収監令嬢は◯×♥◇したいっ! ~全く知らない乙女ゲー世界で頑張ります~

加瀬優妃

文字の大きさ
148 / 156
おまけ・後日談

【閑話4】月光龍の憂鬱

しおりを挟む
 トルクの領域から戻って来たあとの話です。
――――――――――――――――――――――――――――――――


 魔王城、謁見の間。魔王の相棒、月光龍ムーンライトドラゴンは開け放してあった扉の中へ、のっそりと顔を突き出した。

 さきほどトルクの領域から聖女マリアンセイユを連れ帰ってきたところだが、二代目魔王は彼女のその表情から何かを察したのか、
“あとで報告を”
とこっそりムーンに伝えていたからだ。

 『あと』とは聖女の機嫌をとったあと、ということだろうか。
 まったく初代魔王といい二代目魔王といい、どうしてこうも『聖女』という存在に振り回されるのか……と、ムーンは頭を痛めていた。

 聖女を地下の領域に送り届けた魔王は、比較的すぐに謁見の間へと戻って来た。
 そして
「で、何があったんです?」
と無表情ながらもどこか楽し気な声色でムーンに問いかける。

“聖女は何も言ってないのか?”
「トルクとちょっとやりあっちゃった、とだけ。何やら言いにくそうにしていたので『ムーンに話を聞いてきます』と言って出てきました。……まぁ、予想通りでしたが」
“予想通りなら、なぜ事前に聖女に言っておかない?”

 ムーンが気色ばむ。
「ですから何があったんです?」
という魔王の問いに、“フン”といつもより大きな鼻息で応えた。

“ルークに挑発された聖女が『真の名』を呼びかけてルークを縛った”
「ほう。どうなりました?」
“術に縛られ、根負けしたルークが自分が悪かったと聖女に謝った”
「やりますね、聖女は。ふふ」
“笑い事か! ルークの頭が固かったゆえ暴走せずに済んだが、一歩間違えれば大惨事だったぞ!”

 ムーンが思わず喚くと、魔王はふふふ、とさらに機嫌良さそうに笑った。
 聖女の前以外では無表情であることの多い二代目魔王が、声を上げて笑うのはかなり珍しい。

「だからムーンに聖女の傍に常にいてください、と言ったのです。結界で隔離するなり何なりすれば、大惨事の前に必ず抑えられるでしょう?」
“大惨事が起こる前に言い聞かせておけば済む話ではないか? なぜ二人共わたしに甘えるのだ!”

 聖女と同じことを言われたムーンが『やってられない』とばかりに再び喚く。
 そんなムーンを見て、魔王がこらえきれないように肩を震わせた。
 やらかした聖女とそんな聖女を叱りつけるムーンを想像し、可笑しくなってしまったらしい。

“だから笑い事ではないのだが?”
「少しムーンに甘えさせてください。信頼しているんですよ」
“戯言はいい。何か考えがあるのだろう? 聞かせてもらおうか”

 魔王は予想通りだと言っていた。ただただ聖女を甘やかしている訳ではない、ということだろう。
 そう思い直したムーンがやや落ち着きを取り戻すと、魔王は

「ムーンを信頼して、というのは本心ですよ。そして理由は、三つあります」

と右手の人差し指と中指と薬指の三本の指を立てて見せた。

「一つ目は、ルークに聖女を認めさせるためです」
“ルークに?”
「ええ」

 人間を嫌悪する『ルーク』こと、魔獣トルク。地上に攻め入ることなく聖女を受け入れた件で、トルクは魔王にすら異議を申し立てた。
 魔王の忠実な配下だが諫言も辞さないトルクは、地上を制する上で必要不可欠な魔獣。自分が正しいと思うことはどんなことでも魔王に臆することなく発言し、その見識はどの魔獣よりも頼りになる。

 しかし、八大魔獣の中でもっとも扱い難い魔獣でもある。ただ魔王がマリアンセイユを庇護し「聖女として扱え」と言ったところで、本心から認めるはずもない。
 魔獣訪問を始めた以上、多少荒っぽい事態になろうが、聖女自身がトルクに自分の存在を認めさせる必要があると魔王は考えていた。

“……確かにな”

 ムーンがそのときの光景を思い返す。聖女の魔法に縛られた際、
『どうにかしてくれ』
とばかりにムーンに視線を寄越したトルク。
 あの瞬間に、トルクの負けは決まっていた。暴走しなかったということは、つまりはそういうことだ。

「二つ目は、ムーンに聖女を理解してもらうためです」
“理解?”
「ええ。聖女の真価は『突発的な事態』にて発揮されます」
“……は?”

 意味がわからず、ムーンからやや呆れた声が漏れる。
 それを全く意に介さず、魔王は腕を組み静かに頷いていた。

「聖女は考えるより早く、咄嗟の思いつきで行動することが多いのです。そしてそれが正解だったりする。土壇場に強いとでもいいますか」
“いきあたりばったりということか?”
「そうでもありません。今回であれば、ルークが聖女に良い感情を持っていないことは事前に彼女に伝えてありましたしね」

 魔王が肘掛けに腕をついて両手を組み、大きめの口の両端を上げてニヤリと意味深に微笑む。

「彼女にとって、ここは正念場だったはずです」
“自分でどうにかやってみるから口を出すなと言われた”
「ふふ、そうでしょうね。……で、聖女がルークとどう相対するのか興味がありましたし、そのさまをムーンにも見せたかった。これが二つ目の理由です」
“……”
「結果、ムーンがこうして慌てるほどの力を見せつけたのであれば、わたしとしては万々歳です」
“だからそんなギリギリの策を取らずとも、事前にもう少し知識を……”
「事前に知識があれば、それをさらに上回る行動をするのが聖女です」
“ん?”
「これが三つ目の理由でもあるのですが」

 それまで機嫌よく話していた魔王だったが、ふいに眉間に皺を寄せる。

「聖女は少ない情報から真実を探り出し、その隙をつく方法を考えるのがとても上手いのです」
“……そう言えば、マデラが『思考回路が悪事を働く人間の方に近い』と聖女を評していたが、それか?”
「マデラが? ……言葉は少々引っ掛かりますが、まぁそうですね……」

 魔王の右手が悩まし気に揺らぐ金色の瞳を覆う。右手の人差し指で、眉間の皺を撫でるように。

「知識を色々と入れますと、聖女はさらにその裏側について考えかねないのです。こちらの予想を超える行動をされると困りますので、聖女に与える知識は精査しています。そうすることで、ある程度は予想範囲内で収まるでしょうから」

 マユは何も知らない方が面白いと思っていることは、ムーンには黙っておくことにした魔王セルフィス。
 両手を肘掛に乗せ、軽く頭を下げる。

「ですので、ムーンにはこれからも面倒をかけると思いますが、よろしくお願いします」
“……面倒だとわかってるなら何か手を……”
「……」
“……打つ気は無いのだな。わかった”

 無言で微笑む魔王を見て、ムーンが諦めたように了承の意を示す。
 どうやらそれが、こたびの聖女とのやり方らしい、と。

 聖女の魔獣訪問に付き合う内に、何となくは理解していた。しかし本当にそれでいいのか。あの聖女はまた何かやらかすのではないか。
 そしてあの聖女と行動を共にする以上、わたしはこの憂慮をずっと抱える羽目になるのか……と、ムーンはますます頭を痛めるのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜

ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが…… この世界の文明レベル、低すぎじゃない!? 私はそんなに凄い人じゃないんですけど! スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...