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「両親は学校からの連絡に何も言わなかったんですか?」
「母は口煩く怒っていた。確かその日はあいつがたまたま早く帰ってきていて母が先生に呼び出されたという話題になった時、あいつはゆかりの頭を殴っていた」
あいつ? あいつという言葉に引っ掛かりを覚える。
「あいつとは?」
「ああ、俺の父親だ」
父をあいつ呼びするほど嫌っているのだろう。
「殴っていた? よく暴力を振るっていたんですか?」
「ああ、そうだ。あいつは滅多に帰ってこないくせに俺もしょっちゅう殴られたな。ゆかりはよく口を切ったり、あざができたりしていた」
「問題にはならなかったんですか?」
「さあ? 先生達は俺がやったとでも思っていたんじゃないか? 俺も兄弟喧嘩でゆかりの頭に物で殴っていたから」
「激しい兄妹喧嘩だったんですね」
「まあ、普段から夫婦喧嘩を見ていればそれが当然だと思っても仕方がない」
「お母さんは父親が子供に手を挙げるのを止めなかったんですか?」
「止めはしなかったな。あいつの暴力を止められるのは俺だけだろうしな」
「学校では問題にならなかった?」
「母の方はのらりくらりと躱していたな。あいつに殴られて血が出た時は母も不味いと思ったのか学校を二日位熱で休むって学校に連絡していた」
「お母さんは叩かなかったんです?」
「母は気分で突然キレて怒りはするが、叩かれた記憶はない。
抱っこされた記憶もないが。ゆかりは保育園の時に保育士に言われたのか母が強請られれば膝に乗せてはいたが、その程度だった。
たまにいる父にべたべたと常にくっついて回り、父によく叩かれていたな」
「お父さんはあまり育児に協力的ではなかったんですね。叩く以外で何かありますか?」
「そもそも夜は仕事で遅かったから接点は少ないな。浮気相手のところにでも行っていたんだろう。
浮気相手と別れたのか気づけば早く帰ってきていた気もするが、俺はいつも部屋に籠りがちになっていたし、あいつを嫌っていたからよくわからない。
ああ、ただ、ゆかりはまだ父親に甘えたい衝動が残っていて母同様にずっと父にひっついて歩いていた。小学校の登校も父が付かないと暴れて玄関がぐちゃぐちゃになった時もあったな」
「お父さんの方はゆかりさんに優しかったんですか?」
「さあ? 仕方なくって感じじゃないか?言うことを聞かないと持っていたおもちゃで殴ったり、噛みついたりしていたしな」
土井正樹は何気なく話をしているが、一般的な家庭の形と土井家の家庭は大きく異なっているようだ。
暴力は家庭の中で許されていたのか。
初歩的な社会のルールも教えられていないと言うことは母親もまともではないんじゃないか。
「失礼だとは思うんですが、他の家庭の普通と土井さんの家庭の普通が違うような気がしますね」
「ああ、俺もそう思う。それについては本当に所長に感謝しかないな」
「所長というのは源研究所の所長さんですか?」
「そうだ。高校の友人から『お前は人と関わるより研究に没頭した方がいい』って言われて紹介して貰ったんだ。
友人は俺の身の上話を所長に話をしていて大学生の頃、よく研究所に連れて行ってもらい、入社までこぎつけた。
所長は親身に俺の話を聞いてくれ、本当なら両親が教えなければならない社会の決まりや身だしなみにいつも口煩いが、一つひとつ丁寧に教えてくれたおかげで今の俺がある。
両親から離れ、しっかりと教えられたことで俺の家が普通の家庭ではないことを知ったのは幸いだったな」
「そうだったんですね。ゆかりさんには良い友人に巡り合わなかったと……」
「そういう事だろう。俺もそうだが、ゆかりも人間としてどこか狂っているんだろうな。他に聞きたいことは?」
俺は家族のことが言いにくいだろうとマイルドな質問を考えていたんだが、正樹さんは気にすることなく聞いたことを全て話している。
その様子を見ても彼にはセンシティブというか、ナイーブな内容という考えは薄いのかもしれないな。
自分自身や相手に対しての距離感が取れていないのかもしれない。
「ありがとうございます。ゆかりさんのことで随分と周りから騒がれませんでしたか?」「そうだな。所長が防波堤になってくれたおかげで俺には被害は出ていないが、研究所には誹謗中傷が来ていたみたいだな」
「よく私の取材を受けてくれましたね」
「ああ、なんとなくだ。ゆかりと手紙のやりとりをしていると言っていたから。
今までそんな奴はいなかった。妹もはじめての手紙で喜んでいると思ったから。ただそれだけだ」
「ゆかりさんに面会や連絡は取っていないのですか?」
「取っていない。気にはなっていたが、今更俺が取ったところで妹は喜ばないだろう。母親のように執着や癇癪を起こしても困るからな。
それに俺から家族への連絡も大学に入学してから一度もない。これからも取るつもりもないな」
「そうなんですね」
「ああ、騒動が沈静化したら俺は名を変えるつもりだ。家族とは縁も切る。これは俺を支えてくれる友人や所長のためでもあるしな」
名を変えることを俺に言ってもいいのかとも思ったが、彼の中では問題ないものなのだろう。
俺はそのまま流すことにした。
ちょうど彼も食事を終えて取材を終わろうとした時、彼は思い出したように俺に聞いてきた。
「佐光さん、母にはもう取材したのか?」
「いえ、最後に取材しようかと思っています」
「……」
彼は何かを考えるように動きが止まった。
「……俺が言うことじゃないが、気を付けた方がいい」
「ご忠告ありがとうございます。そうだ! ゆかりさんからお兄ちゃん迷惑をかけてごめんなさいと伝えてほしいと言われていました」
最後に俺は土井ゆかりの言葉を伝えると、正樹さんは少し沈黙した後、「……そうか」とだけ答えた。
「母は口煩く怒っていた。確かその日はあいつがたまたま早く帰ってきていて母が先生に呼び出されたという話題になった時、あいつはゆかりの頭を殴っていた」
あいつ? あいつという言葉に引っ掛かりを覚える。
「あいつとは?」
「ああ、俺の父親だ」
父をあいつ呼びするほど嫌っているのだろう。
「殴っていた? よく暴力を振るっていたんですか?」
「ああ、そうだ。あいつは滅多に帰ってこないくせに俺もしょっちゅう殴られたな。ゆかりはよく口を切ったり、あざができたりしていた」
「問題にはならなかったんですか?」
「さあ? 先生達は俺がやったとでも思っていたんじゃないか? 俺も兄弟喧嘩でゆかりの頭に物で殴っていたから」
「激しい兄妹喧嘩だったんですね」
「まあ、普段から夫婦喧嘩を見ていればそれが当然だと思っても仕方がない」
「お母さんは父親が子供に手を挙げるのを止めなかったんですか?」
「止めはしなかったな。あいつの暴力を止められるのは俺だけだろうしな」
「学校では問題にならなかった?」
「母の方はのらりくらりと躱していたな。あいつに殴られて血が出た時は母も不味いと思ったのか学校を二日位熱で休むって学校に連絡していた」
「お母さんは叩かなかったんです?」
「母は気分で突然キレて怒りはするが、叩かれた記憶はない。
抱っこされた記憶もないが。ゆかりは保育園の時に保育士に言われたのか母が強請られれば膝に乗せてはいたが、その程度だった。
たまにいる父にべたべたと常にくっついて回り、父によく叩かれていたな」
「お父さんはあまり育児に協力的ではなかったんですね。叩く以外で何かありますか?」
「そもそも夜は仕事で遅かったから接点は少ないな。浮気相手のところにでも行っていたんだろう。
浮気相手と別れたのか気づけば早く帰ってきていた気もするが、俺はいつも部屋に籠りがちになっていたし、あいつを嫌っていたからよくわからない。
