悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

文字の大きさ
83 / 112
牢獄の女怪

メンテナンス

しおりを挟む
『自分に仕えてくれて当然』

実際は、ミカはそんなことは思っていなかったが、確かに労いの言葉の一つも掛けようとはしなかった。そうなると人間はどうしてもネガティブな方向に受け取ってしまいがちになるのだろう。

けれど、自分に対する印象が悪くなるのを承知した上で、ミカは敢えて労ったりしない。感謝の言葉も、笑顔も、何一つ示そうとしない。一体、彼女の精神構造はどうなっているのだろうか?

それとも、看守長が感じたとおり、彼女は本当にこの世に顕現した<神>だとでも言うのか?

ともあれ、ミカはただ淡々と自身の<務め>を果たすことを貫いているだけだった。

二日目までは希望者が殺到したこともあって朝から夜まで休みなく男達の相手をすることになったために、最後にはほとんど意識を失うような状態だったりもしたものの、さすがに『毎日かかさず女を抱く』ほど精力に溢れている男ばかりというわけでもなく、三日目ともなれば一度に相手をする数も減り、自分で歩いて風呂にも行けた。

「……」

冷たい眼で周囲を見渡し、元メイドの囚人達が自ら動いて洗いにこないことを確認すると、彼女は自分でまず股間を洗い出した。

男達の吐き出した精がとめどもなく溢れてくるのを、自身の指を突っ込んで掻き出すようにして洗う。はっきり言ってあれほど延々と相手をさせられては粘膜すら擦り切れてひりひりと痛んでいるだろうが、ミカは敢えてそれを無視。

その痛みに構わずに丁寧に洗うことで清潔を保ち傷の治りを早めるのである。

それと同時に、痛みがどの程度のものかも確認し、明日も問題なく務めが果たせるかどうかを自らの頭の中で検討する。

正直なところ、一日二日くらいは休んで回復を図ったほうがいいかもしれないとも思ったが、彼女はそれを口にするのではなく、

『一晩で回復させる』

ことを選んだ。

こんなことで音を上げていては、

<可哀想な女>

になってしまう。そんなことは認められない。

股間を洗い終えると、今度は頭を洗う。指先で丁寧に地肌をマッサージし、良好な血行を保つ。頭髪が健康でないと見た目が途端にみすぼらしくなる。それを回避しなければならないからだ。

頭をすすぎ、次は体に移る。布などは敢えて使わず、たっぷりと泡立てた石鹸を素手で体に撫で付け、やはりマッサージのようにして洗う。布で強くこすっては皮膚に細かい傷を付け、かつ、皮膚にいる常在菌を必要以上に洗い流してしまい、逆に状態を悪くしてしまうことがあるとミカは知っていた。

彼女のそれは、

『風呂で体を洗う』

と言うよりも、

『超のつく精密機械を徹底的にメンテナンスしている』

と言った方が近いかもしれない、職人のそれにも通ずる綿密な<作業>であった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...