【受賞&本編完結】たとえあなたに選ばれなくても【改訂中】

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

文字の大きさ
156 / 156

番外編 テリオスのひとりごと<12>

しおりを挟む
「テリオス!」
 
 鍵がかかっていたはずの扉がガンッと大きな音を立てて開いた。
 椅子の上で縮こまっていた僕はその音にびっくりして顔を上げる。

 開いた扉のところに大柄な人がいた。
 夕日がその人の背後から差し込んでいるからか、彼の顔は陰になっていて見えない。

 誰?

 一瞬そう思ったけれどすぐに気づく。

 伸びてきた腕が僕を引き寄せその大きな胸に抱き寄せたから。
 そしてその人からは馴染みのある匂いがした。

「叔父さん?」
「怪我はないか?」

 突然現れた叔父は僕をぎゅっと抱きしめた後今度はあちこちに触れながら聞いてくる。
 いつも冷静で取り乱すことのない叔父はその顔に焦りを浮かべていた。
 そして心配そうな色を浮かべた瞳が僕をジッと見つめている。

「大丈夫だよ」

 本当は大丈夫じゃなかった。
 怪我こそしていなかったけれど、訳もわからないまま一人で閉じ込められていた心細さやミリヤが僕にしたことが心に重くのしかかっている。
 それでも、弱音を吐くことはできないと思った。

 だって、僕が勝手に屋敷を出てきたんだ。
 少しならいいかなって思って内緒で出てきてしまった。
 じいややばあやを心配させて叔父さんにも迷惑をかけた。
 やってはいけないことをした僕が悪い。

 僕の言葉を聞いた叔父さんは少し悲しげな顔をした後すぐに僕を抱き上げた。

 なんで悲しそうなんだろう?

 そう思ったけれど叔父さんの腕の中はとても温かく、心細かったのを忘れるくらい安心できたから。
 初めての遠出による体の疲れと気持ちの落ち込みで限界を迎えていた僕は、気づけば叔父さんの腕の中で気を失うように眠りに落ちてしまったんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目覚めは緩やかに訪れた。

 フッと意識が浮上して耳が誰かの声を拾う。
 
「だから、もっと早くに会いに来るべきだと言ったのよ」
「わかっている。だが何事も準備が必要だろう?」
「事前準備ももちろん大事ですけれど、それでテリオスを危険な目に合わせているのでは意味がないわ」

 柔らかな女性の声がそう言った後小さなため息をついた。

「子どもは成長するものよ。いつまでも屋敷の中に閉じ込めておくことはできないとあなたもわかっていたでしょう?」
「ああ。しかし時期が悪かった。問題を片付けたらすぐにでも迎えに来るつもりだったんだが……」
「先を越されたということね」

 女性の言葉に何も言うことができなかったのか、男性が黙り込む。

 僕は男性の声に聞き覚えがあった。
 僕を助けてくれた叔父さんだ。

 では相手の女性は誰なんだろう?

 そう思いながら僕はゆっくりと目を開く。
 始めに視界に入ったのは見慣れた天井だ。

 僕の部屋?

 今朝も目覚めた時に目にした自分の部屋の天井。
 つまり僕は今自分のベッドに寝ているということだろうか。

 そう思いつつ顔を横に向けるとベッドの脇に置かれた椅子に女性が、その隣に叔父さんが立っているのが見えた。

「叔父さん?」

 問いかけに叔父さんがベッド脇に跪くと僕をのぞき込んでくる。

「調子はどうだ? どこか痛いところとかは?」
「どこも痛くないし大丈夫だよ」

『大丈夫』という言葉を僕は呪文のように使っている。
 たとえ大丈夫ではない時も、自分自身に言い聞かせるようにそう言い続けていれば不思議と何とかなってきたから。

 でも叔父さんは僕が「大丈夫」と言うと決まって少し悲しそうな顔をするんだ。
 そういえば、そんな顔をする理由をいつか聞いてみたいと思っていたな、なんて、この場にそぐわないようなことをぼんやりと考える。

「大丈夫なんてことはないでしょう?」

 どことなく少しぼんやりした僕に優しい声が言葉をかけてきた。
 視線を向ければ柔らかな笑顔を浮かべた女性が僕を見つめている。

 ああ……。
 手の温かさはこの女性からだったんだ。

 ベッドの上に投げ出された僕の右手を女性が両手で包み込んでいる。
 目覚めた時から感じていた温もりは彼女が与えてくれたものなんだ。

「あなたは?」

 彼女は誰なんだろう?

 そう思って言った問いかけに、彼女が答えるのを僕はじっと待っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

いつも読んでいただきありがとうございます。
久しぶりの更新となりました。
なかなか更新ができておりませんが、未完のままにするつもりはありませんので今後ものんびりペースでおつき合いいただけると嬉しいです。

また、本日新しい話を公開しました。
タイトルは『クズ男と別れたらハイスペックな後輩に溺愛されました。』です。
全11話の短編となっておりますので、数日以内に完結します。
よろしければお気に入り登録やいいねをしていただけますととても嬉しいです。
しおりを挟む
感想 42

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(42件)

リコ
2025.02.16 リコ
ネタバレ含む
2025.02.18 神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

テリオスの話にもご感想をありがとうございます!

テリオス目線の話なので今までとは少し違った雰囲気になっているかもしれませんが、彼の話はなぜか本人目線でポンっと浮かんできまして(笑)
親の事情によって領地の屋敷での暮らしを余儀なくされていたテリオスが、成長と共に外の世界へと出てさらにはルーカスとの関係、アリシアとの関係も変化していく……というところまで書けたらいいなと思っています。

今後のテリオスがどうなってしまうのか、更新が少しのんびりペースではありますが、引き続き読んでいただけるととても嬉しいです(^_^)

解除
リコ
2024.11.16 リコ
ネタバレ含む
2024.11.18 神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

いつもご感想をありがとうございます!

前回からかなり時間が空いてしまいましたが、とうとう番外編もいったん完結となりました。

アイラはアリシアの第二子懐妊を知りません。
もしアリシアの懐妊を知ったらアイラが何をしでかすかわからないので、ルーカスは懐妊を秘密にすることとアリシアがアイラの相手をしなくてもいいようにとニキアスにお願いしていますσ(^_^;)

未熟なルーカスに対していろいろなご意見をいただく作品だったので、凄く面白かったと言っていただけて本当に嬉しいです!
婚姻前から婚姻後でルーカスも少しは成長しているといいのですが(笑)
アリシアはさらに強くなっていると思います(^_^;)

今作の後に『転生した悪役令嬢の断罪』(完結済)と、『先視の王女の謀』(始めたばかり)がありますので、よろしければそちらの作品たちにもおつき合いいただけると嬉しいです(^_^)

解除
リリママ
2024.11.16 リリママ

はやく続きが読みたいです、まずは夫人の許可が降りないと2人目の迎え入れれないと思いますが

2024.11.18 神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

ご感想をありがとうございました!

続きが読みたいと言っていただけてとても嬉しかったです(≧∇≦)
かなり間が空いてしまいましたが、その後どうなったのかを投稿しました。
よろしければアリシアがどうしたのかを読んでいただけると嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ
恋愛
大好きな貴方はわたしを裏切り、そして殺されました。 次の人生では幸せになりたい。 前世を思い出したわたしには嫌悪しかない。もう貴方の愛はいらないから!! 自分が王妃だったこと。どんなに国王を愛していたか思い出すと胸が苦しくなる。でももう前世のことは忘れる。 そして元彼のことも。 現代と夢の中の前世の話が進行していきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。