ふっくらフードの魔法

あやてぃ

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涙で濡れたマシュマロ

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家に帰り着いた綾菜は、玄関で靴を脱ぐなり、そのまま崩れ落ちるように泣き出してしまいました。異変に気づいたお母さんが、飛んできました。

「綾菜!? どうしたの、また何かあったの?」

綾菜はしゃくり上げながら、お母さんのエプロンに顔を埋めました。

「お母さん……また、あのバスで……。今度は、腰じゃなくて、フードを……っ。ずっと、ずっと引っ張られて、離してくれなくて……っ」

お母さんの体が、一瞬こわばったのがわかりました。お母さんは綾菜を抱きかかえるようにしてリビングのソファへ運び、落ち着くまで背中をさすり続けました。

「怖かったわね……。本当に怖かったわね、綾菜」

綾菜は、少し落ち着くと、喉元の赤くなった跡をお母さんに見せました。あのふっくらとした自慢のフードは、男の強い力で何度も握りつぶされ、今は見る影もなくしぼんで、左右に歪んでしまっています。

「お母さんが、幸せの形だって言ってくれたのに……。あんなに乱暴に、ぐいぐい引っ張られて……。せっかくお母さんが『ポンッ』ってしてくれたのに、こんなにボロボロになっちゃった……」

綾菜は、自分の心もフードと一緒にボロボロに引き裂かれたような気がして、再び涙をこぼしました。
お母さんは、歪んでしまったフードを悲しそうに見つめ、それから決然とした表情で綾菜の肩を掴みました。

「綾菜、聞きなさい。その男が引っ張ったのは、あなたのパーカーじゃないわ。あなたの『安心』を奪おうとしたの。でもね、見て。こんなに乱暴にされても、このパーカーは破れてない」

お母さんは、震える手で綾菜のフードをもう一度、丁寧になぞりました。中のボアは、男の悪意で押し潰されていましたが、お母さんの指が触れると、じわり、じわりと、必死に空気を吸い込んで元の厚みを取り戻そうとしています。

「この子は、あなたを守るために必死に耐えたのよ。あなたの代わりに、その悪意を全部受け止めてくれたの。だから、ボロボロだなんて言わないで。これは、あなたが戦った証、勲章なんだから」

お母さんは、いつもより力を込めて、フードの形を整えました。

「……はい、ポンッ」

その音は、いつもの軽やかな音ではなく、どこか祈りのような、力強い音でした。

「明日からは、もう一人でバスには乗らせないわ。お母さんが一緒に行く。それに、警察にもちゃんと相談しましょう。あなたの『幸せの形』を壊そうとする人なんて、お母さんが絶対に許さない」

お母さんの瞳には、悲しみだけでなく、娘を守り抜くという強い決意の光が宿っていました。綾菜は、少しずつ膨らみを取り戻していくフードの重みを感じながら、お母さんの温かい胸の中でもう一度泣きました。
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