死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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強い意志が込められた<人間>の命令には、ロボットは逆らえない。サーシャとケインの命令は、それだけの力を持ったものだった。サーシャは自ら選んだのだ。メルシュ博士が作り出す世界を。

無理もない。タリアP55SI達は、具体的なこれからのことを何一つ提示もせずにただ少女を強引に連れ去ってきてしまったのだ。これでは信じようがない。

メイトギア達は、保護してからゆっくりと少女の心を解きほぐせばいいと考えていた。そして彼女達にはそれができる能力があった。しかし、今この瞬間にどう心が動くかということを、彼女達は完全には理解できていなかったのだろう。心を持たないが故に。

サーシャの選択が結果として彼女を幸せにするのかどうかは、今後を見てみないと分からない。メルシュ博士が少女のことを実験動物としか見ていないのは事実である。いずれ博士の気が変わって彼女を解剖したりすることだって、ないとは言えない。しかしこの時点ではどちらを信じるべきか、少女の中では決まっていたのだ。

コゼット2CVドゥセボーデイジーに向かって走っていくサーシャとケインを、タリアP55SIは止めることができなかった。この時点で、すべては決していた。

さらに、コゼット2CVデイジーの後ろから近付いてくる影を見て、タリアP55SIらは理解した。自分達はメルシュ博士の実験に利用されたのだと。ロボットによる反逆がどのようにして発生するのかという実験に。

そう、そもそもおかしかったのだ。CLS患者の回収という任務があるフィーナQ3-Ver.2002はともかく、常にメルシュ博士の傍にいたグローネンKS6までが博士から離れるなど。千載一遇の好機と思ったそれは、意図的に仕組まれたものでしかなかったのである。

『では、グロリアス君、テロリストを殲滅してくれたまえ』

サーシャとケインをコゼット2CVデイジーが保護し、コミューターに乗ってその場を走り去ると同時に、<アリスマリアの閃き号>内のメルシュ博士自身から直々にグローネンKS6にそう命令が下された。

コゼット2CVデイジーと同じくメルシュ博士によって完璧に修理されていたグローネンKS6が戦闘モードに入る。それを察知したタリアP55SI達も戦闘モードに入った。しかしそれは、野生のトラに玩具の銃を手にした幼い子供が挑むような無謀な行為でしかなかった。戦闘などと言うのもおこがましい、一方的な蹂躙でしかなかった。その場にいたメイトギアでは一番の戦闘力を持つタリアP55SIは超振動ブレードを手に最も抵抗してみせたが、それもほんの数十秒、持ち堪えた程度のものだった。

『…私はいったい、どこで間違ってしまったのだろう……?

アンナの為に、人間の為に行動してきた筈なのに、その人間を悲しませ、泣かせて、苦しめて、そして拒絶されてしまった。これは、愚かな私に対する報いなのか……』

グロリアスの超振動ブレードの爪と牙により、見る間に原形を失っていくタリアP55SIは、失われていく思考の中でそんなことを考えていた。

そうだ。すべては人間の為。守れなかったアンナへの罪滅ぼしと、生き延びたサーシャとケインの幸せを願ってのことだった筈だ。それなのに……

その時、彼女は気付いてしまった。

『ああ、だから私は、アンナを救うことができなかったのか……彼女の気持ちを、心を理解できなかったから、救うことができなかったんだ……

アンナの心も、サーシャの心も、ケインの心も私は理解できていなかった……

私が、ただのロボットだから……

ごめんなさい…ごめんなさい、アンナ……』

気付いた時には手遅れだということは、人間にもよくあることだろう。極めて人間に似せて作られたタリアP55SIも、そういう意味では人間に近かったのかもしれない。

そんな思考も真っ暗な虚無の中へと消えていき、彼女はやがてただの無機質な壊れた部品へと変わっていったのだった。

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