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今日は、私が決める
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「ねえ、ベルンハルト」
昼前の光が、廊下の窓から差し込んでいた。
いつもなら、そのまま食堂へ向かう流れになる時間。
私は、足を止めて彼を見上げる。
「今日は、食堂じゃなくて……中庭のガゼボでお昼にしようよ」
一瞬、ベルンハルトの視線が揺れた。
ほんの一瞬。気づく人は少ない程度。
「……中庭か」
「うん。今日の予定は、何も起きないはずだし」
自分で言って、少しだけ胸が鳴る。
“予定”。
その言葉を、私は意識的に使った。
「たまには、私が行き先を決めたいなって」
小さな反抗。
お願いに見せかけた、選択の主張。
ベルンハルトは、数拍、黙った。
それから、ゆっくり頷く。
「……分かった」
拒まれなかったことに、ほっとする。
中庭の奥、蔓に囲まれたガゼボ。
花が咲き乱れ、風が抜ける、穏やかな場所。
(……きれい)
食堂で包んでもらった昼食を広げる。
布を敷いて、並んで腰を下ろす。
「ここ、好きなんだ」
「そうだな。静かだ」
ベルンハルトの声は、いつも通り。
でも、視線は周囲を一度、確かめるように巡っていた。
(……大丈夫だよ)
そう言いたくなるのを、飲み込む。
二人で食べ始めようとした、その時。
「久しぶり!」
明るい声。
顔を上げると、エルンストが立っていた。
その隣には、少し緊張した様子のアイナ。
(……え)
心臓が、きゅっと鳴る。
「久しぶり! 仲良くやってそうで良かったね」
言葉は、自然に出た。
本心でもある。
エルンストは笑って、アイナを見る。
「よかったら、皆で食べる?」
「……っ!?」
アイナの肩が、びくっと跳ねた。
「……う、うん」
小さな声。
でも、断らなかった。
「話すのは初めてだよね? よろしくね」
私がそう言うと、アイナは一瞬戸惑ってから、こくりと頷いた。
「……よろしく、お願いします」
四人で座ることになり、
椅子を引くために、エルンストとアイナが後ろを通る。
その瞬間――
風が、吹いた。
(……あ)
ふわりと持ち上がった私の髪。
「……え?」
絡んだ。
エルンストの腕のカフスボタンに、
私の髪が、引っかかっている。
「ご、ごめん……!」
慌てて外そうとして、私は席を立――
「……っ」
足元が、ぐらりと揺れた。
次の瞬間。
――ガシッ。
腕を掴まれ、
私は、そのままエルンストの腕の中へ。
支えられただけ。
抱き寄せたわけじゃない。
それでも――
シーーーーーーン。
風の音が止まったみたいに、
中庭の空気が、凍りつく。
「だ、大丈夫か?」
エルンストの声。
アイナの、息を呑む気配。
私は、慌てて体を離す。
「ご、ごめんなさい! ありがとう……!」
顔が熱い。
心臓が、早鐘みたいに鳴っている。
その時。
視界の端で、ベルンハルトが立ち上がるのが見えた。
……何か、落ちた。
光を受けて、きらりと。
――涙。
一粒だけ。
頬を伝って、落ちた。
ベルンハルトは、何も言わない。
声も、荒げない。
ただ、
その瞳から、静かに何かが零れた。
(……え)
頭が、真っ白になる。
(……私、決めたはずだったのに)
今日は、私が。
何も起きない予定で。
――なのに。
世界は、
閉じられていたはずの偶然を、
たった一度だけ、解放した。
それを見ていた人の心に、
どんな形で、落ちたのか。
私は……
昼前の光が、廊下の窓から差し込んでいた。
いつもなら、そのまま食堂へ向かう流れになる時間。
私は、足を止めて彼を見上げる。
「今日は、食堂じゃなくて……中庭のガゼボでお昼にしようよ」
一瞬、ベルンハルトの視線が揺れた。
ほんの一瞬。気づく人は少ない程度。
「……中庭か」
「うん。今日の予定は、何も起きないはずだし」
自分で言って、少しだけ胸が鳴る。
“予定”。
その言葉を、私は意識的に使った。
「たまには、私が行き先を決めたいなって」
小さな反抗。
お願いに見せかけた、選択の主張。
ベルンハルトは、数拍、黙った。
それから、ゆっくり頷く。
「……分かった」
拒まれなかったことに、ほっとする。
中庭の奥、蔓に囲まれたガゼボ。
花が咲き乱れ、風が抜ける、穏やかな場所。
(……きれい)
食堂で包んでもらった昼食を広げる。
布を敷いて、並んで腰を下ろす。
「ここ、好きなんだ」
「そうだな。静かだ」
ベルンハルトの声は、いつも通り。
でも、視線は周囲を一度、確かめるように巡っていた。
(……大丈夫だよ)
そう言いたくなるのを、飲み込む。
二人で食べ始めようとした、その時。
「久しぶり!」
明るい声。
顔を上げると、エルンストが立っていた。
その隣には、少し緊張した様子のアイナ。
(……え)
心臓が、きゅっと鳴る。
「久しぶり! 仲良くやってそうで良かったね」
言葉は、自然に出た。
本心でもある。
エルンストは笑って、アイナを見る。
「よかったら、皆で食べる?」
「……っ!?」
アイナの肩が、びくっと跳ねた。
「……う、うん」
小さな声。
でも、断らなかった。
「話すのは初めてだよね? よろしくね」
私がそう言うと、アイナは一瞬戸惑ってから、こくりと頷いた。
「……よろしく、お願いします」
四人で座ることになり、
椅子を引くために、エルンストとアイナが後ろを通る。
その瞬間――
風が、吹いた。
(……あ)
ふわりと持ち上がった私の髪。
「……え?」
絡んだ。
エルンストの腕のカフスボタンに、
私の髪が、引っかかっている。
「ご、ごめん……!」
慌てて外そうとして、私は席を立――
「……っ」
足元が、ぐらりと揺れた。
次の瞬間。
――ガシッ。
腕を掴まれ、
私は、そのままエルンストの腕の中へ。
支えられただけ。
抱き寄せたわけじゃない。
それでも――
シーーーーーーン。
風の音が止まったみたいに、
中庭の空気が、凍りつく。
「だ、大丈夫か?」
エルンストの声。
アイナの、息を呑む気配。
私は、慌てて体を離す。
「ご、ごめんなさい! ありがとう……!」
顔が熱い。
心臓が、早鐘みたいに鳴っている。
その時。
視界の端で、ベルンハルトが立ち上がるのが見えた。
……何か、落ちた。
光を受けて、きらりと。
――涙。
一粒だけ。
頬を伝って、落ちた。
ベルンハルトは、何も言わない。
声も、荒げない。
ただ、
その瞳から、静かに何かが零れた。
(……え)
頭が、真っ白になる。
(……私、決めたはずだったのに)
今日は、私が。
何も起きない予定で。
――なのに。
世界は、
閉じられていたはずの偶然を、
たった一度だけ、解放した。
それを見ていた人の心に、
どんな形で、落ちたのか。
私は……
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