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番外編 皇太子の思惑<1>
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その日ルーカスはニキアスに呼び出されて皇太子の執務室まで来ていた。
「ところで、軍部の掌握はどうなってる?」
「…それなりに」
突然そんなことを言い出したニキアスの意図が読めず、ルーカスは訝しみながら答える。
「ルーカス公に従わない者がいると聞いているが?」
(ああ、そのことか)
ルーカスは独りごちると、ニキアスの真意を探るためにその黄金色の瞳を見返した。
「殿下の耳にまで入っているとは、私の不徳の致すところです。ぽっと出の公爵に従わねばならないとなれば不満を持つ者がいるのも当然でしょう。特に騎士団には血の気の多い者も多く在籍していますし」
ルーカス自身は周囲の者たちの不満も最もだと考えており、統率が取れるようになるまで多少なりとも時間がかかるのは仕方がないと思っていた。
しかし、ニキアスは違った。
「ルーカス公、騎士団の者たちを一番簡単に従わせる方法は何だと思うか?」
「簡単な方法ですか?」
理想的なのは信頼関係を築くことだが、これには時間がかかるのと、人によって相性があるため全員を簡単に従わせることはできない。
「力を示すことだ」
そう言うとニキアスは執務机の引き出しから一枚の書類を取り出した。
「力で競っている者たちは強き者には従うだろう。逆に、どれだけ人格者であっても弱い者では従わせることはできない。軍部ではある意味力が正義だからだ」
だからこそ、王家は軍部を統率する者にはそれなりの人徳を求めるし、人格者であることを望む。
今までディカイオ公爵家が軍を統率するにあたって人格に大きな問題のある者がいなかったのは幸いだったのだろう。
そして問題さえ起こさなければそこにプライベートのことは含まれない。
プライベートのことまで含んでしまうと、イレーネの希望を優先してばかりいたセルジオスは人格者ではないことになる。
しかしセルジオスが存命中にイレーネが原因となる大きな問題は起こらなかった。
同様にニコラオスの婚約者だったフォティアも、ニコラオスがいる間は問題のない令嬢だったのだ。
「しかし力を示すと言っても、全員と手合わせをするには時間がかかります」
ルーカスの言葉に、ニキアスは若干苦い顔をした。
(なぜこの男は近々開催される剣術大会のことさえ思い浮かばないのだ)
手っ取り早く力を示すのに最適な場があるというのに。
それだけ、ルーカスにとって大会はどうでもよかったということだろう。
時折垣間見えるルーカスのこういった歪さにニキアスはため息をつきたくなった。
ルーカスのアンバランスさはやはり生育環境のせいだろうか。
決して知恵が足りないわけでもないし、たとえば軍事作戦を考えさせたとしても問題はない。
言ってみればルーカスは徹底的に他人に興味が薄いのだ。
アリシアと子ども、そしてカリス家の人々、ニコラオスを失ってからはそのたった数人だけがルーカスの心に存在することを許されている。
王家に対する忠心はあるし、ニキアスに対しては以前よりも興味を持っているとは思うが、それでもアリシアたちと比べると全然違った。
そして出世にも興味が無い。
カリス家と王家を除けば、あとは第1の騎士団長に対して敬意を持っているくらいだろうか。
困った奴だと思いつつ、しかしそれでもニキアスはルーカスを側近として使ってみたかった。
そう思わせるものがルーカスにはあると感じられたからだ。
(つまり、上手く使えるかどうかは私次第ということ)
ニキアスはそう結論づけると、改めて手に持っていた書類をルーカスに渡す。
書類を読むルーカスの目が、ゆっくりと見開かれた。
「ところで、軍部の掌握はどうなってる?」
「…それなりに」
突然そんなことを言い出したニキアスの意図が読めず、ルーカスは訝しみながら答える。
「ルーカス公に従わない者がいると聞いているが?」
(ああ、そのことか)
ルーカスは独りごちると、ニキアスの真意を探るためにその黄金色の瞳を見返した。
「殿下の耳にまで入っているとは、私の不徳の致すところです。ぽっと出の公爵に従わねばならないとなれば不満を持つ者がいるのも当然でしょう。特に騎士団には血の気の多い者も多く在籍していますし」
ルーカス自身は周囲の者たちの不満も最もだと考えており、統率が取れるようになるまで多少なりとも時間がかかるのは仕方がないと思っていた。
しかし、ニキアスは違った。
「ルーカス公、騎士団の者たちを一番簡単に従わせる方法は何だと思うか?」
「簡単な方法ですか?」
理想的なのは信頼関係を築くことだが、これには時間がかかるのと、人によって相性があるため全員を簡単に従わせることはできない。
「力を示すことだ」
そう言うとニキアスは執務机の引き出しから一枚の書類を取り出した。
「力で競っている者たちは強き者には従うだろう。逆に、どれだけ人格者であっても弱い者では従わせることはできない。軍部ではある意味力が正義だからだ」
だからこそ、王家は軍部を統率する者にはそれなりの人徳を求めるし、人格者であることを望む。
今までディカイオ公爵家が軍を統率するにあたって人格に大きな問題のある者がいなかったのは幸いだったのだろう。
そして問題さえ起こさなければそこにプライベートのことは含まれない。
プライベートのことまで含んでしまうと、イレーネの希望を優先してばかりいたセルジオスは人格者ではないことになる。
しかしセルジオスが存命中にイレーネが原因となる大きな問題は起こらなかった。
同様にニコラオスの婚約者だったフォティアも、ニコラオスがいる間は問題のない令嬢だったのだ。
「しかし力を示すと言っても、全員と手合わせをするには時間がかかります」
ルーカスの言葉に、ニキアスは若干苦い顔をした。
(なぜこの男は近々開催される剣術大会のことさえ思い浮かばないのだ)
手っ取り早く力を示すのに最適な場があるというのに。
それだけ、ルーカスにとって大会はどうでもよかったということだろう。
時折垣間見えるルーカスのこういった歪さにニキアスはため息をつきたくなった。
ルーカスのアンバランスさはやはり生育環境のせいだろうか。
決して知恵が足りないわけでもないし、たとえば軍事作戦を考えさせたとしても問題はない。
言ってみればルーカスは徹底的に他人に興味が薄いのだ。
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困った奴だと思いつつ、しかしそれでもニキアスはルーカスを側近として使ってみたかった。
そう思わせるものがルーカスにはあると感じられたからだ。
(つまり、上手く使えるかどうかは私次第ということ)
ニキアスはそう結論づけると、改めて手に持っていた書類をルーカスに渡す。
書類を読むルーカスの目が、ゆっくりと見開かれた。
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