「好きだ」とか、「嫌いだ」とか「愛している」とか「運命」だとか。それらはすべてフィクションです。ー彼女の事情ー

①

　「好きだ」とか、「嫌いだ」とか。
　「愛している」とか、「運命」だとか。
　それらは私にとって、漫画やテレビの中の話でフィクションの話だ。


　どこにでもいるような中肉中背。
　本当は二重なのだが、ちょっと厚ぼったいまぶたが瞳を押し潰すせいで、たれ目になりなぜか眠そうな目に見えてしまう。
　鼻は小鼻と鼻の頭が同じ感覚なので、にんにくのように見える。
　

　これが漫画の話なら、「お前の鼻、変な形だな」ってからかってくる男子がその女子を好きか、からかわれて泣いている女の子を実は好きなクールな男子が「俺、お前の鼻、好きだぜ」なんて呟いたりするのだろう。


　しかし、私はひっそりと影のあだ名が鼻にんにくだったので、そんな素敵なエピソードはない。


　もちろん、表だってそう呼ばれた訳ではない。

　
　休み時間にトレイに席を立ち、戻る時に教室から「このノート誰の？」と陽キャ男子の声が聞こえると、それに続くように「あー、鼻にんにくだよ」と声が聞こえた。


　教室に戻ると、机の上にノートが置かれていた。
　周りを見回すが、ノートが置かれている机は私だけだった。




　つまり、私が鼻にんにくか。





　
　なかなか、悪くない。



　悪意のあるブスや、デブ。などより、人の特徴をとらえた、いいあだ名ではないか。
　ぜひ、付けた人間に座布団一枚。と言いたい所だが、誰かわからないので、そっとノートを机の中にしまって席に着いた。

　
「すごい字が綺麗だよね」という男子も、「体育祭頑張ろうな」とクラス全員とハイタッチしている男子も、実は陰で鼻にんにくと言っているんだろうな。と思いながらも、概ね平和な学生生活が送れたと思う。



　青春？
　


　もちろん、勉強頑張りましたよ。



　恋愛毎だけが青春じゃないでしょう。
　それに、大学生になれば、私も女性らしくなり、恋愛の方からこちらに向かってくる。


　そう、思っていた時代もありました。


　現在、23歳。


　大学の入学式の時に買ってもらったリクルートスーツを相変わらず愛用しながら、毎朝満員電車に揺られております。


　「好きだ」とか、「嫌いだ」とか。
　「愛している」とか、「運命」だとか。
　あれはフィクションだといつもタイトルに書いてあるじゃないか。


　実際に、突然キスされたら強制わいせつ罪にあたるだろうし、女が家に「会いたいから来ちゃった」なんてずぶ濡れの状態でいたらとんでもなく執念深いストーカーではないか。


　アニメも漫画もフィクションだから楽しいのだ。
　フィクションだから許されるのだ。


　だから、こんな私に恋なんて振ってくる訳がない。


　そう、思っていた。



　この時までは。