Gの愉悦

京衛武百十

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報告書

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今は使われていない古い通路を大小二つの<ボロ布の塊>が歩いているのに気付きながら、監視係の男共は警報などを出すでもなくただ呆れた様子で見ていた。

逃げ出そうとするような者は止めないのだろう。それは、確実な死を意味するだろうからな。

大人と子供と思しき<脱走者>は、邪魔されることなく通路の端へと辿り着いた。そこにある扉を、ゆっくりと開けていく。

監視ルームに警告灯らしき赤ランプが灯るが、それでも男共は何もしなかった。いや、何もしなかったわけじゃないな。男の一人が面倒臭そうに机の上に置かれたバインダーを手に取り、何かを書き込んでいく。

脱走者についての<報告書>ということなのかもしれん。

で、脱走者の方はと言えば、そこから先は分からなかった。

外には監視カメラはないようだ。

辛うじて通路側の監視カメラが捉えた扉が開けられた先には、真っ白な光景があっただけだ。キラキラと光っているようにも見えたのは、ダイヤモンドダストと言われるものだろうか。

一応は太陽の光も届いているらしいものの、昼間でもダイヤモンドダストが当たり前に発生するような気温ということか。

そんなところにあんなボロ布を縫い合わせただけの<防寒具もどき>で出ていけば、ほんの数時間と生きていられるとも思えん。

『死にたい奴は勝手に死ねばいい』

それがここの方針か。

あの二人もすぐに野垂れ死ぬだろうな。

しかし、扉は凍り付いているでもなく簡単に開いたところを見ると、その辺りについては技術的に解消されている感じか。

まあ、いちいち扉が凍り付いていては外に出るのも一苦労だろうし。

報告書を書いた男はそれを机の上に無造作に放り出し、ギシッと椅子を軋ませながら背もたれに体を預け、

「っかし、あいつらが一か八かで逃げ出すのは分かんだよ。でもな、三等市民にも逃げ出す奴がいるってのが分からねえ。仕事さえ真面目にやってりゃ普通に生きてられんじゃねえか。なんでだ?」

もう一人の男に問い掛ける。しかし問い掛けられた方の男は、

「知るか…! 頭がイカれてんだろ。けど、貴重な装備を持ち出されんのは勘弁してほしいね。ここじゃ針一本だって無駄にできねえんだってのをちゃんと親に教わってんのかって思うぜ……」

吐き捨てるように応える。

すると問い掛けた男も、

「まったくだ……」

吐息交じりに言っただけだった。問い掛けた方も応えた方も、おそらく、答が返ってこないことも答が返ってくることを期待して問い掛けたわけじゃないことも分かっているんだろう。何度も何度も繰り返されたであろう、無為なやり取り。

こいつらの根幹部分を構成するであろう諦観が見えるようであった。

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