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番外編 その後の二人<アリシア夫人登城する>
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その日アリシアはディミトラから招待されて王城に来ていた。
子どもと離れて一人で行動するのはかなり久しぶりだ。
少しの違和感と寂しさを感じつつ、同時に開放感も感じていた。
「こちらです」
ディミトラ付きの侍女について行くと王城の一室に案内される。
公の場として開かれている応接間ではなく、王族が住まうプライベートな空間だ。
ルーカスからも今回のお茶会はアリシアだけが招待されているごく私的なものだと聞いている。
アリシアはディミトラとはまだ数えるくらいしか会っていない。
それなのに自分だけが呼ばれるということは、きっとニキアスとルーカスの関係があるからだろう。
また、アリシアが出産してまだ一年ほどということも関係しているかもしれない。
(ディミトラ様のご懐妊は極秘中の極秘事項。誰にも漏れることのないようにしなくては)
少しの緊張感に包まれながら、アリシアはその扉が開かれるのを待った。
ディミトラの部屋はその性格から予想した通り、比較的機能性を重視した作りになっている。
過度な装飾はほとんどなく置かれている家具類は高級でありつつどちらかというと男性的だ。
それでいて窓辺や応接机の上には生花が飾られており、ところどころに柔らかな色合いが使われていることからここが女性の部屋なのだというのがわかる。
「アリシア夫人、よく来てくれた」
久しぶりに会うディミトラは以前と比べると少しほっそりとしていた。
もしかするとつわりが酷いのかもしれない。
服装はゆったりとしていて、前よりも女性的なデザインだ。
アリシアの見る限りディミトラは公私の区別をしっかりつけるタイプに思える。
公の場に出る時は皇太子妃にふさわしい華やかな装いをしているが、おそらく本人はシンプルな物を好んでいるのだろう。
どうしてなのかはわからないが、アリシアに対しては以前からかなり素の状態で接していくれているように思う。
それもまたニキアスとルーカスの関係性からなのか、それともまた別の理由があるのか。
いずれにしてもアリシア自身はディミトラに好意的な感情を抱いている。
幸運にも話す機会に恵まれ、そして話せば話すほど彼女は魅力的だった。
ロゴス国において王妃に次ぐ高位の存在であるにも関わらず、ディミトラは気さくであり貴族特有の遠回しな言い方を好まず、そして何より人をよく見ている。
だからこそ二人きりのお茶会で自身に対してどんな印象を持たれるかは気になるとことではあるのだが。
(私は私以外の存在にはなれないのだし、取り繕うことのない、ありのままの自分でお話しするしかないわね)
そう思いアリシアは真っ直ぐにディミトラの瞳を見つめた。
「ディミトラ皇太子妃殿下にご挨拶申し上げます」
そして、丁寧にカーテシーをして敬意を表す。
「そちらにかけてくれ」
許可をもらいアリシアはディミトラの正面に腰かけた。
こうして、二人だけのお茶会が始まった。
子どもと離れて一人で行動するのはかなり久しぶりだ。
少しの違和感と寂しさを感じつつ、同時に開放感も感じていた。
「こちらです」
ディミトラ付きの侍女について行くと王城の一室に案内される。
公の場として開かれている応接間ではなく、王族が住まうプライベートな空間だ。
ルーカスからも今回のお茶会はアリシアだけが招待されているごく私的なものだと聞いている。
アリシアはディミトラとはまだ数えるくらいしか会っていない。
それなのに自分だけが呼ばれるということは、きっとニキアスとルーカスの関係があるからだろう。
また、アリシアが出産してまだ一年ほどということも関係しているかもしれない。
(ディミトラ様のご懐妊は極秘中の極秘事項。誰にも漏れることのないようにしなくては)
少しの緊張感に包まれながら、アリシアはその扉が開かれるのを待った。
ディミトラの部屋はその性格から予想した通り、比較的機能性を重視した作りになっている。
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それでいて窓辺や応接机の上には生花が飾られており、ところどころに柔らかな色合いが使われていることからここが女性の部屋なのだというのがわかる。
「アリシア夫人、よく来てくれた」
久しぶりに会うディミトラは以前と比べると少しほっそりとしていた。
もしかするとつわりが酷いのかもしれない。
服装はゆったりとしていて、前よりも女性的なデザインだ。
アリシアの見る限りディミトラは公私の区別をしっかりつけるタイプに思える。
公の場に出る時は皇太子妃にふさわしい華やかな装いをしているが、おそらく本人はシンプルな物を好んでいるのだろう。
どうしてなのかはわからないが、アリシアに対しては以前からかなり素の状態で接していくれているように思う。
それもまたニキアスとルーカスの関係性からなのか、それともまた別の理由があるのか。
いずれにしてもアリシア自身はディミトラに好意的な感情を抱いている。
幸運にも話す機会に恵まれ、そして話せば話すほど彼女は魅力的だった。
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「ディミトラ皇太子妃殿下にご挨拶申し上げます」
そして、丁寧にカーテシーをして敬意を表す。
「そちらにかけてくれ」
許可をもらいアリシアはディミトラの正面に腰かけた。
こうして、二人だけのお茶会が始まった。
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