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35.会うために、戦う
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遠くで兵士や神官がバタバタしている気配がする。
いつもなら夜斗が外の庭に連れて行ってくれて修行をするんだけど、今日は起きてから一歩も部屋の外に出してもらえなかった。
……そして、夜斗は何だか難しい顔をしている。
「ねぇ、夜斗、今日って何かあるの?」
お茶を飲みながら、窓から外を見る。
さっきまでは飛龍の鳴き声がちょっと騒がしかったけど、今は少し静かだ。
夜斗は私の問いには答えず――向かいの椅子に座ったまま、頭を抱えていた。
「結局、防御は今イチだし……。この日が来て、まだ踏ん切りがつかねぇ……」
「この日って何よ」
「……」
夜斗は黙ったまま、溜息をついた。
エルトラに来てから、いつも夜斗が私の監視をしていた。
でも、私の能力――フェルティガを蓄えること――がわかって、今度はうまく使えるよう、ずっと訓練に付き合ってくれていた。
ただ、一か月の訓練では空手の攻撃に上乗せすることと、ちょっと体の周りにバリアを張って防御することしか覚えられなかったんだけど。
「入るわよ」
ドアの向こうから理央の声が聞こえた。夜斗がハッとしたように顔を上げた。
そのとき、遠くで何かが爆発するような音が聞こえてきた。
階下に……兵士が慌てて駆けてくる足音が響いている。
『何?』
『リオネール様! 侵入者です。……フェルティガエです! 庭の階段から真っ直ぐこちらに向かってきます!』
兵士が下から叫んでいるようだ。
その声は、部屋の中にいた私たちにも聞こえた。
「侵入者……? ユウだ!」
私は嬉しくなってリュックを背負うと、ドアの方へ駆け出した。
「待てって!」
夜斗にリュックを捕まえられる。
「そこにはリオがいるんだ。どうやって出る気だよ」
「とりあえず飛び降りたら防御でどうにかなるかな、と……」
「お前の防御じゃ無理! そしてその前にリオが捕まえるよ!」
夜斗がそう言うのと同時に、ドアが開いた。
「朝日!」
理央だ。顔が強張っている。
私のところに走ってくると、腕を掴んでぐいぐい引っ張った。物凄い力だ。
「とりあえず一緒に来るのよ」
「やだ!」
だって理央は、私をユウの手が届かないところまで連れて行こうとしてる。絶対、捕まる訳にはいかない。
……すぐそこに、ユウがいるのに!
理央が私を抱え上げようとしたので、思わず蹴りを放つ。しかし理央の防御に弾かれてしまった。後ろへとよろめいてしまう。
『ああ、もう! 手を焼かせないで!』
「【来ないで!】」
私が叫ぶと、理央の動きが一瞬止まった。
「強制執行……」
夜斗がボソッと呟く。
「朝日、今のうちにドアから……」
「え?」
――しかし、理央は急にハッと我に返った。私を睨みつける。
『全く厄介な……』
「……!」
よくわからないけど、動きは一瞬止められた。
だけどやっぱり、理央を躱して逃げ出すのは無理だ。
どうにか気絶させられないかな……。
私は理央に向かって駆け出した。
確か夜斗が、理央は体術はからきしだと言っていた。
一対一なら私に分があるはず……!
『私をナメないで!』
キレた理央が手から何かを放ち――それは、天井に付けられていた豪華な装飾品に当たった。私の頭上から降ってくる。
私は慌てて飛び退いた。
激しい音を立てて、その綺麗なガラス細工が砕け散る。
飛び散った破片が私の頬を掠った。
『……面倒な……!』
理央が忌々しげに壁を叩いた。
壁にミシリ……と亀裂が入り、崩れ出した。
崩れた壁がガラガラガラ……と下に落ちていく。
奥に、あのがらんどうの塔の冷たい壁が見えた。
それを見て、この部屋がものすごく高い場所にあることを思い出した。
たとえ理央を気絶させたとしても、私にはこの部屋から脱出する方法がない。
……イチかバチか飛び降りるしかないのかな……?
