ネコナマナ ~マナちゃんのニャオンな日常~

京衛武百十

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傷痕

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原付バイクで自分のマンションへと帰る途中も、玲那は何とも言えない戸惑いを感じたままだった。

『どうして…?』

自分に対してそう問い掛けてしまう。

<優しい男性>なら今までにだって何人かいた。真面目で、誠実で、玲那の過去も含めて受け止めてくれそうな男性だって、周りにいたことはある。けれど、そんな男性らに対しても、玲那はどうしても壁を作らずにはいられなかった。

怖かったというのもあるし、それ以上に、とにかくピンとこなかった。その男性と一緒に生きていく自分の姿を想像することができなかったのだ。

なのに……

真猫まなさんと、彼となら……』

そう。これが桃弥とうやだけなら今までと同じにピンとこなかったかもしれない。なのに、<真猫まなを含めた三人で共に暮らしている光景>が、頭をよぎってしまったのだ。

これまでの出遭いとの決定的な違い。それが、真猫まなの存在だった。

真冬に原付バイクで走った為に感覚さえ麻痺しかけた手で自宅の鍵を開け、中に入るなり、真っ先にバスルームへと向かった。とにかく体を温めようと思った。

しかし、いつも学校から帰った時にはそうだったように、体は冷え切っている筈なのに、不思議とそんなに寒くなかった。体の芯の辺りで何かが熱を帯びている気がして、家に入った途端に顔が火照るような感じさえある。

『とにかく、お風呂に入って気持ちを落ち着けよう。そうしたら頭も冷めるかも』

そう考えて、湯船に湯を張りながら熱めのシャワーを頭からかぶった。

『私…どうかしてる……生徒の保護者の方となんて……』

これまでにも聞かない話ではなかったものの、自分には縁のない話だし、なにより不謹慎だと思ってきた。公私の切り替えができていないから、生徒の保護者とそんな関係になってしまうのだと。

『それに、気のせいかもしれないし……』

そうだ。これまでにもいろんな生徒を見てきたが、真猫まなはその中でも特に例外的な事例である。そういう特殊な状況下にあることで、自分自身がいつもとは違う精神状態にあるのだと彼女は考えた。

シャワーを浴びながら、そっと左手で自分の右の乳房に触れる。すると、乳房の付け根辺りに、他の部分とは明らかに色の違う筋状の痕が見えた。傷痕だった。それを指でなぞりながら、玲那は思った。

『そんな人ばかりじゃないのは分かってる…だけど、怖い……もうあんなことは、二度と……』

唇を噛みしめながら、玲那は体を洗い始めたのだった。

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