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繰り返された影、試される勇気
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数日後。綾菜は再び習い事へ向かうため、あの路線バスに乗っていました。
お母さんの言葉を胸に、お気に入りのパーカーとフリルスカートを纏って。けれど、バスが停留所に停まり、人がどっと乗り込んできた瞬間、綾菜の背中に嫌な緊張が走りました。
(大丈夫。私にはお母さんのアドバイスがある……)
そう自分に言い聞かせた直後でした。背後に、あの時と同じような「冷たい気配」を感じたのです。
混雑に紛れて、誰かが綾菜の背後にぴたりと張り付きました。そして次の瞬間、信じられないことが起きました。
男の手が伸びてきたのは、腰ではなく、リュックの上に乗ったあのふっくらとしたフードでした。
「……っ!?」
男は、ボアの詰まった厚みのあるフードを、逃がさないようにギュッと強く掴みました。そのまま、グイグイと、執拗に引っ張ってきたのです。
お母さんや友達との「引っ張りあいっこ」とは全く違う、悪意に満ちた、重くて暗い力。
(なんで……!? 幸せの形なのに……!)
フードの付け根が喉元を圧迫し、綾菜は息が苦しくなりました。男はフードの弾力を楽しむかのように、何度も何度も拳を握り込み、綾菜を自分のほうへ引き寄せようとします。
「苦しい…やめて……」
小さな声しか出ません。周りの大人は、混雑した車内で、まさか子供がフードを引っ張られて痴漢にあっているとは気づきません。男の息遣いがすぐ耳元で聞こえ、綾菜は恐怖で足がすくみそうになりました。
その時、お母さんの言葉が頭の中で響きました。
『周りの大人に、気づいてって合図を送ってもいいのよ』
綾菜は震える手で、ポールを掴んでいた力を緩め、わざと大きくバランスを崩すようにして、隣に立っていた女性の靴を思い切り踏みました。
「あ、ごめんなさい……っ!」
精一杯の大きな声。踏まれた女性が驚いて綾菜の方を見ました。同時に、綾菜は全体重を前にかけ、男が掴んでいるフードを振りほどくようにして、その女性の影に飛び込みました。
「ボフッ」と、フードが男の手から離れ、空気を吸い込んで元の形に戻ろうとする音が聞こえた気がしました。
「……お嬢ちゃん、大丈夫?」
女性が不審な様子に気づき、綾菜を庇うように立ちふさがってくれました。男は舌打ちをすると、次の停留所で逃げるように降りていきました。
綾菜は女性のコートの袖をギュッと掴んだまま、荒い呼吸を整えました。
フードは少し潰れ、形が崩れていました。喉元も少し痛みます。けれど、今回はただ逃げるだけでなく、自分で助けを求める「合図」を出せた。
(お母さん……私、頑張ったよ……)
バスの窓に映る自分の姿。乱れたフードは、それでもなお、持ち主を守り抜いた誇らしさを湛えているように見えました。
お母さんの言葉を胸に、お気に入りのパーカーとフリルスカートを纏って。けれど、バスが停留所に停まり、人がどっと乗り込んできた瞬間、綾菜の背中に嫌な緊張が走りました。
(大丈夫。私にはお母さんのアドバイスがある……)
そう自分に言い聞かせた直後でした。背後に、あの時と同じような「冷たい気配」を感じたのです。
混雑に紛れて、誰かが綾菜の背後にぴたりと張り付きました。そして次の瞬間、信じられないことが起きました。
男の手が伸びてきたのは、腰ではなく、リュックの上に乗ったあのふっくらとしたフードでした。
「……っ!?」
男は、ボアの詰まった厚みのあるフードを、逃がさないようにギュッと強く掴みました。そのまま、グイグイと、執拗に引っ張ってきたのです。
お母さんや友達との「引っ張りあいっこ」とは全く違う、悪意に満ちた、重くて暗い力。
(なんで……!? 幸せの形なのに……!)
フードの付け根が喉元を圧迫し、綾菜は息が苦しくなりました。男はフードの弾力を楽しむかのように、何度も何度も拳を握り込み、綾菜を自分のほうへ引き寄せようとします。
「苦しい…やめて……」
小さな声しか出ません。周りの大人は、混雑した車内で、まさか子供がフードを引っ張られて痴漢にあっているとは気づきません。男の息遣いがすぐ耳元で聞こえ、綾菜は恐怖で足がすくみそうになりました。
その時、お母さんの言葉が頭の中で響きました。
『周りの大人に、気づいてって合図を送ってもいいのよ』
綾菜は震える手で、ポールを掴んでいた力を緩め、わざと大きくバランスを崩すようにして、隣に立っていた女性の靴を思い切り踏みました。
「あ、ごめんなさい……っ!」
精一杯の大きな声。踏まれた女性が驚いて綾菜の方を見ました。同時に、綾菜は全体重を前にかけ、男が掴んでいるフードを振りほどくようにして、その女性の影に飛び込みました。
「ボフッ」と、フードが男の手から離れ、空気を吸い込んで元の形に戻ろうとする音が聞こえた気がしました。
「……お嬢ちゃん、大丈夫?」
女性が不審な様子に気づき、綾菜を庇うように立ちふさがってくれました。男は舌打ちをすると、次の停留所で逃げるように降りていきました。
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