15 / 19
15
しおりを挟む
翌日、俺は久々に会社に出勤をし、会社に出ていなかった分の溜まった書類を片づけていく。
嫌がらせは特にないようだが、無言電話は何度かあるようだ。無言電話は日常茶飯事と言ってもいいので別に俺だけのせいではないだろう。
俺が何日も掛けて取材し、裏を取り、ようやく見開きの一ページの記事になる。
労力の割には合っていないと同僚達はいつも愚痴を溢しているが、俺は昔からいろんなことに興味があり、知りたいと追及してしまう癖がある。
そんな俺にとっては天職だと思っている。
「んじゃ、土井正樹の取材に行ってくるっす」
「佐光、気を付けろよ」
「了解っす」
上司は危なっかしい俺をいつも心配してそう声を掛けてくれている。
何をしでかすか分からない息子のような感じなんだろう。
いや、今の俺は問題児ではないんだが。新人の頃はセンシティブな話題など関係なく、聞きたいことを考えつくまま聞いて上司がどれだけ相手に謝って謝り倒したのか数はしれない。そう考えると成長したはずだ。
電車に乗り、質問の内容を考えながら待ち合わせ場所に向かった。
俺は指定された和食屋に入ると、仕切られた壁際の四人テーブルに既に彼は座って待っていた。
上司から貰った資料に付いていた写真の土井正樹は学生の写真で手入れされていない髪のまま映ったような感じの印象だった。
実際に会ってみると、学生の頃の特徴は残しているが、髪は短く整えられて細身だが服もカジュアルだが清潔さを感じる。
身長は俺より少し高いだろうか。
百七十後半といったところか。電話口の声も低く、出るところに出れば彼女の一人や二人いてもおかしくはない容姿をしている。
「土井正樹さんですか?」
「ああ。あなたが電話をくれた佐光さん?」
「はい。お受けしていただいてありがとうございます」
俺は向いの席に座り、店員が置いたお茶を口にし、珈琲と和菓子のセットを注文した。
彼はかつ丼とそばのセットを頼んでいたようで食べながら取材を受けてくれるようだ。
念のためにお互いの身分証を見せ本人か確認しておくのは忘れない。
「早速お聞きしたいんですがいいですか?」
「ああ、構わない。何でもいい」
「では、ゆかりさんはお兄さんから見てどのような妹さんでしたか?」
「ゆかりは可哀想なやつだと思っている。俺は今の所長に助けて貰ったが、ゆかりには助けてくれる奴はいなかったからな」
「助けてくれる? どういう家庭環境だったか教えてもらっても?」
「俺が実家にいたのは高校までだ。それ以降は一人暮らしをしていたから分からないがいいか?」
「ええ、もちろんです」
話を中断するように店員がお待たせしましたと持ってきたかつ丼のセットと珈琲を目の前に置いて立ち去る。
彼はかつ丼を食べながら話を始めた。
「母は癇癪持ちで少しのことでもイライラしてすぐに俺達を怒る人で、父はいつも夜遅くに帰ってきて週末は殆ど出かけているような人だった。
当時はあまり理解ができていなかったが、今思えば父は浮気をしていたのだと思う。
俺が小学校に上がる頃だったか。毎日夜遅くに父と母が喧嘩していた。
俺とゆかりは一緒に寝ていたんだが、いつも夜中の喧嘩で目が覚めて二人の喧嘩が終わるのをじっと耐えていたな。
母はというと物をよく投げていた。父の携帯だったり、本だったり。酷い時は朝、リビングは足の踏み場もないほど物が散乱していた」
「ずっと喧嘩が続いていたんですか?」
「いや、いつ頃からか治まりはしたが、両親は会話がない状態だった。俺がしゃべれば俺を通して相手に聞く、答えるという形だったな」
彼は当たり前のような顔をしてかつ丼を食べながら話しているが、子供なりに親に気を遣う生活だったんだろう。
