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「神西暦シリーズ GAME/SAME」

「SAME」Ⅲ

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こちらが狼だというのに、山椒魚の魔物の子孫の風田哲也かぜたてつやの方が、まるで人懐っこい犬かのように、赤井隆あかいたかしには思えた。
「あんた、変わってるな!」
「?」
「普通、天使や魔物を倒せる者が現れたら警戒するだろ?」
「ああ。でも助けてくれたじゃないですか?」
「いや、相手を油断させるためかもしれないだろ?」
「ああ。ま、そのときはそのときです。」
「チッ……だが、Jの言ってた通りのヤツらしいな…」
「ジェイさん!懐かしいです。4年、いや、5年前ですかね…天使と戦っていたときに助けてくれて…以前、カレーを作ったんですけど、そのときはあまり食べる時間が無くて、今度また時間があるときにこちらに来てくれれば、またカレーを作りたいです。」
「Jは死んだよ…」
「え?そんな…また食べにこっちに戻って来ると言っていたのに…」
「あんたさ、この国を旅して各地の悪しき魔物や天使と戦ってきたらしいけど、あんたが敵を倒した後、ずっとハッピーエンドで終わってると思ってるだろ?」
「……」
「確かに…MUTUやBUGO、MINOやTABAなど助かったコミュニティの方が多いらしいが、俺の部下の調べによると、あんたが去った後、SUMIやTOSAなど天使たちの猛攻に合ったらしい。」
風田哲也が仲間とともに「GAME」では日本各地を旅しながら、天使や魔物を倒していたが、その後というものは描かれていなかった。もちろん、再び同じ地に行くこともあったし、旅の中で離れた仲間と再び合流するなどして他の地の状況を知る事もあった。それでも、救った結果、一時的にはハッピーエンドになるも最終的に壊滅や全滅などのバッドエンドになったという描写は避けてきた。
「GAME」終盤で、新たな仲間の赤井隆にこれを言わせたのは、これから最終決戦が来ることを、読者に知らせるため…ハッピーエンドのみで終わっていたと思われては、まるで主人公たちが善戦しているように思われてしまうためである。
「ジェイさんの事は他の国だったので知らずに驚きましたが、わかってますよ…ハッピーエンドでないことぐらい。」
Jの事を泣いたのかはわからないが、風田哲也は涙を流しながらも笑っていた。
赤井隆は、それを見て、それまでの風田の認識を変えた。
そのとき、バットポートの近くの海で爆音が上がった。
バットポートにはまだ生き延びた蝙蝠の魔物の子孫たちや、利用客がいた。
赤井隆と風田哲也は、急いで音の方を見た。その原因はすぐにわかった。
5mはあろうかという鯨の天使ホエール・ズー…
海中を高速で移動すると、赤井隆と風田の目の前に現れた。陸に上がっても平気どころか、赤井隆の大剣から出たネットも、ものともせずに、逆に赤井隆を振り回した。
風田哲也の手足の熱でホエール・ズーに攻撃するが、ビクともしなかった。もちろん、火力は最大であった。
ネットが破れ赤井隆が、飛ばされていった。
「部下の報告にあったヤツか…」
ホエール・ズーに殴り飛ばされる形で風田も、赤井隆の近くに飛ばされてきた。
「おい!大丈夫か?あれは、神のお気に入りの1体らしい。」
「お気に入り?」
「天使というより、神直属の神兵…あんたが今まで戦ってきたやつらとは違う!もうすぐ俺の部隊が来る…民間人のあんたは下がって、ここは俺たちに任せるんだ!」
だが、風田哲也も引き下がるわけにはいかなかった。
背後にはまだ逃げてない人々…ホエール・ズーとの間にも苦しみ助けを求める人々がいた。
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