初体験しないまま死にたくなかった悪役令嬢

ChaCha

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最愛と誓いを!

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とうとう、結婚式が来てしまった。

花嫁衣装に身を包んだ私は、神殿奥の控室で深く息を吸う。

……正直に言おう。
今日の私は、完璧だ。

自画自賛?
ええ、するわよ。

五日間。
鍛えて、磨いて、整えて。
この日のために、私は全力で生きた。

この扉の向こうに、ヴィンセントがいる。
祭壇で、私を待っている。

バージンロードを歩き切って、彼の前に立ったら――
私は、笑顔で言うの。

「逢いたかった!」

その一言を、ずっと胸に抱えてきた。

……いざ。

扉が、ゆっくりと開く。

荘厳な音楽が流れ、参列者の視線が一斉に集まる。
ヴェール越しの視界は少し揺れて、世界が柔らかく滲んで見えた。

――彼が、いた。

祭壇の中央。
まっすぐ立つ、ヴィンセント。

待ち焦がれた人を迎えるような、甘い微笑み。
それだけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

恥ずかしくて、俯きそうになるのを必死で耐えながら、
私は、ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ進む。

愛しいヴィンセントのもとへ。

彼が、手を差し出した。

私は、震える手を重ねる。

大きな手。
――ぎゅっと、思っていたより強く握られた。

――今、だ。

「……逢いたかった」

あの日、手だけしか触れ合えなかったけれど、
今は、あなたの隣にいる。

「ああ。俺もだ、マリエッタ」

彼は、私の手に口付けを落とした。
丁寧で、優雅で――
まるで、長い間失われていたものを確かめるように、
そのまま自分の頬へ、私の手を添える。

視線が、離れない。
私だけを、見ている。

そして、静かに問いかけられた。

「なぜ、俺を拒んだ?」

一瞬、頭が真っ白になる。

「……完璧な私で、会いたかったの……」

本当のことだ。
だから、そのまま答えた。

けれど、彼の表情が、わずかに変わる。

「……俺が、どうなるか、も考えずに?」

「ヴィンなら、私を待ってくれるって……信じてたの」

少しの間。

「……そうか」

低く、納得したような声。

その瞬間、手を握る力が強まった。

「……痛っ……」

思わず、声が漏れる。

「少しは、俺の痛みを思い知るといい」

一歩、距離が詰まる。

「ヴィン……?」

胸の奥に、じんわりと熱が広がる。

「……安心した」

君が無事でよかった。
そう言われた気がして、胸が痛んだ。

私は、心配をかけてしまったことを、ようやく実感する。

握られた手を、ぎゅっと握り返す。

今度は、手首を取られた。

「君は、俺を選んでいるんだな」

「もちろん、そうよ?」

だって――
貴方しか、私は愛してない。

「……なら、いい」

少しだけ、嬉しそうな声音。

「信じている」

額に、口付けが落ちた。

――ちょっと待って。
神官、まだ儀式の途中なんですけど!?

恥ずかしくて、思わず視線を逸らす。
でも、ちらりとヴェール越しに見上げると、
ヴィンセントは変わらず、私だけを見て微笑んでいた。

神官の声が響く。

「死が二人を分かつその時まで、
互いを愛し、決してその手を離さず、
共に歩むことを誓いますか?」

「誓う」

即答だった。

次は、私。

心臓が早鐘を打つ。
視線が、逸らせない。

彼の手が、腰に回る。
ぎゅっと、抱き寄せられる。

耳元で、低く。

「……誓え。マリエッタ」

逃げ場はない。

「……誓います」

言えた。

神官が、静かに頷く。

「誓いの口付けを」

ヴィンセントが、ヴェールを上げる。
その喉が、はっきりと鳴った。

「綺麗だ。俺だけのマリエッタ」

口付けが、重なった。

祝福の声。
拍手。
舞い落ちる花びら。

……でも。

口付けが、終わらない。

ちゅっ。
ちゅ、ちゅぅ……。

はぁ……はぁ……。

「ながいッ!!!」

「くはっ! はははは!」

ヴィンセントは、肩を震わせて笑っていた。

――式は、無事に終わった。

式は、滞りなく進んだ。

……ということになっている。

実際のところ、私の記憶はかなり曖昧だ。
なぜなら――

披露宴が始まった瞬間から、
ヴィンセントが、私の腰を離さなかったからである。

「ちょ、ヴィン……?」

小声で抗議すると、
当然のように、さらに引き寄せられる。

「夫婦だろう?」

低く囁かれて、言い返せなくなった。

……そうだけど!
そうだけども!!

視線を上げると、彼は終始ご機嫌だった。
誰かと話していても、乾杯していても、
必ず片腕は私の腰、もう片方は手を逃がさない。

参列者の祝福の言葉が、次々と飛んでくる。

「お幸せに」
「美しい花嫁だ」
「理想のご夫婦ですね」

そのたびに、ヴィンセントは満足そうに頷き、
なぜか私を抱き寄せる力を強める。

……なぜ、そこで力を入れる?

「見せつけてるの……?」
思わず小声で聞くと、

「当然だ」

即答だった。

えっ。
ためらい、ゼロ?

「完璧だな」

耳元で囁かれて、
一気に顔が熱くなる。

「……見すぎ」

「見ない理由がない」

論破された。

しかも、彼は視線を逸らすどころか、
私が恥ずかしがる様子を、じっと観察している。

……悪い顔してる。

披露宴の最中、
私は何度も「離して」と目で訴えた。

そのたびに返ってくるのは、

「逃げないよな?」

という、静かな確認。

逃げる気なんて、あるわけがないのに。
それでも言われると、
なぜか胸の奥がきゅっとして、

「……逃げない」

と、ちゃんと答えてしまう。

すると彼は、
満足そうに、私の腰を撫でるのだ。

外堀が、埋まっていく音がする。

披露宴が終わる頃には、
私はもう、完全に彼の隣が定位置になっていた。

移動のときも、
階段も、回廊も、馬車も。

常に、手を取られ、腰を支えられ、
少しでも離れようとすると、自然に距離が詰まる。

「……過保護すぎない?」

「今日だけだ」

……嘘だな、これ。

夜。
ランデル侯爵邸の敷地内に用意された、新居へ。

侍女たちに導かれながら歩く廊下は、
昼間の賑わいが嘘みたいに静かだった。

柔らかな灯り。
静かな空気。
少しずつ、現実が追いついてくる。

――夫婦。

その言葉が、頭の中で転がる。

寝室の前で、侍女たちが一礼して下がる。

扉の前に残ったのは、
私と、ヴィンセントだけ。

さっきまでの賑やかさが、嘘みたいだ。

彼が、私を見る。

ゆっくり。
逃がさない距離で。

「……来たな」

その声だけで、心臓が跳ねた。

近づかれる。
抱き締められる。

胸に、額に、肩に。
しっかりと、現実を確かめるみたいに。

……待って。

マリエッタは、思った。

え?
ちょっと待って。

これ……今から……?

さっきまで完璧だったはずの自信が、
音を立てて崩れ始める。

だって、急に、恥ずかしい。

「……えぇ……本当に、するの?」

思わず、声に出してしまった。

ヴィンセントが、ぴたりと固まった。

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