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9 アンドリューSide2
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「さて、弁解はあるかしら?」
母は腕を組み、父に視線を向ける。
「グレイスのためだ。グレイスが国内の領地で好きになった者と一生添い遂げるなら多少の犠牲は必要だろうっ」
父の意見に同意する者は誰一人居ない。確かに男一人で領地に押し込める事が出来るならその方が皆、幸せになるだろう。だが、それをする時期はとうに過ぎた。隣国を巻き込んでまでする事ではないのだ。
「陛下、そのような時期はとうに過ぎました。昨日も話をしましたが、グレイスは三日以内に嫁ぐか毒杯を受け賜るのとどっちがいいのかと。本来なら選択の余地などなかったはずです。
最後の温情だった。けれど問題が起こった。カイト殿が倒れている所は何人も目撃しており、全て無かった事にするのは出来ないでしょう。
グレイスには毒杯を。陛下はこの場で隠居するか、病死を。どうしますか?」
俺は父に詰め寄るが、父は返事をしない。宰相、大臣達は緊張した面持ちで口を閉じている。
「貴方、もう引退しましょう。引き際が肝心だわ。息子達は優秀に育ったし、少し早いけれど任せても大丈夫よ」
母の言葉と大臣達の物言わぬ視線に観念したようで父は『分かった』と一言告げた。
言葉だけでは納得がいかない母は父の執事に指示して紙を用意し、父に一筆を書かせた。項垂れた父を無視して俺は執事に指示を出し始める。これ以上父にグレイスの事を関わらせないために。
すると執事は『母にホルン子爵令嬢の事はどうされますか?』と聞いてきた。
「……どういう事かしら?ホルン子爵令嬢に何かあったの?」
母は疑うような視線を父に向けながら口を開いた。ようやく話し合いが終わりそうだと思っていた矢先の出来事だった。
「陛下がホルン子爵家とローゼフ子爵家のどちらかが教会に婚姻届を出すかもしれないので阻止し、陛下の元へ連れてくるようにと命令がありました。そして陛下の仰った通り、ホルン子爵の執事が早朝に婚姻届を教会に提出しようとしており、阻止した上で王宮に連れてきたのです。そして陛下からの王命を携えて執事は使者と共にホルン子爵家へと帰されました」
「……王命だと?」
執事の言葉に一同緊張の糸が張りつめる。
「貴方、どういう事かしら?王命の内容は?」
「……ハンナル伯爵家へ嫁がせろと命令した」
父から出た言葉に一同絶句する。ハンナル伯爵は四十も半ばの歳で後妻を含め今までに五人もの妻がいた。娶る女性はいつも不審な死を遂げているので有名なのだ。
不審死だが殺人の証拠はないため捕まえるまでには至っていない。そんな曰くつきの人物に王命で嫁がせろ、だと??
俺はすぐに指示を出す。
「急いでラナ・ホルンを保護せよ!王命は取り消しだ!」
部屋に居た宰相はすぐに使者と騎士を向かわせるよう指示した。あまりの横暴さに何を口にしていいか分からない。母も、弟達も同じ気持ちだったようだ。母は大きな溜息をはき、額に手を当てている。
「兄さん、ホルン子爵家とローゼフ子爵家に多めの慰謝料を」
「あぁ、そうだな。すぐに用意しないとな」
グレイスには毒杯、父は隠居が決まった。大臣も宰相もこれ以上は言う事もないと各自部屋を後にした。
彼女を保護すべく即刻子爵家に騎士を送ったが、追い返されてしまった。王家への不信感は相当なものだろう。
俺はカイトが倒れた事をローゼフ子爵に連絡を入れ、陛下のした事の謝罪と事情を説明する。
ホルン子爵には連絡を拒否されていたのだが、ローゼフ子爵からホルン子爵家に連絡を入れて貰うことが出来た。
幸いな事にラナは子爵とカイトが倒れたと聞き、王宮へ見舞に来くると聞いた。
母はすぐにラナ・ホルンに自分の侍女と護衛を付けた。父達が手出し出来ないように。
そうして母は『信じられないわっ!これ以上面倒事はごめんよ!関わりたく無いわ!』と怒りながらも後宮でラナ・ホルンの事を気にかけているようだ。
そこからは怒涛のような日が過ぎていった。父は隠居の準備と称して自室で軟禁状態となっている。
やはりナザール国から使者が手紙を持って来た。きっと婚約破棄に違いない。そう思っていたのだが、手紙にはすぐにナザールにグレイスを嫁がせるようにと書いてある。
可笑しな事もあるものだと使者に確認したのだが、どうやら問題を起こすグレイスを喜んで側妃に迎えたいのだとか。ナザールには貞淑な女性しかいないのでつまらないと話しているのだとか。
珍獣扱いなのだろうか?