迷っていると、理央がすぐ目の前に来ていた。
慌てて避けて、正拳突きを食らわす。理央はつねに防御してるから、あまりダメージがない。
『ヤト、何してるのよ! 朝日を抑えて!』
理央が夜斗に怒鳴っている隙に、回し蹴りを放つ。
理央は防御し、腕で思いっきり私を突き飛ばした。
強化された理央の腕力は凄まじく、私の防御では耐えられなかった。
物凄い勢いで飛ばされ……崩れた壁にぶちあたる。
「……!」
壁が崩れ、私は宙に放り出された。
視界の端で、ハッとする夜斗の顔が見えた。
「【……夜斗! 助けて!】」
防御! 防御と受け身で何とか……。
――そのとき、ふっと何かに抱きかかえられ、私の視界が遮られる。
思わず目をつむった。
そのままの速度で私は下に落ちた……。
「……?」
何かふわっとする感触を感じて、恐る恐る目を開けた。
地上……大きな祭壇の前。
夜斗が私を抱きかかえながら、荒い息をしていた。
バリアを張って落下の衝撃を防いでくれたらしい。
『ヤト! どういうつもり!』
理央が上から鬼の形相で自らを武器に突っ込んでくる。
夜斗が私を庇ってバリアを張った。理央の身体を跳ね返す。
『……強制執行だよ……リオ』
『あんたなら防げるはずよ!』
弾かれた理央が、立ち上がりながら怒鳴り散らす。
理央の凄まじいフェルが私達の周りを包んだ……が、私の中に吸収された。
『……なぜわからないの! 朝日を連れて行かなければ、フィラの民は帰ってこないのよ!』
完全にキレた理央がイライラした様子で叫んだ。
――そのとき、物凄い物音がして、塔の壁に外から大きな穴が開いた。
ハッとして音がした方を見ると……庭からユウが入ってきた。
兵士の恰好をしている。
『朝日が……なんだって?』
「ユウ!」
やっぱりユウだったんだ! 助けに来てくれた!
私は一目散にユウに駆け出した。
『危ねぇ!』
背中で夜斗の声が聞こえた。振り返ると、置いてあった祭壇が物凄いスピードで飛んでくる。
瞬間移動で跳んだ夜斗が私の目の前に急に現れた。
駄目、夜斗のバリアは間に合わない!
「夜斗……!」
その瞬間、祭壇は目の前で大破した。砕けた何かの破片が四方八方に飛び散り、私達の方へも飛んでくる。
思わず夜斗を庇うように伸ばした右腕にぶつかる直前、瓦礫は私たちの目の前で不自然に弾け、散っていった。
その光景に驚き思わずよろけてしまった私の背中を、何かが受け止める。
「あ……」
「朝日……無事か?」
……ユウだ。後ろから力強く抱きしめられた。
「うん……夜斗が守ってくれた」
「……ユウ……?」
夜斗が這いつくばりながら訝しげな顔をしている。
『ふうん……それが本当の姿なの。ちょうどいい機会だわ。私がユウを倒す!』
理央がぎらりと瞳を光らせた。
え、ちょっと待って。闘うの? 理央と、ユウが?
私の脳裏に、夏の惨状が蘇ってきた。徹底的に潰しておいた、と淡々と語っていたユウ。
駄目……駄目だよ。
ユウ、理央は……。
「おい、夜斗。理央と闘っていいのか」
ユウを見上げたけど、私の視線はユウとは合わなかった。夜斗の方に振り返って聞いている。
ユウは邪魔くさそうに兵士の服を破り捨てた。
「頼む……。ここで一度闘っておかないと、多分折れねぇ。ただ……殺さないでくれ」
「朝日の前で俺がそこまでするか」
ユウは吐き捨てるように言うと「庭まで逃げて」と言い残し、理央に突進していった。
『おい……こんな大きいモノをあんな勢いで朝日にぶつけたら……死ぬだろうが!』
『どうせ夜斗が庇うから……構やしないわよ!』
ユウと理央の力が激しくぶつかり合う。
長い廊下の向こうに兵士たちがいたが……理央とユウが闘い始めたのが分かったのか、誰も近寄ろうとしない。
ユウは、理央を殺さない、と断言した。多分、大丈夫だ。
私は倒れている夜斗のもとに駆け寄った。肩を貸して、何とか外まで連れて行く。
そのとき、塔の壁が……さらに大きく崩れた。
ユウが突入するために開けた穴が、だんだん広がっていく。
この塔はとても高いが、中はがらんどうだ。
