拭かせたりしていたのは、確かに腹が大きくなって尻が拭きにくかったのもそうだが、それ以上に、彼が逃げ出してくれることを期待してのことだったようだ。

にも拘らず戻ってきてしまったことで、改めて嫌になって逃げだすような扱いをしようと考えたのである。



一方、森の中でギャナンが遭遇した<蝙蝠に似た何か>の方については、巣らしきものがスライスされて破壊されたからか、しばらく飛び回っていたもののやがて力尽きて地面に落ち、動かなくなってしまった。

そして、ギャナンはそこまで気付かなかったようだが、いや、気付いていて敢えて気にしなかったのかもしれないが、巣らしきものの周囲には無数の骨が落ちていて、しかもその中には、明らかに人間の頭骨らしきものも交じっていた。

大きさからすると、子供のそれと思しき。

あまり人間が踏み込むような場所ではないことですぐに発見されるものではなかったにせよ、発見されれば連続行方不明事件との関連が取り沙汰されるに違いない。

なのに、そこに何とも言えない臭いが立ち込め始める。元々、無数の遺体の残骸が散らばっていたことで独特の臭いはしていたものの、それとは比べ物にならないくらいの<異臭>であった。場合によっては、目を開けていることすら辛くなるレベルの。

すると、その臭いに続いて、木々の間から得体のしれないものが滲み出してきた。

そう、『滲み出してきた』という表現がぴったりな現れ方だった。なにしろ明確な形というものが見出せないのだ。見るだけで吐き気をもよおしそうな不快なピンク色のそれは、腐りかけの肉の塊のようにも見えつつ、しかし表面はゆるゆると流れるように渦を巻くように間違いなく動いていた。

無理に例えるなら、

<腐った肉の色をしたシャボン玉>

とでも言えばいいのか。

さらにそれは、押し出されるようにして森の中から出てきて、<手足が生えた蜂の巣のようなもの>に覆い被さってきた。それと共にさらに臭いが強くなる。その場にいると、一息呼吸しただけで嘔吐するどころかあまりの臭気に意識さえ失いそうなほどの凶悪な悪臭だった。

そうして<手足が生えた蜂の巣のようなもの>を完全に包み込んだ後は、その周囲に散らばっていた遺体の残骸や<蝙蝠に似た何か>まで覆っていったのだった。

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