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トーイの章

医学的に正しいかどうかは俺は知らん

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取り敢えず峠は越したかもしれねえが、傷口はまだ完全には塞がっていないだろうな。とは言え、出血が収まって瘡蓋かさぶたになっていれば、瘡蓋自体が傷を保護してくれるはずだから、下手に触らない方がいいとは聞いたな。

ただしこれも、あくまでこっちの世界に来てから実際に怪我をした時とかに言われたことなだけで、医学的に正しいかどうかは俺は知らん。

なんか前世では、瘡蓋は作らない方が綺麗に傷が治る的なことも聞いた覚えがあるが、それこそ絆創膏じゃ収まらないような怪我をした時には医者にかかるだけだから、俺自身は考えたこともねえ。医者にかかった時に見たようなものはここには存在しない。考えるだけ無駄だ。

そんなわけで、そこからもやっぱり、トーイの様子を窺いつつ付き添うだけだった。破傷風の兆候が出てきたら、それこそもうどうしようもないだろう。医者なんてこっからじゃ何日もかかる街にしかいやしねえし、そもそも現金を持ってねえ今の俺達なんて相手にもしてもらえないだろ。

だから、症状が出た時には、苦痛を長引かせるんじゃなくて、俺の手で楽にしてやらなきゃと思う。全身の筋肉が攣ったような状態で硬直して苦しみ続けさせるなんて、忍びないだろ……

分かってるよ。そんなもの、トーイが苦しんでる姿を俺が見ていたくないだけだってのは。本当なら奇跡を信じて回復を祈るのが人間としては正しいのかもしれない。でも、たぶん、俺自身が甘ったれのヘタレだから、耐えられないって感じてしまうんだ。

情けない限りだけどよ……

だが、そうなってほしくないのも、正直なところなんだ……



そして、二日目の夜。熱は下がったみたいだがトーイが起きないから、そのまま看病を続ける。俺とリーネだけで木の実と野草のスープを飲み、果実を口にして、トーイにはやっぱりスープだけを何とか飲んでもらった。ただ、昨夜よりは飲んでくれた気がする。

さすがに風呂に入る気にもなれなくて、そのままだ。リーネには早々に寝てもらう。

でもまあ、熱は下がってるし、寝息も穏やかだから、昨日よりはずっと気が楽だった。リーネも同じだったのか、割とすぐに寝てくれたな。と、リーネが寝付いてしばらくすると、小便の臭い。

トーイが漏らしたんだ。ここまでずっと寝てたからな。まあ無理もないだろ。怒ったところで何の意味もねえから、服を着替えさせて、小便で濡れたシーツの部分には別のシーツを重ねるだけで済ませた。

どうせ枯れ草を敷き詰めて作ったベッドだ、汚れたってその分の枯れ草を取り換えるだけで済む。シーツもトーイが回復してから洗えばいい。

それだけだ。



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