すごくバランスが悪そう……。
二人が戦ってるうちにこの亀裂からあっと言う間に崩れてしまうかもしれない。
私はなるべく塔から遠ざかろうと、奥の芝生のところまで夜斗を引っ張った。
夜斗は意識はあるけど、かなりヘロヘロだ。庭に辿りついた途端、ガクンと膝をつき、仰向けにゴロンと倒れこんでしまった。
いつもなら夜斗が外の庭に連れて行ってくれて修行をするんだけど、今日は起きてから一歩も部屋の外に出してもらえなかった。
……そして、夜斗は何だか難しい顔をしている。
「ねぇ、夜斗、今日って何かあるの?」
お茶を飲みながら、窓から外を見る。
さっきまでは飛龍の鳴き声がちょっと騒がしかったけど、今は少し静かだ。
夜斗は私の問いには答えず――向かいの椅子に座ったまま、頭を抱えていた。
「結局、防御は今イチだし……。この日が来て、まだ踏ん切りがつかねぇ……」
「この日って何よ」
「……」
夜斗は黙ったまま、溜息をついた。
エルトラに来てから、いつも夜斗が私の監視をしていた。
でも、私の能力――フェルティガを蓄えること――がわかって、今度はうまく使えるよう、ずっと訓練に付き合ってくれていた。
ただ、一か月の訓練では空手の攻撃に上乗せすることと、ちょっと体の周りにバリアを張って防御することしか覚えられなかったんだけど。
「入るわよ」
ドアの向こうから理央の声が聞こえた。夜斗がハッとしたように顔を上げた。
そのとき、遠くで何かが爆発するような音が聞こえてきた。
階下に……兵士が慌てて駆けてくる足音が響いている。
『何?』
『リオネール様! 侵入者です。……フェルティガエです! 庭の階段から真っ直ぐこちらに向かってきます!』
兵士が下から叫んでいるようだ。
その声は、部屋の中にいた私たちにも聞こえた。
「侵入者……? ユウだ!」
私は嬉しくなってリュックを背負うと、ドアの方へ駆け出した。
「待てって!」
夜斗にリュックを捕まえられる。
「そこにはリオがいるんだ。どうやって出る気だよ」
「とりあえず飛び降りたら防御でどうにかなるかな、と……」
「お前の防御じゃ無理! そしてその前にリオが捕まえるよ!」
夜斗がそう言うのと同時に、ドアが開いた。
「朝日!」
理央だ。顔が強張っている。
私のところに走ってくると、腕を掴んでぐいぐい引っ張った。物凄い力だ。
「とりあえず一緒に来るのよ」
「やだ!」
だって理央は、私をユウの手が届かないところまで連れて行こうとしてる。絶対、捕まる訳にはいかない。
……すぐそこに、ユウがいるのに!
理央が私を抱え上げようとしたので、思わず蹴りを放つ。しかし理央の防御に弾かれてしまった。後ろへとよろめいてしまう。
『ああ、もう! 手を焼かせないで!』
「【来ないで!】」
私が叫ぶと、理央の動きが一瞬止まった。
「強制執行……」
夜斗がボソッと呟く。
「朝日、今のうちにドアから……」
「え?」
――しかし、理央は急にハッと我に返った。私を睨みつける。
『全く厄介な……』
「……!」
よくわからないけど、動きは一瞬止められた。
だけどやっぱり、理央を躱して逃げ出すのは無理だ。
どうにか気絶させられないかな……。
私は理央に向かって駆け出した。
確か夜斗が、理央は体術はからきしだと言っていた。
一対一なら私に分があるはず……!
『私をナメないで!』
キレた理央が手から何かを放ち――それは、天井に付けられていた豪華な装飾品に当たった。私の頭上から降ってくる。
私は慌てて飛び退いた。
激しい音を立てて、その綺麗なガラス細工が砕け散る。
飛び散った破片が私の頬を掠った。
『……面倒な……!』
理央が忌々しげに壁を叩いた。
壁にミシリ……と亀裂が入り、崩れ出した。
崩れた壁がガラガラガラ……と下に落ちていく。
奥に、あのがらんどうの塔の冷たい壁が見えた。
それを見て、この部屋がものすごく高い場所にあることを思い出した。
たとえ理央を気絶させたとしても、私にはこの部屋から脱出する方法がない。
……イチかバチか飛び降りるしかないのかな……?
