最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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7ユーグの記憶 決断

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「父上、私は王族から離籍し、魔法使いの道に入ります」
「前にも言っていたな。お前ならいい領主になるだろう。弟達を支えていこうとは思わんのか?」

 前回はサロンでの話し合いだったが、今回は国王陛下の執務室だった。

 陛下とユーグ師匠の二人で話をしている。

「父上、私は幼い頃より良き国王になるためだけに育てられてきました。一部の者たちは私のことを人形だと話をしているようです。

 私はやりたいこと、望んだことをずっと抑えられながら生きてきたせいか、人の機微がよくわかりません。レーシェル嬢はそんな私に嫌気がさしたのだと思います。

 きっと私では王の器には成りえない。弟たちを支えることも難しいと思います」

「だが、お前ほど優秀な者が魔法使いとなるのは……。」

 陛下はユーグ師匠の言葉に感じる部分があるようで言葉を濁してしまった。

「元王族の魔法使いはたくさんいます。サーデル叔父さんも元は第三王子です。私が魔法使いになることに問題はありません。王位を巡って兄弟で争うより良いではありませんか」
「……そうか。そう、だな」

「レーシェル嬢のためにも早めに手続きをした方がいい。彼女は早くシュティルと結婚したいと言っていましたし、シュティルと争っていると思われればそこに付けこむ貴族もいる。足元を見られないためにも早く手続きをおこなって下さい」

「……ユーグ、お前は本当にそれで良いのだな?」
「構いません」

 陛下は苦渋の決断をしようとしているのかもしれない。

 その表情は渋く、腕を組み考え込んでいる。

 外は風が強く吹いていて、窓はガタガタと鳴っていた。

 陛下はうなずき、声を落とした。

「分かった。ではサーデルのところへ向かってくれ」
「畏まりました」

 ユーグ師匠はそう言うと、臣下の礼を執った。

「父上、ご英断ありがとうございます。では失礼します」


 ユーグ師匠は陛下の執務室を出たその足で王宮魔法使い総団長室の扉を開くと、そこには一人の男が机に向かっていた。

 ふわりと室内のカーテンが揺れた。

「サーデル魔法使い総団長、少しいいかな?」

 師匠がそう言うと、彼は立ち上がり、臣下の礼を執る。

「ユーグ様、突然いかがなさいましたか?」

 師匠は従者に下がるように指示をして一人掛けのソファへと座った。

「サーデル叔父さん、私を弟子にしてください」

 サーデル様は手を止め、一瞬驚き、やがて笑い出した。

「ユーグ、突然どうしたんだ? 王太子を降りることにしたのか?」
「ええ。婚約者のレーシェル嬢は弟のシュティルを望んだのです」

「……シュティルを選んだのか、馬鹿な令嬢だな。陛下はユーグがここにくることを了承したんだな?」
「はい。国内を安定させるには認めざるを得ないでしょう」

「全くもって祖父が横暴な政治をするから孫やひ孫に迷惑がかかるんだ。いつまでも貴族の力が強いのは良くないのだがな」
「シュティルなら上手くやっていけるでしょう」
「レーシェルは気が強いし、シュティルは八方美人なところがあるからどこかでぶつかるだろうな」

「シュティルなら私よりも貴族と上手くやっていける」
「どうだろうな。で、ユーグはいつからここへ来るんだ?」

「王太子の執務をシュティルに引き継げば毎日来られるので、半年後というところですね」
「あいつは王太子教育も同時に受けなければならないからな。それくらいか。ユーグは魔法使いになってやりたいことはあるか?」

「……正直、わからないのです。自分が何をやりたいのか、何に向いているのか、これからどうしたいのかも」
「仕方がない。祖父のようにならないための教育がユーグには行われていたのだからな」

 ユーグ師匠の曾祖父は国が傾くほどの混乱を引き起こしたのかもしれない。

「サーデル叔父さん、私は魔法使いに向いているでしょうか」
「さあな。向いているんじゃないか? 国一番の魔力を持ち、知識もある。平民はなりたくてもなれない。魔法使いや魔女なんてごく一部しかなりたいと思ってもなれないからな」

「……そうですね」
「まあ、なんだ。悩み続ければいいさ。そのうち自分というものを理解できるだろう。思っていた道が違ったならまた別の道を模索するだけだろ」
「はい」

 サーデル魔法使い総団長と話をした後、ユーグ師匠は自分の執務室へと戻った。


 ユーグ師匠は自分のこれからのことについて悩んでいたんだ。彼は自分自身と向き合おうとしている。

 私はどうだろう。

 生きるのに必死でそんなことを考えたことはなかった。
 これから私も同じように悩むのかな。



 この数日後の国の行事で、ユーグ師匠が王太子の地位を降りることが発表され、同時にサーデル魔法使い総団長の弟子として魔法使いになることも発表された。


「ユーグ兄さん、私にはやっぱり向いていないんだと思う」
「どうしたんだ、シュティル。シュティルが弱音を吐くなんて珍しいな」

 王太子になったシュティル殿下がユーグ師匠のいる部屋を訪れた。

 彼は二人掛けのソファへと勢いよく座り、そのまま寝転がるように足を伸ばした。

「貴族たちは自分のことばっかりだし、レーシェルは毎回お茶を飲もうだの買い物へいこうだのと執務の邪魔をしてくる。兄さんは凄いよ。これをずっと黙ってやっていたんだろう?」

「シュティルは上手くやっていると宰相も言っていた。私なんかよりもずっと適任だ」
「レーシェルは可愛いけど、気が強いし、口煩い。もっとおしとやかな令嬢が良かったな」

「私の前ならいくらでも愚痴を吐くといい。レーシェルの前では笑顔でいたほうが賢明だ」
「分かってはいるさ。兄さんの前でしか言えないことくらい。兄さん、本当に魔法使いになるの?」

「とりあえず生きていくにはそれが一番良いのだろうと思っている」
「……兄さん。わた、僕は兄さんが王太子に一番相応しいと思っている。幼い頃からも、王太子を交代した今でも。

 あの両親だし、兄さんのために集められたあの教師たちも酷いもんだ。よく兄さんがここまで堪えられたと思う。

 レーシェルは本当になーんにも分かっていないし。マーシュは無関心。カイザーは馬鹿だし」

「シュティル、あまり無理はするな」
「僕は大丈夫さ」

 シュティル王太子殿下は愚痴を吐き、すっきりとした顔をして立ち上がり、何事もなく部屋を後にした。
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