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一人用セリフ
男女可 ちょい役有「ハイイロのセカイ」 語り しみじみ
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『自分が見ている現実の世界は、文字通り、すべてが灰色だった』
ずっと昔。
自分が自分だと思えず、全ての五感に違和感しかなく、周りにも馴染めずに一人で生きていた頃の事。
誰かと話すこともなく、目を上げることもなく、自分の世界はひたすら無差別に読み漁った本の中にあった。
周りの喧騒も、陰で嫌な言葉を吐く奴らも、それに合わせてくすくす笑う汚い女どもも、その世界には存在しなかった。
友達のために命をかける登場人物、バカみたいな話で盛り上がる男の子たち。他愛ないことで寄り集まって楽しそうに盛り上がっていく女の子。それらすべてが集まって進んでいく、絆と、信頼と、友情物語。
どうしようもなく美しくて、かっこよくて、どこまでも夢幻でしかないその世界に、自分の目は奪われた。
でも、現実ではそうもいかない。
常に何かに怯えるように心はすくみ、誰かの顔も見ることもできず、自分が自分であることも理解ができない。ただ、そんな世界。
たくさんの本をバックに詰め込み、地面と自分の足先を見て歩んできた。視界に入るのは灰色のコンクリートと、悲しいほどに汚れ切った黒い靴の先。
自分の背中に、叶うことのない夢幻を背負って、いつかきっと、いつかきっとと願いながら。
長い人生だったと思う。何一つとして色づかないこんな世界で、何も得ず、ただ失うだけの人生だった。
背中に積み上げた夢の数々はボロボロに擦り切れたバックの穴からこぼれ落ちて、いつの間にか消えていた。
消えていたことにも気づかないくらいには、擦り切れて穴だらけになったバックと同様、自分もボロボロになって。
「これ以上はもう――」
何もかも諦めて、全てを捨てて仕舞えばいいだろうかと考えていた時に、
突然それは現れた。
美しいの花束を両手に抱えたような、はたまた大輪の花を夜空に咲かせたような。そんな人だった。
前を向かないと転んじゃう。それに、前を向かなきゃ見えるものも見えなくなっちゃうよ?
なんて、いたずらっ子のような、揶揄うような笑顔でそういう君の言葉に、少しだけ心が揺れた。
そらはいろんなことを教えてくれるんだよ。
顔を上向かせて笑顔を浮かべるその姿は、どこか晴れやかで、美しくて。今まで見たことのない心の綺麗さのようなものを見た気がして。
僕は彼女に倣って、空を見上げてみた
「え、、、?」
衝撃だった。
空はどこまでも高く、青く、雲は目を奪うほど白くて綺麗で。
流れる風が髪を揺らし頬を撫で、木の葉を攫って吹き抜ける。
サラサラとなるその音と、吹き抜けた風の音と、緩やかに流れる眩しいくらいの雲を見て、僕の世界は一瞬で色付いた。
こんなに、世界は眩しいものだっただろうか。
『ほらね?だから言ったでしょ?』
声が聞こえて目を向けると、太陽に照らされた君の笑顔が、白い雲のように輝いて見えて。
どうしようもないくらい苦しくなってしまって。
うん、そうだね。
なんて、答えた声はどこまでも掠れてしまっていて。
いたずらっ子のように笑った彼女を見ながら、僕は濡れた頬をそのままに、同じように笑い返した。
『僕の見ている世界は、すべてが灰色だった』
何の色もなく、意味もなく。
何も得ず、何も拾わず。
ただ失うばかりの人生を歩んできた。
自分が自分であることも理解できず、世界の色さえも無視をして。
僕の世界は灰色だった。
灰色だったんだ。
あれから随分時間が流れた。くだらない話をして笑い合って、ようもないのに呼び出されては一緒に遊んで、他愛無い話をするような。そんな人生。
ここに君はいないけれど、僕の世界は色付いて、たくさんの夢を抱えて生きている。
きっともう変わることのない僕の世界。
大切に、大切にしながら生きていこうと思う。
