魔法使いは廃墟で眠る

しろごはん

文字の大きさ
15 / 40

第十四章

しおりを挟む
 目覚めれば天井が視界に映った。もうすぐでこの家に来て一年。見慣れた光景だった。
 (僕は……)
 まだ寝ぼけていて思考が定まらない。寝る前に自分が何をしていたのかを必死に思い出す。
 (そうだ、あの男が……)
 思い出したときには身体が動いていた。起き上がろうと力を込める。しかし痛みが邪魔をして上手く起きれない。派手に倒れ込んでしまった。
 「何をしてるんですか!」
 物音を聞きつけて飛鳥がやってきた。何度も起き上がろうとしてその度に倒れる椿を無理やり寝かしこむ。
 「飛鳥さん、あの時はありがとう」
 「いえ、私がもっと早くに気付いていれば椿くんがこんな目に合うことはありませんでした。ごめんなさい」
 深々と頭を下げる飛鳥。思わず苦笑してしまう。
 「助けてくれたのになんで謝るのさ」
 「椿くん――」
 「僕はどれぐらい寝てたのかな?」
 「三日間ですね。今日はイブですよ」
 「そうか――」
 どうやら相当痛めつけられたらしい。飛鳥がここにいるということはその間看病を続けてくれていたということだろう。自分の不甲斐無さが情けない。
 
 「ところで、キキョウは?」
 
  飛鳥が口を噤んだ。それだけで全て理解をした。
 「飛鳥さん――」
 「ダメです」
 「まだ何も言ってないよ」
 「言わなくてもわかります」
  そういう飛鳥の眼には薄らと涙が浮かんでいるような気がした。
 「キキョウさんの所へは行かせません」
 「どうしても?」
 「どうしてもです」
 「今回だけ見逃してくれないかな?」
 「ダメです」
 「それは――困ったな」
 どう説得したものだろうかと思考を張り巡らす。そんな椿の考えを見透かしているように飛鳥が続ける。
 「約束もしたはずです」
 「返す言葉もないよ」
 「椿くんを襲った敵の名はアーサー・ロスチャイルド。歴代最年少で魔法を習得した彼は現在魔術世界に於いて――最強と称されています」
 「最強……か」
 「災厄のようなものなんです。彼は思うがままに戦い続け暴れまわっている。私たちのリーダーでさえも勝てるかどうかわからないと……」
 「心配してくれてありがとう」
 飛鳥が正しいことはわかっている。彼女が自分を想ってくれていることも。
だが――
「それでも僕は行くよ」
 「椿くん!」
 飛鳥が声を荒げる。本気で自分を叱ってくれている。
 「並の敵とは違うんです! 行けば本当に死ぬんですよ!? あなたが死んだら私は――」
 嗚咽混じりの声はその先を言葉に出来ないでいる。そんな飛鳥を諭すように椿はゆっくりと語る。
 「夢を視たんだ」
 初めて視たはずの、だが、どこか懐かしさを感じさせる光景を思い返す。
「幼い僕とキキョウがあの廃墟で遊んでいて、そしてあいつがやってきた。その時に僕は殺されたんだ。確信はないけど、多分その夢は過去に実際にあったことなんだと思う」
 アーサーは自分に向かってそれを仄めかすようなことを言っていた。
 「何故そのことを忘れていたのかはわからない。殺されたはずなのに何故生きているのかも」
 独白は続く。溢れ出した感情は止まらない。
 「ずっと、何かが足りないと思っていた。どこか虚ろな日々が続いていて、この世界が酷く空虚なものに思えていたんだ。多分それは、紅蓮院椿という人間の根幹に在るべきもので――」
 
 「心なんだ――」
 
 十年前には確かに在った大切な想い。何時の間にか無くしてしまった記憶。どうして忘れていたのか。自分は知らない間に多くの物を失っていた。
 「失ったものを取り戻したい。負けっぱなしは嫌なんだ。あいつはキキョウを奪おうとしていて、僕はキキョウを護りたい。魔術師とか最強とかそんなのは関係ない。これはそんな難しい話じゃないんだ。これは――」
 そうして告げる。いつも自分を見守ってくれている彼女に。
 
 「ただの男の意地だよ」
 
 それが理由。それこそが自分を突き動かす物の正体に他ならない。
 これは馬鹿な戯言だ。愚かな道化の荒唐無稽な与太話。だが隠すことは出来ない。くだらない見栄などそれこそ罪。そんなことをすれば自分の身を案じてくれている飛鳥に対する裏切りになる。
 「椿くんの気持ちは解りました。ですが、その先には――」
 「わかってる」
 挑むは最強の敵。その強さは二度に渡り思い知らされている。この信念の先に未来はないかもしれない。
 「でも、逃げるわけにはいかない。例えこの道の果てに待っている物が絶望だったとしても、せめて己の生き様を誇れるように在りたい」
 自分の気持ちは伝えきった。後は座して飛鳥の答えを待つのみ。
「そうやっていつも無茶ばっかり言って――自分の命をなんだと思っているんですか?」
 「ごめん」
 「ごめんで済むことではありません」
 「うっ……」
 「でも、その度に赦してしまう私も甘いってことですね」
 「飛鳥さん――」
 飛鳥は優しく微笑み、
 「ですが、一つだけ条件があります」
それはいつも通りの言の葉。
彼女はいつもそういって自分の我儘に仕方なさそうに付き合ってくれた。
 ただし――
 「私も行きます。椿くんを一人にはさせられませんから」
 同じだけの無茶を彼女は言う。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...