迷っていると、理央がすぐ目の前に来ていた。
慌てて避けて、正拳突きを食らわす。理央はつねに防御してるから、あまりダメージがない。
『ヤト、何してるのよ! 朝日を抑えて!』
理央が夜斗に怒鳴っている隙に、回し蹴りを放つ。
理央は防御し、腕で思いっきり私を突き飛ばした。
強化された理央の腕力は凄まじく、私の防御では耐えられなかった。
物凄い勢いで飛ばされ……崩れた壁にぶちあたる。
「……!」
壁が崩れ、私は宙に放り出された。
視界の端で、ハッとする夜斗の顔が見えた。
「【……夜斗! 助けて!】」
防御! 防御と受け身で何とか……。
――そのとき、ふっと何かに抱きかかえられ、私の視界が遮られる。
思わず目をつむった。
そのままの速度で私は下に落ちた……。
「……?」
何かふわっとする感触を感じて、恐る恐る目を開けた。
地上……大きな祭壇の前。
夜斗が私を抱きかかえながら、荒い息をしていた。
バリアを張って落下の衝撃を防いでくれたらしい。
『ヤト! どういうつもり!』
理央が上から鬼の形相で自らを武器に突っ込んでくる。
夜斗が私を庇ってバリアを張った。理央の身体を跳ね返す。
『……強制執行だよ……リオ』
『あんたなら防げるはずよ!』
弾かれた理央が、立ち上がりながら怒鳴り散らす。
理央の凄まじいフェルが私達の周りを包んだ……が、私の中に吸収された。
『……なぜわからないの! 朝日を連れて行かなければ、フィラの民は帰ってこないのよ!』
完全にキレた理央がイライラした様子で叫んだ。
――そのとき、物凄い物音がして、塔の壁に外から大きな穴が開いた。
ハッとして音がした方を見ると……庭からユウが入ってきた。
兵士の恰好をしている。
『朝日が……なんだって?』
「ユウ!」
やっぱりユウだったんだ! 助けに来てくれた!
私は一目散にユウに駆け出した。
『危ねぇ!』
背中で夜斗の声が聞こえた。振り返ると、置いてあった祭壇が物凄いスピードで飛んでくる。
瞬間移動で跳んだ夜斗が私の目の前に急に現れた。
駄目、夜斗のバリアは間に合わない!
「夜斗……!」
その瞬間、祭壇は目の前で大破した。砕けた何かの破片が四方八方に飛び散り、私達の方へも飛んでくる。
思わず夜斗を庇うように伸ばした右腕にぶつかる直前、瓦礫は私たちの目の前で不自然に弾け、散っていった。
その光景に驚き思わずよろけてしまった私の背中を、何かが受け止める。
「あ……」
「朝日……無事か?」
……ユウだ。後ろから力強く抱きしめられた。
「うん……夜斗が守ってくれた」
「……ユウ……?」
夜斗が這いつくばりながら訝しげな顔をしている。
『ふうん……それが本当の姿なの。ちょうどいい機会だわ。私がユウを倒す!』
理央がぎらりと瞳を光らせた。
え、ちょっと待って。闘うの? 理央と、ユウが?
私の脳裏に、夏の惨状が蘇ってきた。徹底的に潰しておいた、と淡々と語っていたユウ。
駄目……駄目だよ。
ユウ、理央は……。
「おい、夜斗。理央と闘っていいのか」
ユウを見上げたけど、私の視線はユウとは合わなかった。夜斗の方に振り返って聞いている。
ユウは邪魔くさそうに兵士の服を破り捨てた。
「頼む……。ここで一度闘っておかないと、多分折れねぇ。ただ……殺さないでくれ」
「朝日の前で俺がそこまでするか」
ユウは吐き捨てるように言うと「庭まで逃げて」と言い残し、理央に突進していった。
『おい……こんな大きいモノをあんな勢いで朝日にぶつけたら……死ぬだろうが!』
『どうせ夜斗が庇うから……構やしないわよ!』
ユウと理央の力が激しくぶつかり合う。
長い廊下の向こうに兵士たちがいたが……理央とユウが闘い始めたのが分かったのか、誰も近寄ろうとしない。
ユウは、理央を殺さない、と断言した。多分、大丈夫だ。
私は倒れている夜斗のもとに駆け寄った。肩を貸して、何とか外まで連れて行く。
そのとき、塔の壁が……さらに大きく崩れた。
ユウが突入するために開けた穴が、だんだん広がっていく。
この塔はとても高いが、中はがらんどうだ。
すごくバランスが悪そう……。
二人が戦ってるうちにこの亀裂からあっと言う間に崩れてしまうかもしれない。
私はなるべく塔から遠ざかろうと、奥の芝生のところまで夜斗を引っ張った。
夜斗は意識はあるけど、かなりヘロヘロだ。庭に辿りついた途端、ガクンと膝をつき、仰向けにゴロンと倒れこんでしまった。
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