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いくら仕方ないと思ってても、現実を受け入れてるつもりでも
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と、私自身の問題については別にもういいんだけど、この国で奴隷として扱われてる人達に対しては、割り切ってるつもりでも、痛ましくもある。
担当貴族への報告の帰り、ブルイファリドと一緒に馬車に乗ってると、汚れた恰好をした人が、道を歩いてて突然突き飛ばされ、馬車の方へと倒れこんできた。
「危ないっ!」
私は咄嗟に叫んでブルイファリドの手を掴む。すると彼は手綱を引き絞って、馬車を急停車させた。
だけど、それと同時に、
「お前! 何をやってる!! 無礼者がっ!!」
って大声で怒鳴りつけた。馬車の前に倒れこんできた人を突き飛ばした者に対してじゃなく、倒れた人に対して。
奴隷だった。
突き飛ばされて倒れてきたのは奴隷だったんだ。ブルイファリドが、突き飛ばした側じゃなくて突き飛ばされた側を怒鳴りつけた辺りに、この国の現実を見た気がした。
ブルイファリドは決して嫌な人じゃない。ことさら奴隷を蔑視して意地悪するような人じゃないのに、こういう咄嗟の時には声を荒げてしまう程度には、無意識のレベルに奴隷についての認識が刷り込まれてるんだろうなというのを感じてしまった。
でも、子供の頃からそういう感覚の中で育った訳じゃない私にはそれが備わってない。単純に心配になってしまっただけだ。
「大丈夫!?」
体が勝手に反応して、馬車を降りて、その奴隷を助け起こしてた。
と、
「! あなたは…!」
包帯まみれの顔を上げたその奴隷に、私は見覚えがあった。私が数ヶ月住んでた宿舎の汲み取りを担当してた女性だった。
だけどその女性は私を見るなり飛び跳ねるようにして離れ、
「申し訳ございません……!!」
と地面に頭を擦り付けて謝罪した。演技とか謝罪してるフリとかじゃない、心底恐怖に慄きながらの、<命乞い>同然の本気の謝罪。
「申し訳ございません…! 申し訳ございません……!」
私が彼女の仕事について一緒に<処分場>にまで行った時には殆ど喋らなかったのに、どこからそれだけの声が出てるの?っていうほどの必死の声。
だけどその声自体、ひどくかすれてて、喉に何か異常があるんだろうなっていうのがすぐに分かる声だった。
『喉も潰されてるのか……』
すぐにそれが察せられてしまう。
いくら仕方ないと思ってても、現実を受け入れてるつもりでも、こうやってすぐ目の前で見て触れてしまうと割り切ってしまえないのもまた、人間というものなんだろうな。
「カリンさん! その者は奴隷です! 関わらない方がいい…!」
ブルイファリドがそう言ったのも、私を想ってのことだというのも分かってる。だけど私は言ったんだ。
「ブルイファリド。私にとって奴隷は大事な<道具>だよ。道具を粗末に扱う人とは仕事はできないな」
担当貴族への報告の帰り、ブルイファリドと一緒に馬車に乗ってると、汚れた恰好をした人が、道を歩いてて突然突き飛ばされ、馬車の方へと倒れこんできた。
「危ないっ!」
私は咄嗟に叫んでブルイファリドの手を掴む。すると彼は手綱を引き絞って、馬車を急停車させた。
だけど、それと同時に、
「お前! 何をやってる!! 無礼者がっ!!」
って大声で怒鳴りつけた。馬車の前に倒れこんできた人を突き飛ばした者に対してじゃなく、倒れた人に対して。
奴隷だった。
突き飛ばされて倒れてきたのは奴隷だったんだ。ブルイファリドが、突き飛ばした側じゃなくて突き飛ばされた側を怒鳴りつけた辺りに、この国の現実を見た気がした。
ブルイファリドは決して嫌な人じゃない。ことさら奴隷を蔑視して意地悪するような人じゃないのに、こういう咄嗟の時には声を荒げてしまう程度には、無意識のレベルに奴隷についての認識が刷り込まれてるんだろうなというのを感じてしまった。
でも、子供の頃からそういう感覚の中で育った訳じゃない私にはそれが備わってない。単純に心配になってしまっただけだ。
「大丈夫!?」
体が勝手に反応して、馬車を降りて、その奴隷を助け起こしてた。
と、
「! あなたは…!」
包帯まみれの顔を上げたその奴隷に、私は見覚えがあった。私が数ヶ月住んでた宿舎の汲み取りを担当してた女性だった。
だけどその女性は私を見るなり飛び跳ねるようにして離れ、
「申し訳ございません……!!」
と地面に頭を擦り付けて謝罪した。演技とか謝罪してるフリとかじゃない、心底恐怖に慄きながらの、<命乞い>同然の本気の謝罪。
「申し訳ございません…! 申し訳ございません……!」
私が彼女の仕事について一緒に<処分場>にまで行った時には殆ど喋らなかったのに、どこからそれだけの声が出てるの?っていうほどの必死の声。
だけどその声自体、ひどくかすれてて、喉に何か異常があるんだろうなっていうのがすぐに分かる声だった。
『喉も潰されてるのか……』
すぐにそれが察せられてしまう。
いくら仕方ないと思ってても、現実を受け入れてるつもりでも、こうやってすぐ目の前で見て触れてしまうと割り切ってしまえないのもまた、人間というものなんだろうな。
「カリンさん! その者は奴隷です! 関わらない方がいい…!」
ブルイファリドがそう言ったのも、私を想ってのことだというのも分かってる。だけど私は言ったんだ。
「ブルイファリド。私にとって奴隷は大事な<道具>だよ。道具を粗末に扱う人とは仕事はできないな」
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