最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

文字の大きさ
612 / 625
22章

576話 salida

しおりを挟む
「良い雰囲気の所ですね」
「今更コロッセウム型のステージでやる奴なんてセンスがないわセンスが」

 中世ヨーロッパによくある、豪華絢爛なダンスホールの真ん中。私がゲーム開始時くらいから知っている犬の獣人で、死ぬ程このゲームをやっている奴が目の前にいる。

「それにしても随分とめかしこんでるじゃない」
「それは貴女もじゃないですか?」

 白を基調とし、青が所々に入っているびしっとしたスーツ、それに各種装飾やアクセサリーがくどくない程度に付いていて、非常に高級感がある。多分って言うか、確実に薫の奴が作ったと思う。何だかんだであいつって金さえ払えば何でも作る職人だし。
 こっちもこっちで白を基調とした裾が長く大きく広がるドレス。所々にレース模様の飾りがあしらわれて高級感もありつつ、動きが阻害されるような構造にはなっていないシンプルながらも上質な出来のドレス。全体的な感じで言えばフラメンコのドレスに近いので、大きく振れば裾が広がる。

「そして、何でダンスの誘いを?」

 すっと構えてくるのでそれに合わせて手を握りステップを踏み始める。

「あんたがトップを取り続けてるって言うから、私も狙おうかなって」

 軽く予備歩で動き続けながら面と向かって会話を続ける。なんとなく腹立たしいというか、ちょっとだけ意地張ってダンススキルをガン上げしたかいがあったから、スムーズな足運びよ。リアルじゃ踊り何て全然やらないけど、スキルを覚えりゃ思い通りってのはリアルに欲しい。

「だから最後にいい思い出でも作ってやろうかなーって」
「随分とサービスしてくれますね?」

 くるりとターンをし、また歩きながらしっかりとしたダンスを続け、他愛のない会話を続ける。初めて声を掛けた時の事やら、イベントで悔しい思いをしただの、共闘したとき、何度か戦った時の思い出やらなんやら……。

「まだそんなに日が経ってないのに色々あるわね」
「ええ、色々ありましたね」
「で、いい思い出は作れた?」
「そうですね、やっぱり最初のころにうちに引き込んでおけばよかったと思います」

 暫くそんな思い出話をしていれば、曲が終わりフィニッシュ。ぴたりとポーズも決めて様になっているのが自分でもよくわかる。

「それじゃあぼちぼちやるか」
「私としてはもう少しダンスを楽しみたい所ですが」

 決めポーズから片手を握った状態を維持したままで距離を取り、ゆっくりと離れ、指先が離れた瞬間にお互いが得物を抜いて1回転共に振り抜く。こっちは銃剣の付いたオートマチック、向こうはオーソドックスなロングソード。甲高い金属音が響く中、ほんの数秒だけ刃を押し付け合ってから弾き、またくるりと回転してから互いを見つめる。

「また変な銃を持って……」
「あんたは変化がないわ」

 ドレスの裾をたなびかせながら片手で構え即時に射撃。ちゅんちゅんと弾く音をさせ向こうがしっかりしたヒーターシールドで防ぐ。まあ、これくらいはしてくるだろうから色々対策なり、新しい事も増えてるから、いけるだろう。
 そうしてひとしきり射撃した後、空になったマガジンを手首のひねりで飛ばし装填。の隙を狙って距離を詰めながら斬撃が飛んでくるので、そのまま銃で受けながら呼吸を一つ。遠距離職にとって距離をガンガン詰めてくる近接系の相手は当たり前だけど相性が悪い相手、だけどスキルや装備、ステータスを弄りやすいこのゲームで今更普通のゲームの相性を持ち出すってのはやっぱりセンスがない。だからこそ、こいつと戦うことに意義がある。

「こんな感じにやられる人ではないでしょう」

 そりゃそうだ。軽い感じにびゅんびゅんと振るわれる斬撃を受けつつ、タイミングを計り斬撃が途切れた所で右手に別のハンドガンを「転送」し、構えてない所への不意打ち。軽いうめき声が聞こえると共に攻撃の手が止まるので、軽くバックステップを挟んでから新しいマガジンをこれまた空間から出し、マガジンを抜いた方の銃に装填。

「火力が出るから使ってきたけど正直2丁拳銃ってあんま趣味じゃないのよね」

 くるくると銃を回しながらどう出るか伺う。まあ、こっちとしては突っ込まれる方がちょっと大変なんだけど、タンク型なのもあって結構どっしり構えてこっちの様子を伺ってくる。

「よく使ってるみたいですけど?」
「私はデカくて派手な方が本当は好きなんだよ……っと」

 パンパンと小気味良い音をさせて近寄らせないようにしてからまた数歩下がり、ある程度の距離を取れたところでハンドガンを戻し、新しい銃を右手に転送し、がちゃんと大きく音をさせながらにんまりと笑う。

「やっぱり銃使うなら派手で目立つもんを使ってなんぼよ」

 転送して出した大型銃器、今まで散々手回しで使っていたガトリングも工学のおかげでレバーを握りこむと銃身が回り始め、すぐさま火を噴き始める。重低音を鳴らし、薬莢が落ちるたびに甲高い金属音を混じらせる。

「そういうのは反則じゃないですか、ね!」

 さっきと違い、厚めの大きいタワーシールドで受けている犬野郎が文句を飛ばしてくる間に、ガトリングの撃ち切ったマガジンが自動的に下部から落ちる。

「おっと……」
「全く、あれこれ出して!」

 タワーシールドから身を出し、そのシールドから新しい盾を取り出しつつこっちに接近するので、左からキャノン砲を抜いて接近する前に引き金を絞る。轟音を響かせ反動で自分も大きく後ろに飛びながら着弾を確認。爆炎を眺めながらキャノンを戻して一息。

「まあ、死んで無いんだろうけど」
「……随分な火力ですね……」

 爆炎の中、ネクタイを緩めながら悠然と歩いてくる犬野郎。スーツの上着を投げ捨て、Yシャツ姿に。サスペンダーも付けて腕まくりして、やけにセクシーな野郎だ。

「今まで見たことないスキルと武器、あれこれと覚えてきたようで」
「面白いでしょ」

 まだ使える兵装はあるけどこれ以上はMPがしんどい。せっかく覚えてきたってのにケロっとしてるあいつの耐久力本当にどうなってるんだ?ガンナー特有の固定ダメージもあんまり通ってる感じもないし。多分、あいつ固定ダメージに対しての防御スキルを取ってるに違いないだろう。

「とは言え長期戦で逃げまわられるとこっちが負けますからね」
「よく、お分かりで」

 スカートの裾をまくり、赤いテープがグリップに捲かれたハンドガンを2丁取り出して構え、未だに悠然と歩いている犬野郎に向けて一発。勿論いつものようにガード……からうめき声一つ。うん、実用的になってきた。そのまま軽く様子を見ていたら、がらんと大きく音を立ててシールドを落とし、顔を押さえている。

「……貫通するならあらかじめ言って貰えますか?」
「言ったら対策するじゃん」

 ほんと、国家らが本番くさい。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...