グレイスには毒杯と決めていたが、隣国が求めているのなら丁度いい。俺はすぐに大臣と宰相を呼び、ナザールの使者から受け取った手紙を話し、満場一致で使者が帰国する際にグレイスを一緒に送り出す事になった。
元々グレイスを隣国に送る手配をしていたお陰で最低限の荷物と共にグレイスは使者と一緒に隣国へと渡った。馬車に乗り込むまで暴れまわり、抵抗していたが。馬車に乗って以降は隣国へあっさりと到着したようだ。
「アンドリュー殿下、来月は戴冠式でございます。グレイス様もめでたく婚姻されましたな。一時はどうなる事かと肝を冷やしましたが」
「あぁ。そうだな。アレを貰う隣国の後宮は大変に素晴らしいのだろうな」
「えぇ、全くですな」
「宰相よ、父は大病を患っているようだ。来年まで保つかどうか」
「承知致しました。王妃様も心配しておりました」
「あぁ、ようやく肩の荷が降りるだろう。これから母には離宮で楽しく過ごして貰いたいと思っている」
ようやく問題も片付き、戴冠式を迎える事ができた。
「アンドリュー陛下万歳!!」
王都のパレードでは民から祝福され俺はようやく一国の王となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
*この後、ラナsideがあります*
母は腕を組み、父に視線を向ける。
「グレイスのためだ。グレイスが国内の領地で好きになった者と一生添い遂げるなら多少の犠牲は必要だろうっ」
父の意見に同意する者は誰一人居ない。確かに男一人で領地に押し込める事が出来るならその方が皆、幸せになるだろう。だが、それをする時期はとうに過ぎた。隣国を巻き込んでまでする事ではないのだ。
「陛下、そのような時期はとうに過ぎました。昨日も話をしましたが、グレイスは三日以内に嫁ぐか毒杯を受け賜るのとどっちがいいのかと。本来なら選択の余地などなかったはずです。
最後の温情だった。けれど問題が起こった。カイト殿が倒れている所は何人も目撃しており、全て無かった事にするのは出来ないでしょう。
グレイスには毒杯を。陛下はこの場で隠居するか、病死を。どうしますか?」
俺は父に詰め寄るが、父は返事をしない。宰相、大臣達は緊張した面持ちで口を閉じている。
「貴方、もう引退しましょう。引き際が肝心だわ。息子達は優秀に育ったし、少し早いけれど任せても大丈夫よ」
母の言葉と大臣達の物言わぬ視線に観念したようで父は『分かった』と一言告げた。
言葉だけでは納得がいかない母は父の執事に指示して紙を用意し、父に一筆を書かせた。項垂れた父を無視して俺は執事に指示を出し始める。これ以上父にグレイスの事を関わらせないために。
すると執事は『母にホルン子爵令嬢の事はどうされますか?』と聞いてきた。
「……どういう事かしら?ホルン子爵令嬢に何かあったの?」
母は疑うような視線を父に向けながら口を開いた。ようやく話し合いが終わりそうだと思っていた矢先の出来事だった。
「陛下がホルン子爵家とローゼフ子爵家のどちらかが教会に婚姻届を出すかもしれないので阻止し、陛下の元へ連れてくるようにと命令がありました。そして陛下の仰った通り、ホルン子爵の執事が早朝に婚姻届を教会に提出しようとしており、阻止した上で王宮に連れてきたのです。そして陛下からの王命を携えて執事は使者と共にホルン子爵家へと帰されました」
「……王命だと?」
執事の言葉に一同緊張の糸が張りつめる。
「貴方、どういう事かしら?王命の内容は?」
「……ハンナル伯爵家へ嫁がせろと命令した」
父から出た言葉に一同絶句する。ハンナル伯爵は四十も半ばの歳で後妻を含め今までに五人もの妻がいた。娶る女性はいつも不審な死を遂げているので有名なのだ。
不審死だが殺人の証拠はないため捕まえるまでには至っていない。そんな曰くつきの人物に王命で嫁がせろ、だと??
