【受賞&本編完結】たとえあなたに選ばれなくても【改訂中】

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

文字の大きさ
69 / 156

動揺

しおりを挟む
「先に伝えていたように今日から一週間留守にする。その間の処理は任せるが、何か至急の要件があれば早馬を飛ばすように」

カリス家のカントリーハウスへ向かうにあたって、ルーカスは当面の仕事に関して家令のイオエルに指示を出していた。

ルーカスが当主に就いてから初めての長期不在になるが、今まで長きに渡り当主を補佐してきたイオエルがいれば問題は無いだろう。

「かしこまりました」
「フォティア嬢は変わらずか?」
「はい。乳母は不要と仰られましたので、子育て経験のある侍女をつけております」

イレーネが雇った乳母を解雇してからルーカスは新しい者を雇ってはいなかった。
何よりフォティアがそう望んだからだ。

貴族の家では子育ては乳母が担当することが多い。
おそらくフォティアも当初はそのつもりでいたはずだが。

「…何かあればすぐに知らせるように」
「承知いたしました」

ルーカスは急ぎの仕事を終わらせて今日からカリス領へ向かう。
仕事の目処が立ったのが昨日だったため、先触れはまだカリス家のカントリーハウスには届いていないだろう。

本来であればもう少し早めに知らせなければならないところだが、今回に関しては当主のソティルからすでに許可を得ていた。
偶然王城でソティルに会い、その場で許可を得られたのは好運だった。

不意に、イオエルが辞したドアがノックされる。

「入れ」

許可の声に入ってきたのはビオンだった。

「…まともにドアから入って来ることもあるんだな」
思わずルーカスの口から驚きの言葉がこぼれ落ちる。

「人間なので」
あまりよくわからない返答をしながら、ビオンが一枚の書類を机の上に滑らせた。

「猫には見えんな」
常の身軽さを猫に喩えつつルーカスは書類に目を通す。

「ご命令いただいていたアリシア様周辺の情報です。今日からカリス領に行かれるのであれば必要かと」
「これは影が直接見聞きしたことと解釈していいか?」
「もちろんです。我々は自身で得た情報しか報告いたしません」

報告書にはアリシアの近況が記されていた。
健康に憂いなく過ごしていること。
事件解決後は幾分和らいだ表情になったこと。
イリアとの仲の良いやりとり。

しかしその中に気なる記述を見つける。

「このノエという護衛は以前アリシアに就いていた者とは違うだろう。どういう男だ?」
「カリス伯爵家で一番の実力者だそうです。少し前、おそらくアリシア様のご懐妊がわかった頃に伯爵が護衛の中から抜擢しています」

気になったのは報告書に書かれた一文。

『専属護衛のノエは常にアリシア様を気にかけています』

護衛の仕事は対象者を守ること。
そう思えば気にかけるのは当然ではあるが、その場合『見守っている』という表現になる方が自然だ。
気にかける、というのはそれ以上のものがあるようにルーカスには感じられた。

「なんでも、金髪碧眼で見事な体躯の美丈夫だそうで、今では近隣でも話題の護衛とのことです」
淡々と、ビオンが報告を続ける。

「金髪碧眼…」

ロゴス国では最も好まれる容姿だ。

ルーカスは自身の容姿に対して過剰に卑屈にはなっていないが、異色であるための苦労はしてきた。

アリシアの側にノエという万人に好まれる男がいるという現状に、ルーカスは心穏やかではいられなかった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ
恋愛
大好きな貴方はわたしを裏切り、そして殺されました。 次の人生では幸せになりたい。 前世を思い出したわたしには嫌悪しかない。もう貴方の愛はいらないから!! 自分が王妃だったこと。どんなに国王を愛していたか思い出すと胸が苦しくなる。でももう前世のことは忘れる。 そして元彼のことも。 現代と夢の中の前世の話が進行していきます。

処理中です...