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居ても立っても
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『こんなところでアシダカグモやカマキリと戯れている場合ではない』
そう思ってしまうと、私は、居ても立ってもいられなかった。命が尽きる前にあの洋館へと戻り、あの男と決着をつけなければ……!
ゆえに、木端役人の下へと急ぐ。幸い、奴はまだ、事務所で書類のチェックをしているところだった。
なので早々に荷物に紛れ込む。
するとちょうど仕事を終えて帰り支度を始めた。
よしよし、いいぞ。
そのまま木端役人と共に一旦、最下層へと戻る。
実はここの構造をかなりの部分、把握できたのだが、<畜産工場>のある区画には、基本的に最下層を通じてしか行けないようなのだ。
人間は。
人間以外なら、それこそ食用肉として<出荷>される牛や豚については、自動化されたルートによって運ばれるのだが、さすがにそこは衛生管理も厳重で、ゴキブリである私では容易に近付けなかった。換気用のダクトには害虫避けとして殺虫剤が特に入念に噴霧されており、使えない。
だからやはり、人間が使うルートで最下層を経由して上の階層を目指すのが確実なのだ。
「やれやれ…やっと帰れる……」
木端役人は専用のエレベーターの中でそう言葉を漏らした。
それがまた心底そう思っているのが分かる呟きなだけに私も思わず笑ってしまった。
無論、表情は作れないがな。代わりに触覚をふるわせたのだ。
上の連中よりもまだ生活面で余裕があるからか、体裁ばかりを重視する仮面の下にはこの種の<人間味>がより多く残っている感じのようだ。
いやはや、楽しいな。
そんなここの連中をこのまま見ていたくもあるが、残念ながら私にはもう時間はあまり残されていないようなので、ここでお別れだ。
最下層でエレベーターを降りたと同時に、私も荷物から抜け出して、すぐさま通風孔へと飛び込む。
ダクト内を移動するが、またも殺虫剤の臭い。じれったくはあるもののここで焦ってヘマをしては元も子もない。
なので、一旦、通路側に出て、付着した殺虫剤の濃度が十分に低いところを選んで移動。
だがその時、
「ゴキブリっ!?」
人間の悲鳴。
通りがかった奴に発見されてしまったのだ。
それほど潤沢ではない化粧品もさすがに最下層の奴らはまあまあ用意できるらしく、いかにも化粧で若作りしているタイプの中年の女だった。引きつった顔で私を見ている。
だが、これは想定内。
中年女は慌てて自身の所持品などを探ったものの殺虫剤等の対抗措置は持っていなかったようで、踵を返して走り去ろうとした。殺虫剤を取りに行ったのだろう。
しかし私は逆にそいつの髪に跳び付いてやった。香水の臭いが鬱陶しいが殺虫剤よりはマシだからな。このまま運んでもらうとしよう。
そう思ってしまうと、私は、居ても立ってもいられなかった。命が尽きる前にあの洋館へと戻り、あの男と決着をつけなければ……!
ゆえに、木端役人の下へと急ぐ。幸い、奴はまだ、事務所で書類のチェックをしているところだった。
なので早々に荷物に紛れ込む。
するとちょうど仕事を終えて帰り支度を始めた。
よしよし、いいぞ。
そのまま木端役人と共に一旦、最下層へと戻る。
実はここの構造をかなりの部分、把握できたのだが、<畜産工場>のある区画には、基本的に最下層を通じてしか行けないようなのだ。
人間は。
人間以外なら、それこそ食用肉として<出荷>される牛や豚については、自動化されたルートによって運ばれるのだが、さすがにそこは衛生管理も厳重で、ゴキブリである私では容易に近付けなかった。換気用のダクトには害虫避けとして殺虫剤が特に入念に噴霧されており、使えない。
だからやはり、人間が使うルートで最下層を経由して上の階層を目指すのが確実なのだ。
「やれやれ…やっと帰れる……」
木端役人は専用のエレベーターの中でそう言葉を漏らした。
それがまた心底そう思っているのが分かる呟きなだけに私も思わず笑ってしまった。
無論、表情は作れないがな。代わりに触覚をふるわせたのだ。
上の連中よりもまだ生活面で余裕があるからか、体裁ばかりを重視する仮面の下にはこの種の<人間味>がより多く残っている感じのようだ。
いやはや、楽しいな。
そんなここの連中をこのまま見ていたくもあるが、残念ながら私にはもう時間はあまり残されていないようなので、ここでお別れだ。
最下層でエレベーターを降りたと同時に、私も荷物から抜け出して、すぐさま通風孔へと飛び込む。
ダクト内を移動するが、またも殺虫剤の臭い。じれったくはあるもののここで焦ってヘマをしては元も子もない。
なので、一旦、通路側に出て、付着した殺虫剤の濃度が十分に低いところを選んで移動。
だがその時、
「ゴキブリっ!?」
人間の悲鳴。
通りがかった奴に発見されてしまったのだ。
それほど潤沢ではない化粧品もさすがに最下層の奴らはまあまあ用意できるらしく、いかにも化粧で若作りしているタイプの中年の女だった。引きつった顔で私を見ている。
だが、これは想定内。
中年女は慌てて自身の所持品などを探ったものの殺虫剤等の対抗措置は持っていなかったようで、踵を返して走り去ろうとした。殺虫剤を取りに行ったのだろう。
しかし私は逆にそいつの髪に跳び付いてやった。香水の臭いが鬱陶しいが殺虫剤よりはマシだからな。このまま運んでもらうとしよう。
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