悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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牢獄の女怪

普通なら

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ミカ自身は平然としていたが、彼女が看守らの子を妊娠しそれを流産したという事実は、当事者達に何とも言えない感覚をもたらした。

とは言え、男達の方は、普通ならそんなことを気にしたりはしなかっただろう。それを気にするようなタイプであればそもそも事に及んだりしなかっただろうと思われる。

しかし、彼らが抱いた相手は<普通>じゃなかった。自分達がどれほど見下し蔑み罵り嬲ろうとも決して屈することがなかったのだ。

当然である。彼女は自身の境遇のすべてを受け入れ、甘んじていたのだから、屈するも何もない。その上で自分の役目を果たそうとしているだけに過ぎない。そんな彼女の姿に何かを感じ取ってしまう者も少なくなかったということかも知れない。

もちろん、まったく何とも思わない者も当然いたが、これもむしろ自然なことだった。全員が全員、同じように感じるのなら、ミカももっと楽だったはずだ。

けれど人間というのはそう単純なものではない。

ゆえに、別方向に思いがけない行動に出る者も中にはいる。



ミカの子が埋葬されたその日の夜、一人の看守が庭の木の枝にロープを掛けて首を吊った。

見回りの看守に発見された時にはすでに完全に息絶えていたその看守は、ミカに縋って泣いたあの男だった。

特に不審な点は見られず、彼自身が自ら首を吊ったのだと思われる。

しかし彼は何故、己の命を絶ったのだろうか?

『亡くなった子が自分の子だと思い込み、その後を追った』

とか、

『ミカに苦しみを与えた者の一人として自責の念を抱いてきたのが、今回の件をきっかけに耐え切れなくなった』

とか、様々に推測することはできるとしても、真実は本人にしか分かるまい。

自ら死を望むほどに精神的に追い詰められた人間は、そうでない人間に理解できるような合理的な思考ができなくなっている事例は少なくないだろう。いや、むしろそうでなければ自ら命を絶ったりはすまい。

普通は。

「あいつが首を吊ったってよ……」

ミカの独房の前で警備をしていた看守がそう告げる。死んだ男がミカに入れ込んでいたことは誰もが知るところだったからだ。

「そうか……愚かな奴だ……」

『愚かな奴』

ミカのその言葉にも、話しかけた看守は、

「まったくだ……」

と応えただけだった。

仮にも自分に想いを寄せていた者がそんな形で死んだというのにその言い草はどうか?と思われるところかもしれないとしても、不思議とそれを耳にした看守達は不快さを感じなかったのだという。

『愚かな奴』と言いながらも、彼女が発した言葉からは亡くなった男を侮蔑する意図が感じ取れなかったからかもしれない。

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