上 下
79 / 100
己というもの

79ページ

しおりを挟む
こうしてまたヴォーンローグ銀貨二百枚を手に入れ、俺達は意気揚々と宿に戻った。そこには、

「……!」

『おかえりなさい』と口を動かして出迎えてくれたプリムラと、

「おかえりなさい」

今日は早々に仕事を終えられて先に帰ってたノーラと、

「おつかれさん」

「……」

と念話で労ってくれるリシャールとシャミーレが。

そうだよな。プリムラ達も、いろいろあって<自分の人生>を生きてる。

プリムラは家族も同じ集落の仲間も全員失って、声も失って、

ノーラは飢餓で死んだ上に<ネクロゴーレム>の材料にされて、

リシャールとシャミーレは再生者リジェネレイターだったことで村の仲間に忌避されて追い出された挙句<魔獣ギアルゲフ>に食われてギアルゲフそのものになって、

それでも生きてるんだもんな。

『自分は何で生きてるんだ?』

なんてことを考えてたらやってられないだろ。

『生きてるんだから生きる』

それだけでいいじゃねえか。そして自分が死ぬ時になってそれで、

『自分の人生は何だったのか?』

って考えりゃそれでいいだろ?

まあ、<死ねない者>である俺が言うこっちゃないけどさ。

特にプリムラは、これから自分の人生を生きていくんだ。そのきっかけを作ってやりたいじゃないか。

そんなこんなで、目標額まではあと銀貨八百枚。<生活費>は、宿の宿泊費が、冒険者割引が適用されてて一日銀貨二枚。食費としてはプリムラとリョウの分だけで一日銀貨四枚は必要だが、俺はプリムラやリョウの食べ残しを食べればいいし、ノーラは食べないし、リシャールとシャミーレはコップ一杯の水と小さな果実一個で済むしで、ノーラの稼ぎだけで取り敢えずやっていけてる。

だから何とかなるさ。



こうして、一度に大きく稼げる仕事は減ってしまったものの、それでも、俺とリョウの二人で一日銀貨二十枚程度の稼ぎを維持しつつ、たまに魔獣討伐もしつつで、<家族>みたいに暮らしてた。

いや、本当に<家族>だよな。結婚して家族を作るのだって、所詮は<赤の他人>からの始まりだもんな。リシャールとシャミーレ以外は赤の他人の寄せ集めでも、確実に前世の俺の家庭よりは<家族>してるよ。

それは間違いない。

その中で、プリムラは間違いなく<成長>してた。毎日見てるから分かりにくいが。

「ん? プリムラ、少し背が伸びたか?」

半年くらい経ったところで、ふと俺は気付いた。さらにドレスを作るための採寸をしようとリョウと並んだ時のプリムラが明らかに大きくなってたんだ。

が、そんな俺に、リョウは、

「お前も少し大きくなってるぞ?」

と。

そうだ。<死なない者>のはずの俺の体も、成長してたんだよ。

しおりを挟む

処理中です...