俺はすぐに指示を出す。
「急いでラナ・ホルンを保護せよ!王命は取り消しだ!」
部屋に居た宰相はすぐに使者と騎士を向かわせるよう指示した。あまりの横暴さに何を口にしていいか分からない。母も、弟達も同じ気持ちだったようだ。母は大きな溜息をはき、額に手を当てている。
「兄さん、ホルン子爵家とローゼフ子爵家に多めの慰謝料を」
「あぁ、そうだな。すぐに用意しないとな」
グレイスには毒杯、父は隠居が決まった。大臣も宰相もこれ以上は言う事もないと各自部屋を後にした。
彼女を保護すべく即刻子爵家に騎士を送ったが、追い返されてしまった。王家への不信感は相当なものだろう。
俺はカイトが倒れた事をローゼフ子爵に連絡を入れ、陛下のした事の謝罪と事情を説明する。
ホルン子爵には連絡を拒否されていたのだが、ローゼフ子爵からホルン子爵家に連絡を入れて貰うことが出来た。
幸いな事にラナは子爵とカイトが倒れたと聞き、王宮へ見舞に来くると聞いた。
母はすぐにラナ・ホルンに自分の侍女と護衛を付けた。父達が手出し出来ないように。
そうして母は『信じられないわっ!これ以上面倒事はごめんよ!関わりたく無いわ!』と怒りながらも後宮でラナ・ホルンの事を気にかけているようだ。
そこからは怒涛のような日が過ぎていった。父は隠居の準備と称して自室で軟禁状態となっている。
やはりナザール国から使者が手紙を持って来た。きっと婚約破棄に違いない。そう思っていたのだが、手紙にはすぐにナザールにグレイスを嫁がせるようにと書いてある。
可笑しな事もあるものだと使者に確認したのだが、どうやら問題を起こすグレイスを喜んで側妃に迎えたいのだとか。ナザールには貞淑な女性しかいないのでつまらないと話しているのだとか。
珍獣扱いなのだろうか?
グレイスには毒杯と決めていたが、隣国が求めているのなら丁度いい。俺はすぐに大臣と宰相を呼び、ナザールの使者から受け取った手紙を話し、満場一致で使者が帰国する際にグレイスを一緒に送り出す事になった。
元々グレイスを隣国に送る手配をしていたお陰で最低限の荷物と共にグレイスは使者と一緒に隣国へと渡った。馬車に乗り込むまで暴れまわり、抵抗していたが。馬車に乗って以降は隣国へあっさりと到着したようだ。
「アンドリュー殿下、来月は戴冠式でございます。グレイス様もめでたく婚姻されましたな。一時はどうなる事かと肝を冷やしましたが」
「あぁ。そうだな。アレを貰う隣国の後宮は大変に素晴らしいのだろうな」
「えぇ、全くですな」
「宰相よ、父は大病を患っているようだ。来年まで保つかどうか」
「承知致しました。王妃様も心配しておりました」
「あぁ、ようやく肩の荷が降りるだろう。これから母には離宮で楽しく過ごして貰いたいと思っている」
ようやく問題も片付き、戴冠式を迎える事ができた。
「アンドリュー陛下万歳!!」
王都のパレードでは民から祝福され俺はようやく一国の王となった。
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*この後、ラナsideがあります*
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