溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した

ChaCha

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迷子と留学生

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週末の街は、柔らかなざわめきに包まれていた。

石畳に反射する陽光、露店から漂う甘い香り、人の行き交う足音。



(……うん、いい感じ)



学園の外。

人も多いけれど、気楽で、楽しい。



ベルンハルトの隣を歩きながら、私は小さく息を整えた。

彼の存在は、近い。

近いけれど、今日はそれが心地いい。



そのとき、視界の端に小さな影が止まった。



俯いて、肩をすくめて。

今にも泣き出しそうな男の子。



「あ……」



足が自然に向いた。



私はしゃがみ込み、目線を合わせる。



「どうしたの?」



声を落として、ゆっくり。

怖がらせないように。



男の子は、目を潤ませながら首を振った。



「……ママ、いなくなっちゃった」



「そっか。びっくりしたね」



私は微笑んで、そっと宥める。

背中に手を添えて、呼吸を合わせるみたいに。



(……大丈夫、大丈夫)



その背後で、ベルンハルトが立っているのが分かる。

私を見守る視線。

同時に、周囲を見渡す気配。



――親がいないか、探してる。



(……ふふ)



その気遣いに、胸が少し温かくなる。



ほどなくして、遠くから慌てた足音。



「すみませんっ! うちの子、見ませんでしたか!?」



息を切らして駆け寄ってきた母親の姿に、私はぱっと顔を上げた。



「よかった!」



思わず、声が弾む。



男の子も、母親を見つけた瞬間、表情がほどけた。



「ママ!」



抱きつく姿を見て、ほっと息を吐く。



「ありがとうございました……!」



何度も頭を下げられて、私は首を振った。



「無事でよかったです」



そのとき。



男の子が、くいっとこちらを見上げて、にっこり笑った。



「お姉ちゃん、天使さまみたいに綺麗だね」



「え?」



思わず瞬く。



「ぼくのお嫁さんにしてあげる!」



(……ええっ)



一瞬、言葉に詰まって、

それから、くすっと笑ってしまった。



「ふふ。残念!」



私は軽く首を傾げる。



「私にはね、もう将来の旦那様がいるの」



そう言って、

ちらっと横を見る。



ベルンハルト。



彼は一瞬、目を見開いて――

すぐに、柔らかく微笑んだ。



ほんの少し、照れたような。

でも、はっきりと嬉しそうな表情。



(……あ)



胸が、きゅっとなる。



「あなたにも、きっと素敵な子と出会うよ」



男の子の頭を優しく撫でる。



「ばいばーい」



手を振ると、

男の子も元気よく手を振り返してくれた。



母子が人混みに消えていくのを見送って、

私は立ち上がる。



「……よかったね」



そう言うと、

ベルンハルトは、少し低い声で答えた。



「ああ」



その視線は、私に向いている。

さっきより、少しだけ、熱を帯びて。



(……?)



理由は分からないけれど、

妙に胸がくすぐったい。



そのとき。



「へぇ」



聞き慣れない声が、空気を切った。



振り返ると、

少し離れた場所に、背の高い青年が立っていた。



整った顔立ち。

余裕のある立ち姿。



(……留学生の)



名前が、頭をかすめる。



「人助けが板についてるね」



軽い調子。

でも、視線は鋭い。



ベルンハルトが、無言で一歩前に出る。



「……何か用か」



「いや? ただの感想」



青年は肩をすくめ、

視線を、私に向けた。



その瞬間。



――目が、合った。



理由は分からない。

でも、心臓が、わずかに跳ねる。



(……なに?)



青年の口元が、ほんのり緩む。



「……ふうん」



それだけ。



触れない。

近づかない。



なのに、

距離感だけが、妙に近い。



カチッ。



音は、しなかった。

でも、確かに、何かが鳴った気がした。



「……行くぞ」



ベルンハルトの声が、低く響く。



私の腰に、手が回る。

さっきより、少しだけ、強く。



「はいはい」



青年はあっさり引いた。



「またね。首席殿」



その言葉に、

ベルンハルトの肩が、ほんのわずかに強張る。



去っていく背中を見送りながら、

私は首を傾げた。



(……変な人)



それだけ。



不思議な気持ちは残ったけれど、

深く考えるほどでもない。



私は、ベルンハルトの袖を掴んだ。



「行こ?」



「ああ」



返事は、すぐ。



でも、

彼の視線は、一瞬だけ、

青年の消えた方向を追っていた。



理由の分からない違和感が、

胸の奥に、静かに残った。


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