最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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3 クロエの過去2

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 どれくらい歩いたか分からないけど、遠くから川の流れる音が聞こえてきた。

 私は喉の渇きと空腹でふらふらしながら、川の音に導かれるように歩いていた。

 ……ようやく川に着いた。

 私はそのまま跪き、川の水を手で汲んで口に運ぶ。

「美味しい!!」

 口を直接川につけ、無心に飲み続けた。全身に水が染みわたった。

 満足するまで水を飲むと、周りを見る余裕もようやく出てきた。

 ここの川の水は綺麗で魚も見えている。でもどうやったら捕まえられるのかな。

 石で囲って投げれば捕まえられるかもしれない。そう思い立ち、石を川べりに並べて魚を誘いこもうとするけれどなかなか上手くいかなかった。

 ……どうしよう。これじゃ食べ物にありつけない。

 とりあえず、あの人は私を『臭い』って言っていたし、川に入って身体を洗おうかな。

 逃げ出した時は足が血だらけだったけど、走ってできた足の傷はいつの間にか消え、問題なく川に入れた。

 着ていた服を置いて川に入り、浸かって身体の汚れを落とそうと手でごしごしと丁寧に擦りはじめた。

 髪の毛は絡まり、元には戻せそうになかった。何か鋭い物があれば髪の毛を切れるのにな。そう思いながら手で強く擦り、汚れを洗い落としていく。

 長くお風呂に入っていなかったせいか、皮のような垢がぼろぼろ剥がれ落ちた。

 ……ようやくすっきりした。

 時間は掛かったけど、身体は綺麗になった。ワンピースを洗ってその辺の石の上に干した。

 気づけば太陽は真上に来ていた。

「魚は捕れないし、何か木の実でも落ちていないかな」

 川の周りを探し周ると、クルミがいくつも落ちていた。

「たしかクルミって季節じゃなかった気がするんだけど、ま、いっか」

 私はクルミを手で割り、無我夢中で食べる。

 久々に食べるクルミはとても美味しくて一杯食べたの。お腹いっぱいになるまで食べたところで眠気に襲われ、またウトウトと眠り始めた。

「見つけ……エ、クロ……」

 夢うつつに聞こえてくる懐かしい声。
 誰かが私を呼ぶ声がする……?

「……おい」

 目を擦りながら目を覚ますと目の前には白髪の長いひげを蓄えた老人が立っていた。

 私はその老人と目が合うと、懐かしさと『見つけてくれた』という感情が心に湧いた。

 ……初対面の人なのにおかしいよね。

 そんな感覚がしたのは一瞬だけだった。

 !? 

 よく考えたらこんな森の中で人に会うなんて思ってもいなかったから何も着ずに寝ていたのだ。私は自分の今の恰好を思い出し、慌てて石の上に乾かしていた服を取り、服を着た。

 老人は気にした様子はなかったが、私を物珍しそうに観察した後、また声を掛けてきた。

 老人は私の目の前に来て、顔を見つめてきた後、何かを確かめているようだった。

 なんだろう?

 不思議に思いながらじっと老人を見つめ返す。

「お前の名は?」
「……」
「名がないのか。では、儂が名づけてやろう。今日からお前はクロエだ」

 ―そう、この瞬間から私の名前はクロエとなった。

「……クロエ?」
「ああそうだ。お前は今からクロエだ。いい名だろう?」

 本当は『シャル』と言おうと思ったけれど、思い直して言わなかった。

 だって両親以外に誰も私の名を呼んでくれる人はいなかったもの。

 それに父さんも母さんからも私の名前なんて何年も呼ばれていなかった。

 そんな名前、もう要らないと思ったから。この老人は私のことを見ても忌み子だと少しも嫌がる素振りがない。信用するわけじゃないけど、悪い人ではなさそう。

「おじいさん、私、おじいさんの奴隷になるの?」
「奴隷? ああ、忌み子と言われてどこかの村か町から排除されたのか。今日からお前は私の弟子だ。そろそろ弟子が欲しいと思っておったのだ」
「弟子?」

「クロエは優秀な魔法使いの卵だ。生きている間に見つけられて良かったわい。まあ、なんだ。詳しい話は家に戻ってから話す。クロエ、こっちへこい」

 おじいさんは私を手招きした。

 私は行くあてもないし、おじいさんは悪い人ではなさそうなので私は付いていくことにした。

 おじいさんは私の肩に手を当て、何かを呟いた瞬間に眩しい光に目を覆われ、私は思わず目を閉じた。

「クロエ、もう目を開けていいぞ」

 おじいさんの言葉で目を開くと、そこは先ほどいた川と違ってどうみても木の家の中だった。

 一瞬でおじいさんの家に入ったの?

 驚きのあまり周りを見渡していると、おじいさんはゆっくりと椅子に腰を掛けた。


「……ここは?」
「私の家だ」

 右手には大きな窯があり、棚には瓶がずらりと並んでいた。左手にはテーブルや椅子が置かれ、客人用のソファも置かれている。そして部屋は薬草の香りがし、どことなく懐かしい感覚になる。

「……懐かしい匂い。おじいさんは誰?」

 私は立ったままおじいさんに聞いてみた。

「そうか」

 私がそう言うとおじいさんはふっと笑みを浮かべた。

「私の名はユーグだ。ユーグ・イグナーツ・フュルヒテゴット・ヴィンツェンツという。この世界の大魔法使いと呼ばれている。これからはユーグ師匠と呼ぶんだぞ」
「……大魔法使い?」
「ああ。貴族たちはみな魔法が使えることを知っているか?」
「ううん」

 私は人々が多く行き交う町にはすんでいたけれど、ほとんど家から出ることがなかったからユーグ師匠の言っていることが全く理解できなかった。

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