全部、全部君にもらったものだから。
あの日、僕に向かっていたずらっ子のように笑った君を、僕は生涯忘れない。
ずっと昔。
自分が自分だと思えず、全ての五感に違和感しかなく、周りにも馴染めずに一人で生きていた頃の事。
誰かと話すこともなく、目を上げることもなく、自分の世界はひたすら無差別に読み漁った本の中にあった。
周りの喧騒も、陰で嫌な言葉を吐く奴らも、それに合わせてくすくす笑う汚い女どもも、その世界には存在しなかった。
友達のために命をかける登場人物、バカみたいな話で盛り上がる男の子たち。他愛ないことで寄り集まって楽しそうに盛り上がっていく女の子。それらすべてが集まって進んでいく、絆と、信頼と、友情物語。
どうしようもなく美しくて、かっこよくて、どこまでも夢幻でしかないその世界に、自分の目は奪われた。
でも、現実ではそうもいかない。
常に何かに怯えるように心はすくみ、誰かの顔も見ることもできず、自分が自分であることも理解ができない。ただ、そんな世界。
たくさんの本をバックに詰め込み、地面と自分の足先を見て歩んできた。視界に入るのは灰色のコンクリートと、悲しいほどに汚れ切った黒い靴の先。
自分の背中に、叶うことのない夢幻を背負って、いつかきっと、いつかきっとと願いながら。
長い人生だったと思う。何一つとして色づかないこんな世界で、何も得ず、ただ失うだけの人生だった。
背中に積み上げた夢の数々はボロボロに擦り切れたバックの穴からこぼれ落ちて、いつの間にか消えていた。
消えていたことにも気づかないくらいには、擦り切れて穴だらけになったバックと同様、自分もボロボロになって。
「これ以上はもう――」
何もかも諦めて、全てを捨てて仕舞えばいいだろうかと考えていた時に、
突然それは現れた。
美しいの花束を両手に抱えたような、はたまた大輪の花を夜空に咲かせたような。そんな人だった。
前を向かないと転んじゃう。それに、前を向かなきゃ見えるものも見えなくなっちゃうよ?
なんて、いたずらっ子のような、揶揄うような笑顔でそういう君の言葉に、少しだけ心が揺れた。
そらはいろんなことを教えてくれるんだよ。
顔を上向かせて笑顔を浮かべるその姿は、どこか晴れやかで、美しくて。今まで見たことのない心の綺麗さのようなものを見た気がして。
僕は彼女に倣って、空を見上げてみた
「え、、、?」
衝撃だった。
空はどこまでも高く、青く、雲は目を奪うほど白くて綺麗で。
流れる風が髪を揺らし頬を撫で、木の葉を攫って吹き抜ける。
サラサラとなるその音と、吹き抜けた風の音と、緩やかに流れる眩しいくらいの雲を見て、僕の世界は一瞬で色付いた。
こんなに、世界は眩しいものだっただろうか。
『ほらね?だから言ったでしょ?』
声が聞こえて目を向けると、太陽に照らされた君の笑顔が、白い雲のように輝いて見えて。
どうしようもないくらい苦しくなってしまって。
うん、そうだね。
なんて、答えた声はどこまでも掠れてしまっていて。
いたずらっ子のように笑った彼女を見ながら、僕は濡れた頬をそのままに、同じように笑い返した。
『僕の見ている世界は、すべてが灰色だった』
何の色もなく、意味もなく。
何も得ず、何も拾わず。
ただ失うばかりの人生を歩んできた。
自分が自分であることも理解できず、世界の色さえも無視をして。
僕の世界は灰色だった。
灰色だったんだ。
あれから随分時間が流れた。くだらない話をして笑い合って、ようもないのに呼び出されては一緒に遊んで、他愛無い話をするような。そんな人生。
ここに君はいないけれど、僕の世界は色付いて、たくさんの夢を抱えて生きている。
きっともう変わることのない僕の世界。
大切に、大切にしながら生きていこうと思う。
全部、全部君にもらったものだから。
あの日、僕に向かっていたずらっ子のように笑った君を、僕は生涯忘れない。
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