Gの愉悦

京衛武百十

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ゴキブリとしての正しい生涯

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『この体は今がピーク。後は衰えていくだけだ。命のカウントダウンが始まったな』

そんなことを思いながら、私は、カマキリと戯れていた。

何度も繰り出されるカマの攻撃を紙一重で躱しては、目の前をちょろちょろと動いてやる。

昆虫だから感情は持たないものの、これが人間だったらさぞかし頭に来ていることだろう。

だが私は、ただ単にからかって遊んでいるわけではないのだ。この体が持つ能力を目一杯活かすことで、高いパフォーマンスを維持するという目的もある。

おそらく残りは三十日とかだろう。明確な根拠があるわけではないものの、何となくそんな印象を受けたのだ。

昆虫の生涯は、人間のように衰えた体を抱えたままで何十年も生きられるような境遇の中にははない。むしろまともなパフォーマンスを発揮できなくなれば死ぬのが道理である。

となれば、ピークを過ぎてからの時間は決して長くない。

そう思った時、私は、ふと、あの<洋館>のことを思い出してしまった。

と言うか、あの洋館に住んでいた男のことだな。

奴からは、とにかく逃げるしかできなかった。まったくなす術がなかった。奴の投げるナイフやフォークを躱してみせたとしても、それは、他には何もできないからそうするしかなかっただけだ。

それを思った時、私は、カマキリのカマの攻撃を躱しつつ、その頭目掛けて飛び込んでいた。

バシッ!

と体当たりをかますと、カマキリは驚いてバランスを崩し、足場にしていた草を踏み外し、地面へと墜落した。

体の数倍の高さから落ちたので、人間なら下手をすると命にもかかわるようなものだったが、体が小さく軽い昆虫にとっては、この程度では致命傷にはならないことがほとんどだ。

実際、カマキリもすぐに体を起こしてそそくさと逃げていった。

無論、感情は持たないので恐怖から逃げ出したというよりは、転落のショックで混乱しただけだろう。

それでも、私の勝利だ。

が、正直、あまり嬉しくはないな。

昆虫ふぜいに勝ってもということではなく、私が本当に勝負をしたい相手ではなかったからだ。

私は、あの<洋館の男>から逃げたのだ。奴から逃げて、こんな安穏とした場所で余生を過ごそうと考えてしまったのだ。

『……実に業腹な話だな……』

そんなことを思う。

思ってしまうと、どうしようもなかった。

合理的に考えればこのままここにいるのが正解だろう。他にもゴキブリはいるだろうから、交尾をして子孫を残すこともできるはずだ。

しかし、違うのだ。

そうではないのだ。

私が求めているのは、

<ゴキブリとしての正しい生涯>

ではない。

私は、<邪神クォ=ヨ=ムイ>。愉悦を是とする存在もの

ならば、こんなところで怠惰に過ごしている場合ではあるまい。

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