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第47話 魔物の町

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 ピクシーの発見した町が近づくと、ジャックの緊張は否が応にも高まった。
 仮に戦闘となってしまっても、ジャックにはこの剣があるから大事には至らないだろう……という安心材料は確かにある。しかし一度戦闘になってしまえば、ジャックが本当にしたいことは出来なくなってしまうだろう。
 そういう意味で、最初のコンタクトは非常に重要な意味を持っていた。

「さて、どうアプローチしようかな?」
 ジャックは考えたが、どうにも結論は出そうになかった。
 何と言っても、魔物と言葉が通じるという話が実証できていないのだから対応策が見つからないのは当然ともいえた。

「ぶっつけ本番で良いじゃん」
 ピクシーは何故こうもマイペースでいられるのだろうか? というほど普段通りだ。

 しかしジャックはなんだかんだで、いつもピクシーの案を採用している気がする。お気楽に聞こえるものの、ピクシーの考え方は常に合理的だ。分からないことはいつまで考えても分からない……当たり前のことだが、そう割り切るのは問題が大きければ大きい程難しくなる。しかし、ピクシーはいとも簡単に割り切ってしまう。
 それを「お気楽」という人もいるだろう。ジャックもその一人だったのかもしれない。
 しかし、今ジャックはピクシーにそれ以上のものを感じている。

 魔物の町らしき場所に近づくと、最初に視界に飛び込んできたのは三、四体のジャックも見慣れた子供の魔物だった。魔物達は魔大陸で人間を見るのは初めてだったのだろう。驚いて町の奥へ走って行ってしまった。
 その数分後、子供の魔物が大人の魔物五体を連れて戻ってきた。それぞれ手には武器を持っている。

 ジャックは彼らに向かって両手を上げて見せ、戦う意思がないことを示した。
 そして大人の魔物が人の言葉を理解できるか試すことにした。

「戦う意志は無い。話し合いに来た。言葉は分かるか?」
 ジャックはなるべく分かりやすいように一文を短く切って、活舌かつぜつ良くはっきりと話した。

 それを聞いた大人の魔物達は、お互い何か話し合っている。その目には明らかな不信の色が浮かび上がっていた。

「人間は信じない。我々は戦う。話し合ういらない」
 魔物もジャックと同じように短い文をつなぎ合わせるように話した。
 クラウスから聞いてはいたものの、正直ジャックは驚いていた。やはり人の言葉が分かる魔物は存在したのだ。
 ……とはいえ、その内容はジャックの期待通りとはいかなかった。

「戦いたくない。あなた達の王と話したい。案内して欲しい」
 相手は戦うつもりのようだが、ここで戦ったら恐らく人間対魔物という図式が完全に固定されてしまうだろう。それは何が何でも避けなければならない。ジャックは精一杯の笑顔を作って交渉を続けた。

 そうこうしている内に魔物の内一体が、ジャックの腰にある剣に気が付いた。それを機に魔物達は一斉に殺気付いた。どうやらこれが先日フィンドル村で仲間達を薙ぎ払った勇者の剣であることに気が付いたらしい。

 魔物達はジャックが不戦を訴えて、魔物が油断した所を剣で一気に攻撃するとでも思っているのだろうか? 
 いや、立場が逆であれば自分もそう考えるだろう。そう思われていれば、何を言っても恐らく状況が変わらないことも理解できる。

「出直すしかないか?」
 ジャックはそう言ったものの、仮に出直しても有効な手段は無いだろうことも承知している。
 お互いの不信感を払しょくできるきっかけ……それさえあれば話はいい方向に動き出すかもしれないのだが……

「استمع لي يا أبي!」
「أنها ساعدتني」
「ثق بهم.!」

 何やら魔物の方が騒がしい。どうやら魔物の大人と子供が口論しているようだ。
 魔物同士では当然魔物の言葉を使っているのだろう。聞こえはするが、何を話しているかはジャックには全く分からない。
 ただ、魔物達の仕草や表情から子供が大人に必死に何かを訴えて、その内容に大人が頭を悩ませ、困っている……そんな感じに見えた。

 ジャックはいったん退却しようかと隙をうかがっていた。ピクシーにも目配せをしてそろそろ退散……と思っていた時、大人の魔物が再び人間の言葉で話しかけてきた。

「お前、この子、助けたか?」
 大人の魔物は子供の魔物を指差してこう言った。

 ジャックは最初何を言ってるのか分からず、呆然としていた。
 その時、ピクシーがあることに気が付いた。
「あーーー!!! ジャック、あの子だよ。ノースフォーヘンの町で助けた子!」

 ジャックは魔物の顔の見分けが付かなかった。正直どの子も同じ顔に見える。
 ただ、ピクシーがそう言うのならきっとそうなのだろう。

「私、町でその子助けた。戦う意志は無い。本当だ」
 ジャックは何となくこんな片言で話さなくても通じるような気がしてきたが、途中で変更するのも変だと思って貫き通している。

 この言葉を聞いて、魔物側から安堵のため息が漏れるのをジャックは感じた。
 こちらもそうだが、あちらもやはり本音では戦いは望んでいないのだろう。

「我々には、人間と交渉する権限が無い。王の所へ案内する」
 魔物のしゃべる人の言葉はどんどん流暢りゅうちょうになっている。客観的に見るとジャックのしゃべり方がどんどん馬鹿っぽく聞こえてくる。ピクシーはそんなジャックを見て笑いをこらえるのに必死という感じだった。

「お願いする!」
 ジャックは単身、魔物の王と会う事となった。

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