93 / 120
ストックホルム症候群
しおりを挟む
数ヶ月に及ぶ彼女との生活は、ケインの精神にある変化をもたらしていた。口では冷酷なことを言っていても、食事の用意をし、テントの張り方を自分に教え、知識を身に付ける為のテキストを与え、仮設トイレを毎回丁寧に洗浄し、危険な動物を駆除してくれる彼女に対して、むやみに反抗的な目を向けるだけではなくなっていた。
もちろん慣れ合うわけではない。殆ど口もきかない。ただ、夜中にふと目が覚めたりした時に彼女の姿が見えなかったりすると、それを確認するまで眠れなかったりすることもあったのだった。
それが、ストックホルム症候群などと呼ばれる反応なのかどうかは、詳細に調べてみないと分からないだろう。ただ、少なくともこの時のケインが彼女を単に憎んだり恨んだりしているだけではなかったのは間違いないと思われた。
そんなケインを車に残し、エレクシアYM10は狙撃の為のポジションを探そうと森の中を歩いていた。だがその時、彼女のセンサーが異変を察知する。対物センサーの反応だった。木の幹に、対物センサーが設置されていたのだ。
「くそっ!!」
気付いた時には遅かった。集落から赤い光が発振されているのが見えた。レーザーだ。それも、誘導用の。エレクシアYM10は対ランドギアライフルを放り出して走った。しかしレーザーは確実に自分に向けて発振されていた。集落の中で火花が上がり、何かが凄まじい速度で迫る。小型のミサイルだった。まさかミサイルまで装備しているところがあるとは。
バガーン!と、激しい爆発音が空気を叩いた。それはケインの耳にも届き、
「エレクシア!?」
と彼は思わず声を上げていた。呆然と爆抜音のした方を見つめる。
彼は待った。込み上げてくる不安を無視するように黙って待った。すると十分くらいして、森の中で何かが動くのが見えた。
「エレクシア!」
エレクシアYM10だった。だがその姿は、ボディーは傷だらけで、右腕を失い、顔の右側半分を失い、足も引きずって辛うじて歩いているそれであった。それでも彼女は自分で歩いて車まで戻り、運転席に乗り込んだ。ケインも助手席に乗り、彼女を見た。
「あ~…こういうのを人間はヘマって言うんだろうな……どのみちもう、この体じゃ続けられないし、これで終わりだよ……
お前の面倒も見られない。今から奴らのところにお前を連れて行く。ここでお別れだ…」
残った左半分だけで苦笑いを浮かべ、エレクシアYM10はそう言った。だがケインは彼女を真っ直ぐに見詰めたまま首を横に振ったのだった。
「何言ってんだ。お前は姉さんを殺して俺を誘拐した凶悪犯だぞ。今度は俺がお前に復讐する番だ。それが終わるまで、俺は絶対にお前を逃がさないからな」
もちろん慣れ合うわけではない。殆ど口もきかない。ただ、夜中にふと目が覚めたりした時に彼女の姿が見えなかったりすると、それを確認するまで眠れなかったりすることもあったのだった。
それが、ストックホルム症候群などと呼ばれる反応なのかどうかは、詳細に調べてみないと分からないだろう。ただ、少なくともこの時のケインが彼女を単に憎んだり恨んだりしているだけではなかったのは間違いないと思われた。
そんなケインを車に残し、エレクシアYM10は狙撃の為のポジションを探そうと森の中を歩いていた。だがその時、彼女のセンサーが異変を察知する。対物センサーの反応だった。木の幹に、対物センサーが設置されていたのだ。
「くそっ!!」
気付いた時には遅かった。集落から赤い光が発振されているのが見えた。レーザーだ。それも、誘導用の。エレクシアYM10は対ランドギアライフルを放り出して走った。しかしレーザーは確実に自分に向けて発振されていた。集落の中で火花が上がり、何かが凄まじい速度で迫る。小型のミサイルだった。まさかミサイルまで装備しているところがあるとは。
バガーン!と、激しい爆発音が空気を叩いた。それはケインの耳にも届き、
「エレクシア!?」
と彼は思わず声を上げていた。呆然と爆抜音のした方を見つめる。
彼は待った。込み上げてくる不安を無視するように黙って待った。すると十分くらいして、森の中で何かが動くのが見えた。
「エレクシア!」
エレクシアYM10だった。だがその姿は、ボディーは傷だらけで、右腕を失い、顔の右側半分を失い、足も引きずって辛うじて歩いているそれであった。それでも彼女は自分で歩いて車まで戻り、運転席に乗り込んだ。ケインも助手席に乗り、彼女を見た。
「あ~…こういうのを人間はヘマって言うんだろうな……どのみちもう、この体じゃ続けられないし、これで終わりだよ……
お前の面倒も見られない。今から奴らのところにお前を連れて行く。ここでお別れだ…」
残った左半分だけで苦笑いを浮かべ、エレクシアYM10はそう言った。だがケインは彼女を真っ直ぐに見詰めたまま首を横に振ったのだった。
「何言ってんだ。お前は姉さんを殺して俺を誘拐した凶悪犯だぞ。今度は俺がお前に復讐する番だ。それが終わるまで、俺は絶対にお前を逃がさないからな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる