Gの愉悦

京衛武百十

文字の大きさ
27 / 92

楽園喪失

しおりを挟む
燻蒸式の殺虫剤は、ある一定の空間を完全に満たし、僅かな隙間からでもその奥まで浸透し、床下や屋根裏のみならず壁の中までも殺虫成分で満たすことがある。

「クソッ、クソッ、クソッ!!」

私は罵りながらも必死で走り、薬剤が届かなくなる場所まで逃げることを優先した。

途中、再びアシダカグモに遭遇したものの、それどころじゃない。敢えて突っ込んでいってスレスレで躱し、さらに先へと逃げる。

私に躱されたアシダカグモも体を翻して追いかけようとしたらしいが、薬剤の方が早かった。

ビクン!と体を反応させて逃げようとしたものの間に合わず麻痺し、そのまま脚を丸めて硬直させて死んでいく気配が伝わってくる。

まったくもってロクでもない!

こんな間抜けな死に方ができるか!!

逃げる! 逃げる! とにかく逃げる!!

結局、何とか薬剤の影響から逃れ切ったのが確認できた時には、私はまったく初めての場所へと来ていた。

逃げながらもなんとかマッピングはできていたのでおおよその位置は分かるが、この屋敷、思っていた以上に広そうだ。

……いや、それはある意味じゃ当然なのか。

人間が普通に住む洋館を模してはいるものの、ここが完全にスペースコロニー的な人工環境であることは推測できる(外はおそらく宇宙空間ではないが)。となれば施設の規模も決して並の邸宅程度ではないだろう。

せっかく見付けた<天国>もしくは<楽園>ではあったが、厨房に撒かれた薬剤の影響が十分に下がるまでは近付くこともできん。さしずめ<楽園喪失>というところか。まあ泣き言を並べても始まらんし、探索を続け新たな<生活の場>を見付けねばな。

この辺りはまた食料に乏しい場所のようだ。幸い、あの給電設備らしき部屋にはネズミの毛や糞を確保してあるから、最悪、そこまで戻れば何とかなる。

そう言えばあの給電設備の規模的にも、工場並みの施設であることは窺えていたか。

いずれにせよ、やるだけやってみるか。



そんなわけで私は、再び、部屋に侵入できるルートを探した。

幸か不幸か、この辺りには他にゴキブリの気配もなく、ゆえにアシダカグモなどの気配もない。しかも、

「む…これは、キノコか……」

床下の部材に張り付くように綿のような物体が。はっきりとした形にはなってないが、明らかに菌類の子実体だ。つまるところ<キノコ>である。

これは僥倖。

私はそのキノコを食い、取り敢えずのエネルギー補給とした。ゴキブリにとっても害のあるキノコの可能性もあったが、匂いからするとエノキダケに間違いない。一般的に知られている形になりそこなったものだろう。

それから改めて探索を再開する。

と、僅かな空気の流れが感知できた。近くに床上に繋がる隙間がある可能性が高い。

そして私はその空気の流れを辿ったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...