「俺は当時その雰囲気が嫌で嫌で毎日逃げ出したいと思っていた。うちはいっつも母が怒っていて父は無関心だった。
きっと物心がつく前からそんなんだったんだろうな。普通の親であれば子供が可愛くて仕方がないんだろ? 俺達兄妹はいつも怒られ、何かを教えてもらったという記憶がない。
だから俺にはルールという物があまり分からないんだ。ゆかりも同じようなもんだ」
「ルールが分からないとは?」
「例えば、順番に並ぶ、人の物を取ったり壊したりしてはいけない。子供が最初に親から教えられる約束事ってやつだな。
幼い頃から母から理不尽に怒られていた気がするが、教えて貰った、抱きしめてもらった、絵本を読んでもらったという記憶はほぼない。
そのせいか俺は対人関係が得意ではないし、空気が読めない。その上、社会で生きていくためのルールも知らなかった。一歩間違えば俺もゆかりと同じようになっていたんだろうな」
「中学校や高校の時はどう過ごしていたんですか?」
「中学校に入ってからはとにかく人に何か指図されるのが嫌で最低限の会話しかしていない。勉強も先生から貰った宿題をするだけだった」
「友達はどうだったんです?」
「さあな? 俺に友達よ呼べるやつはいなかった。まあ、俺は散々小学校の時に先生や周りに迷惑を掛けていたからな。
高校は中学の同級生が殆どいない学校だったが、何故かみんなは俺に話しかけてこなかった。高校二年の頃に同じ趣味のやつが二人ほどいて俺の友達になってくれた。
今でも二人とは連絡は取っている。俺はあいつらにも助けられている。今もな」
「ゆかりさんはどうだったんですか?」
「ゆかりは俺より先生に呼ばれることは少なかったが、友達、特に女子からは嫌われていたように見えた。
まあ、ミミズを一杯手に持ったやつが顔に投げつけてきたら普通に嫌だろ」
俺はつい想像してしまった。確かに嫌だろう。
男の俺でも嫌なんだから女の子なら泣くほどだろうな。
嫌がらせは特にないようだが、無言電話は何度かあるようだ。無言電話は日常茶飯事と言ってもいいので別に俺だけのせいではないだろう。
俺が何日も掛けて取材し、裏を取り、ようやく見開きの一ページの記事になる。
労力の割には合っていないと同僚達はいつも愚痴を溢しているが、俺は昔からいろんなことに興味があり、知りたいと追及してしまう癖がある。
そんな俺にとっては天職だと思っている。
「んじゃ、土井正樹の取材に行ってくるっす」
「佐光、気を付けろよ」
「了解っす」
上司は危なっかしい俺をいつも心配してそう声を掛けてくれている。
何をしでかすか分からない息子のような感じなんだろう。
いや、今の俺は問題児ではないんだが。新人の頃はセンシティブな話題など関係なく、聞きたいことを考えつくまま聞いて上司がどれだけ相手に謝って謝り倒したのか数はしれない。そう考えると成長したはずだ。
電車に乗り、質問の内容を考えながら待ち合わせ場所に向かった。
俺は指定された和食屋に入ると、仕切られた壁際の四人テーブルに既に彼は座って待っていた。
上司から貰った資料に付いていた写真の土井正樹は学生の写真で手入れされていない髪のまま映ったような感じの印象だった。
実際に会ってみると、学生の頃の特徴は残しているが、髪は短く整えられて細身だが服もカジュアルだが清潔さを感じる。
身長は俺より少し高いだろうか。
百七十後半といったところか。電話口の声も低く、出るところに出れば彼女の一人や二人いてもおかしくはない容姿をしている。
「土井正樹さんですか?」
「ああ。あなたが電話をくれた佐光さん?」
「はい。お受けしていただいてありがとうございます」
俺は向いの席に座り、店員が置いたお茶を口にし、珈琲と和菓子のセットを注文した。
彼はかつ丼とそばのセットを頼んでいたようで食べながら取材を受けてくれるようだ。
