Gの愉悦

京衛武百十

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ここが<天国>か?

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十分な餌場も見付かり、私はとてもリラックスしていた。アシダカグモやネズミ共にはもちろん気を付けなければいけなかったものの、逆を言えばそれさえ気を付けていれば何も案じる必要もなかった。

起きて食って寝て起きて食って寝て起きて食って寝て。

ひたすらその繰り返し。他を探索する気も起きない。

なんだ、ここが<天国>か?

しかし、そうして一週間ほどが過ぎた頃、厨房に何者かが入ってくる気配。

「うん……?」

いつものあの男のそれとは違う足音に、私はダストシュートの隙間から厨房を覗き込んだ。

そこにいたのは、作業用の白衣を着て大きなマスクで顔を覆った人間。しかも二人いる。あの男と小娘以外の人間もこの屋敷に出入りしている可能背があることは察していたが、それが確認できてしまった形だな。

そして手には、細いホースで繋がったノズルが付いたプラスティック製と思しき白いタンク。

もう見るからにという感じのそれだった。

<厨房の清掃の係員>

それ以外の何者にも見えない。そいつらが手にしていたものが「シューッ!!」と音を立てながら煙、いや湯気を放つ。

<スチームクリーナー>だ。

そのスチームクリーナーで、係員共は端から順に汚れを落とし始めた。

慣れた手つきで躊躇なく。こいつらは間違いなく専門の係員だ。一応、社会的な役割分担もしっかりと残っているのだな。

係員共は手際よく作業を進め、厨房内のクリーニングを終えると、おもむろにダストシュートへと近付いてきた。

「マズい…!」

私はすぐに察し、隙間を通って壁の中に逃れる。

だが他のゴキブリやハエ共はダストシュートが開けられてからようやく逃げ始めたが、手遅れだった。約百度のスチームが噴射され、熱傷により一瞬でほとんどの奴が死んだ気配が伝わってくる。

いかなゴキブリでも熱には弱い。熱湯をかけると逃げる間もなく死ぬのと同じだ。スチームでこびりついた汚れを落としつつ殺菌と除虫を行うということか。

迂闊だった。人間が暮らしているところなのだからこの手のメンテナンスは当然だ。ゴキブリの体になっている影響か、当たり前に気付くべきことに考えが至らんかったわ。

とは言え、完璧に全てを綺麗にすることはできん。むしろライバルが減ったことで少ない餌でもなんとかなるだろう。

しかし、その考えは甘かった。

スチームによる洗浄が終わったのを確認して再びダストシュート内に戻って隙間から厨房内を覗きこんだ私は、

「クソッッ!!」

声を上げて改めて壁の中へと逃げた。

奴らは最後の仕上げとばかりに燻蒸式の殺虫剤を使ったのだ。厨房内は瞬く間に殺虫剤で満たされ、僅かな隙間から壁や床下にまで侵入してくる。

「ヤバいヤバいヤバいヤバいッッ!!」

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