運命の出会いは突然に

おみや

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 周囲に鳴り響く防犯ブザーの音に、どれだけそうしていただろうか。



 震える手で、ブザーを解除する。



 確かに、今、誰かがこのテントを開けようとしていた。







 誰が?






 ガチガチと歯がかみ合わず、音が鳴る。
 手が震えてスマホのロックがうまく解除できない。



 ひざ掛けを頭からかぶり、震える体を抱きしめた。



 真っ暗な闇しかない外が怖い。


 
 このまま、朝を待つしかないの?





「…美里さんー!」





「美里さん!大丈夫ですか!?」




 見知った声にテントからはい出ると、懐中電灯をつけて息を切らせた芝さんが心配そうに顔を覗かせた。



「あの、芝さん。私…」

「ゆっくりでいいですから。何があったんですか」

「私、ああー!怖かったーー!!」





 安心したら涙がとめどなく流れ出てきてしまった。



「誰かがテントに入ってこようとしたって事ですか?動物って可能性もない訳でなないでしょうが、テントを開けようとしたって所が気持ち悪いですね」



 コクコクと頷く。



「いち早く、安全な場所に連れて行ってあげたいんですが…」



 そう声をかける芝さんが周囲を見回す。



 山の天気は変わりやすい。
 昨日は綺麗に晴れていた山は、今深い霧に覆われ周囲が見えないようになっていた。


「私、ここで見張っているので、テントの中に入っていてください」

「えっ、でも…」

「大丈夫です。さすがにこの霧なので、私も迂闊に飛び出てきた訳じゃないので。まあ、そのせいでここに来るのが遅くなってしまったのは、本当に申し訳ないです」

「いえ、あの、芝さんのせいじゃないですし。あの、ごめんなさい。私のせいで」

「それこそ、美里さんのせいじゃないでしょう」



 芝さんに促され、テントの中に戻ってくる。


 
 もし、さっきの誰かが戻ってきたら?
 もし、一人じゃなかったら?

 
 もしの想像が止まらない。
 寒気なのか、ぶるっと体が震えた。


「美里さん。起きてますか?」

「起きてます…」

「良かったら、温かいものを作ったのでどうですか?」


 テントから顔を出すと、芝さんがクルクルと火にかけたシェラカップをまわしてる。


「あ、この香り…」

「ホットミルクです。体が温まるように、ちょっと蜂蜜もくわえてありますよ」

「嬉しい。私、これ大好きなんです。子供の頃からよく飲んでいて」

「そうなんですか。それは良かった。私もこれが好きなんですよ。蜂蜜を多く入れ過ぎないよう気をつけないと、こんなお腹になってしまいますからね」



 そういって、自分のお腹とつつくしぐさをする芝さんに思わず笑ってしまう。



「大丈夫ですよ。ちゃんと、すぐ朝になりますから。もう、怖い事なんてありませんからね」


 外でつけた芝さんのライトの明るさが安心感を運んでくれる。
 気づけば震えはもうなくなっていた。









 気づいた時には、山の麓から綺麗な朝日が差し込んでいた。


 私、寝てたの…?



 外の明るさに勇気を貰いテントを出ると、小さな椅子の上で体を小さくしながら眠っている芝さんが居た。





 ずっと、ここに居てくれたんだ…。




『そこにあるはずなのに、いつもは見えていないもの』




 きっと、この場所じゃないと見つけられなかった。



 優しくて、安心感があって、一緒にいていつも笑っていられる人。
 ドキドキと胸の高鳴る音がする。


 朝日に照らされる芝さんの横顔を、私はドキドキする胸を押さえながら見つめ続けた。


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