念のためにお互いの身分証を見せ本人か確認しておくのは忘れない。
「早速お聞きしたいんですがいいですか?」
「ああ、構わない。何でもいい」
「では、ゆかりさんはお兄さんから見てどのような妹さんでしたか?」
「ゆかりは可哀想なやつだと思っている。俺は今の所長に助けて貰ったが、ゆかりには助けてくれる奴はいなかったからな」
「助けてくれる? どういう家庭環境だったか教えてもらっても?」
「俺が実家にいたのは高校までだ。それ以降は一人暮らしをしていたから分からないがいいか?」
「ええ、もちろんです」
話を中断するように店員がお待たせしましたと持ってきたかつ丼のセットと珈琲を目の前に置いて立ち去る。
彼はかつ丼を食べながら話を始めた。
「母は癇癪持ちで少しのことでもイライラしてすぐに俺達を怒る人で、父はいつも夜遅くに帰ってきて週末は殆ど出かけているような人だった。
当時はあまり理解ができていなかったが、今思えば父は浮気をしていたのだと思う。
俺が小学校に上がる頃だったか。毎日夜遅くに父と母が喧嘩していた。
俺とゆかりは一緒に寝ていたんだが、いつも夜中の喧嘩で目が覚めて二人の喧嘩が終わるのをじっと耐えていたな。
母はというと物をよく投げていた。父の携帯だったり、本だったり。酷い時は朝、リビングは足の踏み場もないほど物が散乱していた」
「ずっと喧嘩が続いていたんですか?」
「いや、いつ頃からか治まりはしたが、両親は会話がない状態だった。俺がしゃべれば俺を通して相手に聞く、答えるという形だったな」
彼は当たり前のような顔をしてかつ丼を食べながら話しているが、子供なりに親に気を遣う生活だったんだろう。
「俺は当時その雰囲気が嫌で嫌で毎日逃げ出したいと思っていた。うちはいっつも母が怒っていて父は無関心だった。
きっと物心がつく前からそんなんだったんだろうな。普通の親であれば子供が可愛くて仕方がないんだろ? 俺達兄妹はいつも怒られ、何かを教えてもらったという記憶がない。
だから俺にはルールという物があまり分からないんだ。ゆかりも同じようなもんだ」
「ルールが分からないとは?」
「例えば、順番に並ぶ、人の物を取ったり壊したりしてはいけない。子供が最初に親から教えられる約束事ってやつだな。
幼い頃から母から理不尽に怒られていた気がするが、教えて貰った、抱きしめてもらった、絵本を読んでもらったという記憶はほぼない。
そのせいか俺は対人関係が得意ではないし、空気が読めない。その上、社会で生きていくためのルールも知らなかった。一歩間違えば俺もゆかりと同じようになっていたんだろうな」
「中学校や高校の時はどう過ごしていたんですか?」
「中学校に入ってからはとにかく人に何か指図されるのが嫌で最低限の会話しかしていない。勉強も先生から貰った宿題をするだけだった」
「友達はどうだったんです?」
「さあな? 俺に友達よ呼べるやつはいなかった。まあ、俺は散々小学校の時に先生や周りに迷惑を掛けていたからな。
高校は中学の同級生が殆どいない学校だったが、何故かみんなは俺に話しかけてこなかった。高校二年の頃に同じ趣味のやつが二人ほどいて俺の友達になってくれた。
今でも二人とは連絡は取っている。俺はあいつらにも助けられている。今もな」
「ゆかりさんはどうだったんですか?」
「ゆかりは俺より先生に呼ばれることは少なかったが、友達、特に女子からは嫌われていたように見えた。
まあ、ミミズを一杯手に持ったやつが顔に投げつけてきたら普通に嫌だろ」
俺はつい想像してしまった。確かに嫌だろう。
男の俺でも嫌なんだから女の子なら泣くほどだろうな。
2
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる