最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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13 ユーグの記憶 慌ただしい引っ越し

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 サーデル様が連れてきたこの家は確かに周囲に結界が張られ、家自体にも魔力を流すと勝手に修復する機能が備わっている。

 もちろん家の裏手には大きな薬草畑が存在していて寸分変わらぬ様子だ。

 ユーグ師匠もクロエディッタと家の中に入り、浮かせて持っていた荷物を置き始めた。

「エティ師匠、これはどうすればいいですか?」
「ああ、ここへ置いて」
「クロエディッタ、お前さんの部屋はこっちを使っておくれ」
「はい」

 サーデル様も手伝いながら慌ただしい引っ越しも一段落する。

「そろそろ戻ります。ユーグ、行くぞ。ではエティ師匠。なにかあればすぐに連絡して下さい。クロエディッタ、師匠を頼む」
「ああ、助かるさね。ユーグ、しっかり勉強するんだよ」
「はい」

 ユーグ師匠はサーデル様と転移し、王宮の魔法使いがいる塔へと戻ってきた。

 ユーグ師匠は数年ぶりに見る景色に、どこかなつかしさを覚えているような感じだ。

 サーデル様の執務室に入り、椅子へと腰かける。ユーグ師匠も向いのソファへと座った。

「さて、ユーグ。エティ師匠が何故ああなったのか聞いてもいいか?」

 ユーグ師匠はサーデル様に魔女の村であった出来事を細かく説明する。すると、サーデル様の眉間の皺は深くなっていく。

「誰かが魔女の村を無くすためにやったのか」

 そう呟きながら机の上に置いてあったいくつかの書類を浮かせて目を通す。

「サーデル師匠、あのクロエディッタに掛けられていた呪いって……」
「さあな。エティ師匠やサティアさんなら呪いを見て分かるだろうが、俺は見てないからな。だがな、エティ師匠が自ら身体の中に封印しなければならないほどのものだ。ちょっとやそっとのものではないはずだ」
「……」

「まあ、そんなに心配するんじゃない。要は師匠が死ぬ前に手を打てばいいんだ」
「そんなことができるんですか?」
「対処法はあるはずだ」

「ユーグ。まず、呪いを理解しているか?」
「理解、ですか? 分かりません」
「厄災を振り撒くような呪いはな、時間をかけて魔力を依り代になるものに流し込み、使用する。依り代に描かれた術により魔力が変質し、厄災となる。それが全ての元になっているんだ」

「では魔力を無くせばいいのですね?」
「簡単にはそうなんだが、実際は難しい。ただ魔力を使えなくするだけなら大罪の水で十分だが、依り代に時間を掛けて流し込んだ魔力には効かない。そこをどうするか、だ」

 ユーグ師匠はその言葉に思考を巡らせていく。

 私の持っている知識では、解呪の魔法が無くはないが、魔法使いの技量や呪いの種類によっては使えない。

 クロエディッタが受けた呪いは、魔女や魔法使いを殺すために作られた呪いなのだろう。

 一般に出回っているような解呪の魔法は使えないはずだ。

「サティアさんがエティ師匠を調べていたし、詳しく聞けると思います」

 ユーグ師匠は解決の方法が見つかるかもしれないと希望を抱いたように言うと、サーデル様は反対に渋い表情になった。

「……そうか。サティアさんが調べていたのか。なら、諦めろ」
「なぜですか?」
「エティ師匠の次に力のあるサティアさんがエティ師匠を見送ったんだ。彼女は理解した上で、だ」

「そんな」
「ユーグ、エティ師匠に残された時間は僅かだ。私たちができることは少ない。なるべくお前はエティ師匠のところへ行ってやってくれ」
「はい」

 そこからユーグ師匠はサーデル様の下でまた勉強を始めた。

 二年という月日は令嬢たちにとっては大きいものだったようでユーグ師匠は以前のように声を掛けられることはほとんどなくなっていた。

 そしてサーデル様から転移の魔法を教えてもらい、忙しいサーデル様の代わりに二、三日に一度エティ師匠の元へ顔を出していた。

 クロエディッタは大人しい女性だと思っていたけれど、師匠と生活しているうちに明るさを取り戻していった。

 そしてぽつぽつと身の上話を始めた。

 彼女は私と同じような環境で生まれ、人々から迫害されてきたようだ。ただ違ったのは妹が生まれても私とは違い家族の仲はよかったみたい。

 ある日、知らない貴族らしき人が家にやってきた。

 騎士が妹に剣を向けて人質に取り、クロエディッタを捕まえたらしい。そしてどこかの部屋に閉じ込められて何かの実験をずっとされていたのだとか。

 クロエディッタに何度も呪いをかけてから魔女の村へと連れてこられたようだ。

 クロエディッタは、エティ師匠の命を犠牲に助けられたことを悔やみ、心を痛め、よくユーグ師匠に吐露していた。

「クロエディッタ、過ぎたことを後悔するのなら今を懸命に生きな。お前さんに残された時間はまだ沢山ある。魔力を持っているんだ。覚えることは山のようにある。泣くんじゃない。泣く暇があれば手を動かせ。覚えるのさ」

 エティ師匠はいつもクロエディッタを叱咤しながらも温かい愛情を持って接しているのがわかる。
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