Gの愉悦

京衛武百十

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エルダー

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スラブ系と思しき若い男は、落ち着きなく部屋を見回しながら、

「これがあれっスか? 思ってたよりは普通だけど、やっぱなんか気持ち悪いっスね」

訛りが酷くて慣れない人間には何を言ってるのか聞き取れそうにない英語で、アジア系の中年男に話し掛ける。

なるほど。<新人の若造>と<指導役のエルダー>という感じか。

「……」

中年男は若造の軽口には応えず、脇目も振らずに例のエネルギーバーの入った籠を手にし、持ってきた袋へと中身を移した。

それからおもむろに装置の周囲を回りながら要所要所を注視する。

これがこいつらの仕事のようだ。できたものの回収と設備の点検か。

しかし若造の方はいかにも『面倒臭い』と思っているのを隠そうともせず、エネルギーバーが入った袋を忌々しげに見て、

「っかし、よくこんなモン食えますよね。これって生ゴミとか人間の死体とかでできてんでしょ? 俺だったら死んでもごめんですね」

吐き捨てるように口にする。

すると中年男は、若造に視線を向けることさえせず、

「……お前だって、いつ、そいつの世話になるかも分からんぞ……

他に食うものがなけりゃ、人間だってゴミでも食う……

それに、死ねばお前も<そいつ>になって誰かに食われるんだ。

お前みたいなクソ生意気なガキでもそうやって誰かの命の足しになるってことだ。

ありがたい話だろうが。

それに、すぐにそんなことも気にならなくなる。要は<慣れ>だ。無駄口叩いてないで仕事を覚えろ。仕事ができない奴がまず<そいつ>の世話になることになる……」

中年男は声を荒げるでもなく淡々と語りつつ設備の点検を続ける。

そして一通り確認して異常がなかったのか最後に白衣のポケットから端末を取り出してささっと操作してすぐにまたポケットへとしまう。

長年この仕事を続けてきたのだろうというのが窺える、まったく感情の込められていない、極めて機械的な作業。

この二人のやり取りからもこの世界の状況が窺えるな。

ここで作られたエネルギーバーは、やはりそれほど普通に食べられているものでなく、一般的な<商品としての食料>の確保が困難な層、たとえば何らかの事情で<仕事>が満足にできず十分な収入を得られない貧困層などがやむを得ず口にするものであるということ。

『人間の死体を処理して食う』という行為は定着しつつもやはり嫌悪感は根強く残っているということ。

そして、<物品の流通>というものがまだ存在する世界であるということ。

いやはや、人間というのはしぶといな。実にしぶとい。こんな状況になっても<人間の世界>を維持している。

まったく、感心するよ。



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