凶竜の姫様

出逢い

斬竜、錬義を真似る

斬竜キルがスープを飲み干し、鍋に残った味まで舐め尽くすと、今度はカップラーメンとしてそのまま作ったものに水を入れて、錬義れんぎは彼女に差し出した。三杯目のラーメンである。

とは言え、まるで妊婦のような腹になるまで食うことができる斬竜キルにとっては、余裕だっただろう。

と、同時に、食品保管庫から出してきた三個のカップラーメンの一つを、錬義れんぎが食べ始めた。箸を使って。すると、

「……」

錬義れんぎが使う箸を見て、斬竜キルが何かを訴えたそうな目を向けてきた。

「斬竜キルも、箸を使う？」

彼はそう口にして、食器ケースに入っていた箸を斬竜キルに渡すと、彼女はそれを受け取って錬義れんぎの手元を見た。彼の持ち方を学ぼうとしているのかもしれない。

そこで彼は、

「こうやって持つんだよ」

斬竜キルの手にそっと触れて、箸を持たせた。その上で彼女の目の前でゆっくりと自分の箸を動かしてみせる。

「……」

彼女はすぐに真似をするのではなく、彼が箸を何度も動かす様子をじっと見ていた。それこそ、映像として記録しようとでもしているかのようにじっと。

正直、その間にラーメンは伸びてしまったが、斬竜キルは何か得心がいったのか自分の手元を見て、ゆっくりと箸を動かしてみせた。

「そうそう！　巧い巧い！　それでいいんだよ！」

錬義れんぎが嬉しそうに声を上げると、

「！」

斬竜キルもカチカチと少し早く箸を動かしてみせた。そうして、錬義れんぎは、伸びてしまったカップラーメンの麺をゆっくりと持ち上げてみせて、斬竜キルもそれを真似てみせた。

「すごい！　すごいよ、斬竜キル！　ホントに上手だ！」

そう言って、錬義れんぎは麺を口に運んだ。斬竜キルも当然、それを真似る。

『いやはや、これは驚いた。斬竜キルの学習能力はこちらの想定を上回っている。なんという順応性の高さか』

二人の様子を見ていたアンデルセンが、ロボットにも拘わらず驚いていた。

それほどまでに斬竜キルの能力が高かったのだ。そんなアンデルセンの前で二人は伸び切ったラーメンを食べきり、スープまで飲み干した。

その二人の様子を、やはり父親のような雰囲気を醸し出しつつアンデルセンが見守っていた。それから、

「うんうん、よきかなよきかな。錬義れんぎ、斬竜キルは素晴らしい娘だ。お前にこそ相応しいと私も思う。そう遠くないうちにここを出られる可能性もある。二人で力を合わせて頑張ってくれ！」

ヘルメットを被りゴーグルを着けているような姿なので表情など作れないはずなのに、両手を動かし体を揺らすことでアンデルセンは自身が喜んでいることを表し、二人を祝福したのだった。