Gの愉悦

京衛武百十

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善も悪も

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「上手くいったか……」

隙間の奥からアシダカグモがネズミ共にバラバラに引き裂かれ食われていく様子を窺いながら、私は呟いた。

まあ奴は別に<悪役>ではないが、今のこの体にとっては紛れもない天敵。そんな奴も、ネズミの前ではただの<餌>に過ぎん。

これも生存競争というものだ。悪く思うな。

それに、ネズミの方も生まれたばかりの頃であれば逆にアシダカグモに食われることもあるという。食うか食われるかは自然の摂理。そこには善も悪もない。

元より、<善>だの<悪>だのは、人間が自らを正当化するためにでっち上げた概念に過ぎん。<正義>もそうだ。あるのは<立場の違い>であって、どっちが正しいなど、実際にはクソの役にも立たん戯事だ。

ゆえに私は自身が生き延びることのみを優先する。他は知らん。

そうして再びネズミ共の通路に沿って隙間を進む。

と、<匂い>が触角に捉えられる。はっきりと大量の食糧の匂いが漂ってくる。

やはり、ネズミ共を生かせるだけの食い物があるのだな。そしてこの臭いは、<生ゴミ>か。

人間共にとっては<ゴミ>でも、それ以外の生き物にとってはれっきとした食料。ゴミと見るか食料と見るかも、やはりただの立場の違いだな。

その匂いに誘われるように進むと、再び何者かの気配。

が、今度はゴキブリだった。しかも一匹や二匹ではない。ネズミが生きられるだけの食料があるならゴキブリはそれこそ余裕だし、ゴキブリが集まればアシダカグモも生きていける。

きっと他にもアシダカグモはいるはずなので、それにも注意をせねばな。

だからこそ、囮にできる奴らがいるのは好ましい。

すると、ゴキブリだけではなく、小バエの姿も。

ショウジョウバエにチョウバエ。<衛生害虫>の代表格だ。特にチョウバエは、

『ゴキブリさえいなくなっても現れる』

とまで言われ、

<最後の害虫>

とも称されることがあるという。

さらには、ハエトリグモの姿も見える。大きさ的に今の私の敵にはなりえないが、この異様な<洋館>にも実は豊かな命の営みがあることが分かって、私はなんとなく感心してしまっていた。

正直、ここにいれば、少なくとも今の体の寿命が尽きるまで困ることはないかもしれない。

あの男のことも小娘のことも、もうどうでもいい。

ここがどこで、どういう世界なのかもな。

元より、自分の生きてる世界がどんなものなのかを気にするのは人間だけだ。人間以外の生き物は、自分が生きられるか否かだけが問題であって、『どんな世界か?』など気にもしない。

ゆえに私も、ここでゴキブリとしての生を全うして、卵を生んで、そして死ねばいい。

それだけの話なのだ。

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