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新世代

明編 生まれてきて良かったと

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新暦〇〇二八年十二月六日。



ひなたは、生まれて二週間ほどで、

「う、うー…あー……」

ひかりに抱かれてそんな声を上げていた。<クーイング>ってやつだ。人間でも早い子なら一ヶ月くらいしたらそんな声を上げ始めることもあるらしいが、さすがに成長が早い。

つぶらな瞳で見詰めながらそんな声を出されると、たいていの人間は顔がにやけてしまうだろうな。

かつてはクールな印象だったひかりでさえ、メロメロだったし。

「は~い、あーですね」

とか、後で冷静になって自分の姿を見たら赤面ものだろうなというくらいにデレデレだったんだ。

まどかの時もそうだったがやはり自分の子というのがさらに魅力を倍増させているんだろう。

そんなひかりひなたを、じゅんが甲斐甲斐しく世話をする。

野性の動物の雄は子育てをしない者も多いらしいが、直接子供の世話はしなくても、子供の世話をしている雌の世話をする者も珍しくないようだ。

人間はどうにも、

『子育ては母親の仕事だ』

とか今なお言いがちだが、実際には野生でも雄が甲斐甲斐しく世話をする事例はあるんだよな。

俺自身が何度も子供の世話をしてきたことで、要するに面倒なことはやりたくないという言い訳に使ってるだけだろうなという実感しかない。

ただの<言い訳>をいかにも正論であるかのように偉そうに垂れるから反発も受けるんだろうに。

まあ、他人の家庭の事情にあれこれ言っても始まらないか。とは言え、そうやって言い訳を偉そうにのたまっておいて、

『妻や子供が自分を敬ってくれない』

とか泣き言を並べるのは情けないという印象しかないんだ。わざわざ自分から敬えない振る舞いをしておいて『敬ってくれない』なんてのは。

俺は、嫁や子供達に敬ってもらおうとは思ってなかった。自分にそんな価値があるとも思っていなかったし、

『敬ってもらえて当然』

なんて考えてる大人はむしろ馬鹿にしてたからな。だから自分のことも敬ってもらおうなんておこがましいと思ってた。

が、がくの時にも、ほまれ達は俺のために戦ってくれた。こんなだらしなくて駄目な俺のために……

ホントに、嬉しくてたまらないよ。

生きていてよかったと、自分で死を選ばなくてよかったと、しみじみ思う。

俺の命が子供達に引き継がれたことが、結果として光莉ひかりの、妹の命と存在が引き継がれたことになる気がしてしまう。あの子の直接の子供はいなくても、あの子が両親から受け継いだ遺伝子と同じものを引き継いだ子供達がどんどん増えていってるんだ。

本当にすごいことだよな。

そういう意味ではれいは、俺や妹と同じ遺伝子は引き継いでいないものの、こうして俺の下で育つことで、俺や妹の<存在>を引き継いでいってくれてるんだと思える。



れい、生まれてくれてありがとう。

君が、『生まれてきて良かった』と自分でも思えるように、俺達も頑張るよ。

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