魔法使いは廃墟で眠る

しろごはん

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第十三章

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支配するのは夜の帳と静寂。獣達の鳴き声一つ聞こえない。微かな明かりは月明かり。丘の上の廃病院はさながら魔王の城の様で。今宵雌雄を決する死闘が始まるとは想像も出来ない幻想的な光景。
「罠が一つもねぇ」
「妙ですね...」
廃病院は既に目前。此処に来るまでの間に何かしらの仕掛けがあると予想していたがすんなりと辿り着く事が出来た。
とはいえ相手の性格上何もないわけがない。たった一度の邂逅であるがヴォルフダート・ロイバーの用心深さは筋金入りだった。
「ーー逃げたのか?」
万が一の可能性を口に出す。
あくまで椿が誘ったのはセシルのみ。あの少年だけなら逃げずに決闘を受けるだろうがロイバーがなんとか説得し優位性を保とうとした線はある。というよりも冷静な判断が出来るならそうする状況ではある。 
「そうでも無いみたいよ」
キキョウが指さす。その先で金髪碧眼の少年が闇を切り裂くように姿を表した。
見れば見るほど似ている。幼き日のアーサーに。
外見だけではない。そのプライドも行使する魔法も。生き写しの様に。かつて乗り越えた過去の亡霊がまだ終わりじゃないと死の淵から手を伸ばしてくる。
眼前の少年と過去に何かがあった訳ではない。けれどこれも一つの因縁であることも事実。

ーーならば決着をつけるのは自分の役目だ。

何よりもセシルには言いたい事がある。ぶつけなければならない想いがある。
八つ当りに近いそれはけれど大切なことだと思うのだ。
「逃げ出さずによくきたじゃないか」
不敵に笑う少年は血に飢えた獣。端正な顔立ちはなりを潜める。
一歩前へ踏み出す。瞬間、炸裂音。飛鳥の細剣が遠方から椿を狙撃してきた魔弾を切り裂く。
ヴォルフダート・ロイバーの攻撃とみて間違いないだろう。姿が見えない以上不意討ちを狙っている可能性は高いと踏んでいた。狙撃という手段は想定外ではあったが飛鳥のフォローが功を奏した。お陰でロイバーの大体の位置は確認出来た。
「は!堂々と構えた振りしてやる事がせこいんだよ。正面から戦えるとなりゃこっちのもんだ!」
戦斧を構えるエレオノーラ。王鍵者として漸く暴れる事が出来る彼女の気合いは充分。ピリピリとする殺気が所構わず乱れ飛ぶ。
だが、
「待って欲しい」
「あん?」
「あいつの相手は僕にやらせてくれないか」
「おいおい、流石に魔術師相手にタイマンは無茶だろ」
それは当然の忠告。けれど譲りたくはない。これは自分勝手な我儘だ。
「エレオノーラ、私からもお願いします。ここは椿くんに任せましょう」
「ーー飛鳥、本気で言ってんのか?  誰よりも椿を戦わせたくなかったのはお前だぞ?」
「そうですね。きっと以前の私なら反対してました。けど、それでは駄目なんだって気づきました。私が椿君と一緒に進みたいのなら信じる事が大切なのだと」
思わぬ所からの援軍。驚いた表情のエレオノーラ。それも少しの間。彼女の何かを察した様にニヤリと犬歯を剥き出しにして笑う。
「ーーへっ、ならしょうがねぇ。二人でイチャイチャしてきた間に進展があったみたいだな。余計な事言うのは野暮ってもんだ」
「い、イチャイチャなんかしてません!」
「椿君、浮気は駄目よ」
ビシッと人差し指を指してくるキキョウ。
「浮気では無いと思うんだけど...」
「魔眼も使いすぎては駄目よ」
「ーー善処するよ」
人差し指が優しく唇に触れる。キキョウも不安があるだろう。
「飛鳥さんは私が面倒を見るから、あの子は任せるわ」
「ありがとう」
けれど自分を信じて任せてくれる。おもいっきり戦えと、他のことは任せろと。

「最後の別れは済んだかい?」

黒炎を纏う少年が痺れを切らす。闘争を求める声に応えよう。
長剣は持たず更に前へ。
敢えて今回は飛鳥から借りなかった。仮にも敵はアーサーの残滓。闘うならば魔眼の力が必要になるし手を抜いて勝てるなどと油断はしない。
「では私達はロイバーを追います。椿君ーー無茶はしないで下さい」
「わかった。飛鳥さんも気を付けて」
飛鳥とキキョウが狙撃してきたロイバーを追う。夜闇の中、二人の姿はすぐに視認出来なくなる。
妨害が入るかと思ったがセシルは何をするでもなく二人を通す。これも罠か、敵にとってもここまではシナリオ通りだったのかも知れない。
「エレオノーラは行かないの?」
「行ってやりたいのは山々なんだがな」
ーー気づかなかった。周囲には狼の群れ。牙を剥き出しに囲うように何処からともなく現れる。その三十はくだらない。
「どうやら今回の俺の役目はとことんお前らの引き立て役みたいだな。お前がくたばったらあいつは俺が倒してやるから思いっきりぶちかましてこいよ」
バシッと背中を叩かれ気合いを入れてもらう。御膳立ては充分。後は自分が決めるだけ。
さぁ、剣戟を始めよう。

「ーー魔眼(レシュノルディア)解放!!」
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