悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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牢獄の女怪

これだから

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「お…もうこんな時間か…? ヤバイヤバイ。おい、起きろ…!」

「ん…あ? そうだな……」

見張りのはずがすっかり眠り込んでしまっていた看守が小声でそんなやり取りをしながら起きてきた気配を察し、

「おい…人を呼んで来い。問題発生だ」

ミカが声を掛ける。

「あ? 何があった…?」

看守が覗き窓から中を覗き込むと、彼女は自分の手を差し出して、

「子が流れた。お前達のうちの誰かの子だ。丁重に弔ってやれ……」

と告げる。

「な……っ!?」

ミカの手の平に収まった<それ>を見て、さすがに看守も察した。

「医者を呼んでくる!」

「お、おう…!」

看守の一人が慌ててその場を離れた。もっとも、<医者>と言っても本業の医師ではなく、多少その方面の知識があるだけの、近代における<衛生兵>にも及ばない<応急処置担当者>でしかないが。

「お前やっぱり妊娠してたんだな……」

残った方の看守が呟くように声を掛ける。なんとなく察していたようだ。まあ、あれだけ毎日延々と男達に嬲られれば当然のことなので、ちょっと勘の働く者なら気付いても何の不思議もないだろう。

「まあな…どうせギロチンに掛けられて死ぬはずだったから言う必要もあるまい……? 結果としてこうなってしまったが」

「……」

看守はもう言葉もなかった。この看守も散々ミカを嬲った男達の一人であると同時に、どんなに辱められても決して折れない彼女に対しては、正直、複雑な気持ちも抱いていた一人だった。

とは言え、彼女のために何かをしようとまでは思わなかったもの事実、そういう者達も少なくなかったようだ。



それからは、ちょっとした騒ぎになった。

まあ無理もあるまい。囚人が看守らの子を流産したというのだから。

元メイドの囚人らが呼ばれて、ミカがベッドのシーツで包んだ胎盤と、看守が渡した手拭い代わりの布に包まれた赤ん坊の遺体を受け取り、フェンブレンの指示で、監獄内の庭の片隅に埋葬する。

実はこの時、ミカと同じく看守達の相手をさせられていた元メイドの囚人達の中にも、妊娠していた者が何人もいた。

ミカの流産の一件をきっかけにそれをファンブレンに打ち明ける者が出てきて、

「これだから規律のない連中は……!」

と神経質そうな顔をいっそう神経質そうに歪めながらも、囚人らの妊娠に対処するための体制が整えられることとなった。



一方、ミカはと言えば、幸か不幸か、子宮の内容物がすべて排出される<完全流産>と言われるものであったため、その後は特に問題もなく回復。本人もまるでそんなことなどなかったかのように平然とした様子に戻り、静かに刑の執行を待ったのだった。

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