最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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14 ユーグの記憶 師匠の死

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 ユーグ師匠はというと、サーデル様に転移の仕方を教えてもらった後、一人魔女の村へ向かい、サティアさんのもとを訪ねていた。

「おや、あんたはエルティーヌの弟子じゃないか。どうしたんだい?」
「……エティ師匠の呪いについて教えて欲しいんです」

「聞いてどうするんだ。呪いを解く方法はない」
「でも、どんな呪いだったかを知れば対策もできるし、僕が死ぬまでの間に解く方法だって見つかるかもしれない」

 サティアさんは言葉に詰まった。そして真剣な表情でゆっくりと口を開いた。

「そこへお座り。黒髪のあの女に掛けられていた魔法は死を振りまくものだった。症状は近づく者の皮膚が徐々に黒くなっていく。それと同時に咳と熱が出る。最後は呼吸ができなくなる。この呪いを受けてからそうだね、ひと月ほどか。大体それくらいで死を迎える。

 症状を見る限り、疫病のようなもんだ。呪いはきっと流行病を基にして作られているんだろう。厄介なのは魔力を使い拡散する力を持っていることなんだ。

 黒髪の女は魔力が豊富だった。その分症状も拡散力も強い。エルティーヌが自ら呪いを掛けて黒髪の女の呪いを吸い取り、封印したのはそれしか方法がなかったからだ。

 これ以上、エルティーヌを苦しめてやるな。最後は彼女が希望するようにしてあげるんだよ」

「サティアさん、病気を基にしていると言っていたんですが、病気の治療法が見つかれば対処できるんですか?」
「……難しいね。病を治療するのは薬だが、呪いには魔力が関わっている。魔力で病が強毒化したものを薬だけでは治療することができない。それに薬があったとしても進行が早くて身体が保たないんだ」
「そうなんですね」

 ユーグ師匠は呪いを解く難しさを知り、表情は暗く沈んでいく。

「だが、お前さんはまだ若い。死ぬまでに解呪できる方法を見つければいい。そうやって代々魔女は受け継がれてきたんだからね」
「知識の継承、ですか?」
「ああ、そうだ」

 この時のユーグ師匠は知識としてはあったのかもしれないけれど、いまいち実感は湧いていないようだ。

「魔女が亡くなった時、残された魔女は亡くなった魔女の身体を取り込む。そうして知識の継承を行う。お前もエルティーヌの知識を取り込むんだ。それが彼女への敬意だ」
「それは呪いを受けた身であっても問題ないのですか?」

「ああ、問題ない。特殊な呪い以外は死ねば呪いは解かれる。大方の魔女は迷信を信じていて嫌うがね」
「でも、知識の継承の仕方を知りません」

「ああ、それもそうだろう。サーデルは知っているかもしれないね。お前さんには教えておいてやろう」

 サティアさんはそう言って魔法紙を取り出し、詠唱と魔法円を書き出した。

 ユーグ師匠は言葉を発することなく真剣に書き込まれていく紙をみている。

 ……よく見ると、私が教えてもらった詠唱と魔法円はかなり違うようだ。

 もしかして、私が使った詠唱と魔法円はユーグ師匠が手を加えたものなのかもしれない。

 ユーグ師匠は大魔法使いと言われていたし、魔法円を書き換えることは可能だろう。

 そうしてサティさんに教えてもらった紙を大切に鞄へしまった。

「……もし、エティ師匠が亡くなったらサティさんにお知らせすればいいですか?」
「ああ、一報をくれるだけでいい。私も年だ。継承はしなくていい。村のみんなにも必要ない。彼らは呪いを嫌っているからね」
「わかりました」

 ユーグ師匠は力なく応えている。

「あまり自分を責めるんじゃないよ。お前さんならエルティーヌを越えることができるさ」
「……はい」

 こうしてユーグ師匠は魔女の村を離れた。

 サティアさんの話を聞いてからのユーグ師匠の考えは変わったようだ。今まで真面目に魔法を勉強していたけれど、さらに打ち込むようになっていった。特に呪いに対して重点を置いて調べている。

 クロエディッタはエティ師匠の下、ようやく魔女の基礎が身についてきた頃……。

『ユーグさんっ! エティ師匠がっ』

 クロエディッタから突然一報があった。

 サーデル様と共に王宮で仕事をしていたユーグ師匠はすぐにエティ師匠の元へと向かった。



 二人は転移してすぐに家の扉を勢いよく開けると、エティ師匠の姿が目に飛び込んできた。

「煩いねぇ。静かにおし。扉が壊れるじゃないか」

 エティ師匠は文句を言いっているが、その声は弱々しい。

 ベッドで横になっている姿は既に黒い模様で覆いつくされている。その隣でクロエディッタは涙を流しながら手を握っている。

「エティ師匠」

 二人は師匠の前に立った。

 エティ師匠の呪いは徐々に黒い模様が身体を覆っていくのだが、既に顔や手など見える部分は全て黒い模様に覆いつくされ、呪いの強さを物語っている。

「お前たち、最後に来てくれたんだね。私は弟子に囲まれて幸せだ。サーデル、後のことは頼んだよ」
「……もちろんですよ。エルティーヌ師匠」


 それからすぐにエティ師匠は徐々に呼吸が浅くなり、彼女は弟子に見守られながらゆっくりと息を引き取った。

 先ほどまで黒い模様で覆いつくされていた師匠の身体は徐々に元に戻っていった。


 呪いから解放されたエティ師匠はとても安らかな顔をしていた。
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