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「シャロア・エレゲン伯爵令嬢様、クリフォード王弟殿下がお待ちです」

従者はそう告げ、私は護衛騎士と二人でクリフォード王弟殿下の待つ部屋へと向かった。

部屋に入るとそこには確かに私達が助けた彼がソファに座っていた。この部屋は団欒室のようで私は少し緊張する。まさか王弟殿下の向かいにドカリと座る訳にもいかない。

私達と視線が会うと、彼は一瞬目を見開いて固まったようだったが、すぐに立ち上がり私の手を取って椅子に座らせた。
護衛騎士は後ろでた立つことにしたようだ。

彼は私の手を取ったまま話す。男だと思っていたのに私が女だったことに余程驚いているのかもしれない。

「君が私を助けてくれたシャロア・エレゲン伯爵令嬢かな?」
「えっと、そうです。お怪我は無かったでしょうか?私達を探してくれていたとお伺いしました」
「こんなに美しい令嬢に助けてもらえるなんて嬉しくて仕方がないな。あの時は仮面とローブをしていたから君がこんなに素敵な女性だと思ってもみなかった」
「お褒め頂きありがとうございます」

私は素直にお礼を言った。

「隣国から静養のためにこの国に来たんだろう? シャロア嬢はこれからどうするのかな?」
「私はこの後、クロシュロールの街に行って観光を楽しんだ後、この国のどこかに家を買って静かに暮らすつもりです。
動くことが好きですので元気なうちは何処かの貴族の護衛騎士にでもなろうかと思っています」
「そうなのか。……なら、私の護衛にならないか? 君はミローナ王国の剣、エレゲン伯爵家の娘だ。剣の腕も超一流。私の側に居て欲しい」
「ふふっ、私は父や兄ほどの実力ではありませんわ。そうでなければ出国することも叶わなかったでしょう。
護衛として働けるのであれば嬉しい限りです。ですが、いくら成人して数年が経っているとはいえ、家のことにも関わってくるので働くのであれば母に許可をもらわなければなりません」

「そうだな。まずは君の母上に話をするのが良いだろう」
「ありがとうございます」
「シャロア嬢はミローナ国で何をしていたのかな?」
「私ですか? 
仕事を辞める前は王宮で騎士をしており、野盗狩りに参加していました。あまり王都にいることは少なかったですね」
「女騎士であればそのような勤務は拒否出来たのでは?」
「えぇ。ですが私は自ら志願して赴いていたので問題ないです。まぁ、一般的な伯爵令嬢とは違いますね」

王弟殿下は感心しているようで私の手は握られたままだ。

……どうしよう。困ったわ。

そんなに興奮するほどの話だったかしら。

私が若干戸惑っていると、執事らしき男の人が『お茶をどうぞ』と私に出してくれた。
私はやんわりと手を離してお茶を口に含んだ。

「とても良い香りですね。美味しいです」
「ありがとうございます。この茶葉は東部地方の山間部で採れる茶葉でこの時期しか味わえないものなのです」

東部地方なのか。お茶を飲みにそちらの方へ旅をしてもいいかもしれないなぁと漠然と考えた。

「そうだ、シャロア嬢はクロシューロルにいつ発つ予定なんだい? もし、よければ明日一緒に出掛けたいのだが。なんなら私がクロシューロルを案内してもいい」
「……坊ちゃま、そんなにグイグイ迫られるとシャロア様が引いてしまいます。シャロア様、クリフォード様が申し訳ありません。どうやらシャロア様のことをとても気に入ってしまったようです」
「こ、こらっ、じぃ。恥ずかしいじゃないか。黙っててくれっ」

先ほどまでの話し方とは違い、顔を真っ赤にしながら執事に話をしている。その様子を見て私もクスリと笑ってしまった。

「あー、もうっ。自分で言うつもりだったのに」

王弟殿下は私の方に向き直り、真剣な表情で口を開いた。

「シャロア嬢、エレナの街で君に助けられてからずっと気にかかっていたんだ。
腕を見込んで私の護衛として雇おうと思っていた。宿の主人から君が女だと言う事を知り、興味を持ったのは間違いない。
そして今日、君に会って一目で君を好きになった。こんなに美しい令嬢が襲撃者を倒したのだと改めて感動したんだ」

王弟殿下のストレートな言葉に今度はこっちが赤面する。

「褒めていただいたのはとても嬉しいです」
「どうか、私と婚約をしてほしい」

そして唐突の言葉。私は驚きを隠せないでいた。

「えっと、突然の事でどう言えばいいのか……ごめんなさい。私は二度も婚約が破断となり行き遅れた令嬢です。
この国に来た理由は療養のため。一度目の婚約破棄の時は誰とも結婚しないと心に決めて二年。
それでも良いと待ってくれていた男性がいました。私もようやく前向きになって彼と婚約し、結婚寸前で王家に婚約無効にされました。
その後、王命を使い、無理やり婚姻させられそうになってこの国に逃げてきました。
もう結婚には懲り懲りなのです。このまま一人で生きていこうと思っています」

「……そうか。そんな過去があるとも知らず、すまなかった」
「いえ、私の方こそ殿下のご好意を無下にしてしまい申し訳ありません」
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