溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した

ChaCha

文字の大きさ
12 / 69

案件です。大変です。

しおりを挟む
放課後の廊下は、昼間よりも少しだけ騒がしい。

部活動へ向かう生徒、帰宅する生徒、友人同士で談笑する声が混ざり合う。



カレンは、その中をベルンハルトと並んで歩いていた。



(……)



……気づけば、チラ見していた。



(だって……)



隣を歩く横顔。

落ち着いた表情。

整えられた姿勢。



(……最近、ほんとに……)



優しいし、近いし、

触れないのに、存在感が強い。



(……見ちゃうよ……)



その瞬間。



――つるっ。



「わっ!!」



足元の段差に気づくのが、一瞬遅れた。



「っ、カレン!」



ベルンハルトの声が、鋭く響く。



次の瞬間――

身体が前に倒れ、視界が回転した。



「ひゃあっ!」



どすん、と。



尻もちをついたのは、ベルンハルトだった。



勢いそのまま、

私は――



(……え)



ベルンハルトの上に、跨る形で倒れ込んでいた。



時間が、止まる。



(……え、え、え?)



近い。

近すぎる。



おでこと――が、ごつん!!



「「痛っ!」」



同時に声が出た。





額に、じんとした衝撃。



「いった……」



反射的に目を閉じて、

すぐに、はっと息をのむ。



(……あ)



ベルンハルトの瞳が、すぐそこにあった。



距離、数センチ。



視線が絡む。

唇が、触れそうな位置。



(……ち、近っ……!!)



「わっ、わわっ、ご、ごめんなさい!!」



慌てて起き上がろうとする。



けれど。



「……っ」



ベルンハルトが、片手を上げた。



「……カレン。少し、待って」



声が、低い。



「へ? う、うん……?」



言われるがまま、動きを止める。



そのままの体勢。

私は彼の上に跨ったまま。



(……え、なに……?)



ベルンハルトは、目を閉じた。



そして――



深呼吸。



一度。

二度。

三度。



盛大に、繰り返す。



肩が上下するのが、はっきり分かる。



(……???)



状況が、理解できない。



(え、私……そんなに重かった?)



(押し倒しちゃったから、痛いのかな……?)



「……ふぅ」



ようやく、息を整えたベルンハルトが、目を開けた。



「大丈夫」



そう言って、視線を逸らす。



「……耐えられる」



「???」



カレンの頭に、はてなが大量発生する。



(耐える……?)



(なにを……?)



見下ろした位置にあるのは、

ベルンハルトの胸元。



――近い。



呼吸の熱。

体温。

筋肉の硬さ。



(……あ)



今さら、状況を理解する。



(……これ……)



(……健全な男子案件では……!?)



しかも、

彼はずっと“触れない”距離を保っていた。



それが今、

完全に 破綻 している。



(…… 当たってるよ ……)



言葉にできないことを、

本能が察する。



ベルンハルトは、視線を外したまま、

歯を食いしばるように、短く息を吐いた。



「……本当に、悪い」



「え!? え、なんで!?」



「俺が、支えきれなかった」



(いやいやいや!!)



内心で全力ツッコミ。



(どう考えても私の不注意です!!)



「だ、だいじょうぶだから! ほら、起きるね!」



慌てて身体を離す。



立ち上がると、

ベルンハルトもすぐに起き上がった。



ローブの裾を整え、

何事もなかったかのように、姿勢を正す。



……ただし。



耳が、赤い。



(……)



(あ、照れてる……)



その事実に気づいた瞬間、

心拍数が、一気に跳ね上がる。



(……やばい……)



ベルンハルトは、咳払いをひとつしてから、

いつもより少し距離を取った。



「……歩く時は、前を見ろ」



「う、うん……」



それだけ。



触れない。

責めない。

でも、さっきよりも確実に意識している。



(……距離、壊れた……)



ほんの一瞬の事故。



それなのに。



胸の奥が、ずっと、うるさい。



(……これ……)



(……溺愛、って……)



(静かなだけじゃ、済まないやつだ……)



ベルンハルトは、何も言わずに歩き出す。

その背中が、いつもより少しだけ早い。



カレンは、その後ろを追いながら、

自分の額をそっと押さえた。



(……いたい……)



でも。



(……ドキドキ、も……)



収まる気配が、なかった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...