ああ、ただ、ゆかりはまだ父親に甘えたい衝動が残っていて母同様にずっと父にひっついて歩いていた。小学校の登校も父が付かないと暴れて玄関がぐちゃぐちゃになった時もあったな」
「お父さんの方はゆかりさんに優しかったんですか?」
「さあ? 仕方なくって感じじゃないか?言うことを聞かないと持っていたおもちゃで殴ったり、噛みついたりしていたしな」
土井正樹は何気なく話をしているが、一般的な家庭の形と土井家の家庭は大きく異なっているようだ。
暴力は家庭の中で許されていたのか。
初歩的な社会のルールも教えられていないと言うことは母親もまともではないんじゃないか。
「失礼だとは思うんですが、他の家庭の普通と土井さんの家庭の普通が違うような気がしますね」
「ああ、俺もそう思う。それについては本当に所長に感謝しかないな」
「所長というのは源研究所の所長さんですか?」
「そうだ。高校の友人から『お前は人と関わるより研究に没頭した方がいい』って言われて紹介して貰ったんだ。
友人は俺の身の上話を所長に話をしていて大学生の頃、よく研究所に連れて行ってもらい、入社までこぎつけた。
所長は親身に俺の話を聞いてくれ、本当なら両親が教えなければならない社会の決まりや身だしなみにいつも口煩いが、一つひとつ丁寧に教えてくれたおかげで今の俺がある。
両親から離れ、しっかりと教えられたことで俺の家が普通の家庭ではないことを知ったのは幸いだったな」
「そうだったんですね。ゆかりさんには良い友人に巡り合わなかったと……」
「そういう事だろう。俺もそうだが、ゆかりも人間としてどこか狂っているんだろうな。他に聞きたいことは?」
俺は家族のことが言いにくいだろうとマイルドな質問を考えていたんだが、正樹さんは気にすることなく聞いたことを全て話している。
その様子を見ても彼にはセンシティブというか、ナイーブな内容という考えは薄いのかもしれないな。
自分自身や相手に対しての距離感が取れていないのかもしれない。
「ありがとうございます。ゆかりさんのことで随分と周りから騒がれませんでしたか?」「そうだな。所長が防波堤になってくれたおかげで俺には被害は出ていないが、研究所には誹謗中傷が来ていたみたいだな」
「よく私の取材を受けてくれましたね」
「ああ、なんとなくだ。ゆかりと手紙のやりとりをしていると言っていたから。
今までそんな奴はいなかった。妹もはじめての手紙で喜んでいると思ったから。ただそれだけだ」
「ゆかりさんに面会や連絡は取っていないのですか?」
「取っていない。気にはなっていたが、今更俺が取ったところで妹は喜ばないだろう。母親のように執着や癇癪を起こしても困るからな。
それに俺から家族への連絡も大学に入学してから一度もない。これからも取るつもりもないな」
「そうなんですね」
「ああ、騒動が沈静化したら俺は名を変えるつもりだ。家族とは縁も切る。これは俺を支えてくれる友人や所長のためでもあるしな」
名を変えることを俺に言ってもいいのかとも思ったが、彼の中では問題ないものなのだろう。
俺はそのまま流すことにした。
ちょうど彼も食事を終えて取材を終わろうとした時、彼は思い出したように俺に聞いてきた。
「佐光さん、母にはもう取材したのか?」
「いえ、最後に取材しようかと思っています」
「……」
彼は何かを考えるように動きが止まった。
「……俺が言うことじゃないが、気を付けた方がいい」
「ご忠告ありがとうございます。そうだ! ゆかりさんからお兄ちゃん迷惑をかけてごめんなさいと伝えてほしいと言われていました」
最後に俺は土井ゆかりの言葉を伝えると、正樹さんは少し沈黙した後、「……そうか」とだけ答えた。
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